第13話 魔法の光

 その夜、私は一人で屋上に上がり、師匠の天文台で星を見ていた。ユキさんのログハウスで暮らす間に、晴れた夜には天体観測をするのが習慣になっていた。以前、ユキさんはこんなことを言っていた。

「天文の知識を増やすことは、魔法使いとしての力を強くすることにもなるの」

その後、数秒間、私の様子を観察してから、

「諸説あり」

そう言って微笑んだ。

 ユキさんからは、星の名前や、星に関するギリシア神話など、占いに役立ちそうなことをたくさん教えてもらった。また、それだけでなく、科学としての天文の知識も色々と授けてもらうことが出来た。天体望遠鏡の操作の仕方なども、それらの重要な知識の一つだった。

 肉眼で見ることのできない、星雲、星団を望遠鏡の視野に入れるのは、とても難しい作業だ。いや、木星のようなとても明るい星でさえも、巨大な望遠鏡で捉えるには、かなりのこつがいるものである。

 今、師匠の望遠鏡の視野の中には、彗星が入っていた。ぼんやりとした緑色の光の横に短い尾のようなものが見えた。

「そのペンダント。妖精の石の中に星見さんは、いるんだ」

彗星の淡い光を見ながら、そう言った時の、師匠の顔を思い出していた。私がユキさんの元で修行をしていた数日の間に、師匠は、星見さんについて、調べてくれたらしい。

「星見さんがいなくなった夜。ひどい嵐の中で、星見さんは何か強大な魔法を使おうとした。そしておそらくちょっとしたミスがあったのだろう。妖精の石に捕らえられてしまったんだ」

 彗星は、いつの間にか、望遠鏡の視野から外へ出て行ってしまった。天体の日周運動に合わせて望遠鏡を動かす必要がある。そうしないと、一つの天体を見続けることはできない。いなくなった彗星を追いかけながら、私は別の事を考えていた。そういえば以前ユキさんは言っていたっけ。妖精の石は悪魔を封じ込めるために作られたって。それから。そうだ。それだけじゃなくて、他にも使い方があるって。きっと、星見さんの魔法の書には、妖精の石の使い方が書いてあるんだ。

「で、おそらく星見さんと入れ替わりで、封印されていた悪魔がでてきちゃったんだ。悪魔は、星見さんの魔法の書を持って逃げた。今は、とんがり山の中腹で、暮らしている」

 とんがり山には天候を操る悪魔がいる。ユキさんはそう言っていた。もともと星見さんは天気予報が得意だった。だから星見さんの魔法の書を引き継いだ悪魔は、天候の悪魔になったのだ。

「今の話は、想像なんだけど、一応、根拠はあるんだ」

師匠は言った。

「僕の想像が当たっているか、はずれているか。ユキさんに占ってもらった。答えはイエス。当たっていた」

 再び、視野の中に彗星を捉えるまでに、だいぶ時間がかかった。考え事をしながらの望遠鏡の操作はなかなかうまくいかない。

「いいかい。焦っちゃダメだ。ゆっくりと星見さんを助ける方法を考えよう」

最後に、師匠はそう言って夕食の席を立った。


 星見さん。

 ペンダントに話しかけても、何も返事は帰ってこない。私はどうしたら良いか教えてください。そんな声を無意識のうちに出していた。

 その時だった。

 私のタロットカードが、机の上で白い光を放って輝いた。これが、魔法の光であることはすぐにわかった。

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