第4話 シラサギさん

 こうして、魔法使いの弟子としての生活が始まった。

 魔法使いの家は、中に入ると、外から見るよりも意外なくらい広かった。一階には暖炉があり、広いリビングとキッチンがあった。テーブルも食器棚も、そして食器類も、とても高級そうなものが揃っていた。魔法使いという職業は意外と儲かるらしい。

 二階には、小さな図書室といくつかの寝室があった。その内の一つの寝室が私に与えられた。寝室は南側を向いていて、窓からは眼下に街を一望することができた。丘の上にはいつも気持ちの良い風が吹いていて、窓を開けると、その日も、爽やかな風が私の頰を撫でた。

 そして屋上には天体観測用のドームが銀色に輝いていた。これを見るとき、私は星見さんのことを思い出さずにはいられなかった。バラバラになった天文台。あの日。星見さんの身に一体何が起こったのだろうか。


「フクロウさん。いる?」

屋上のドームの横で空想にふけっていると、突然、外から声をかけられた。

「魔法使いさんなら、朝から出かけてますけど」

そう言いながら、地面を見下ろすと、そこにいたのは、一羽の白い鳥。いわゆるシラサギだった。まさかと思ったが、先日はフクロウに声をかけられたばかりだ。この世界ではそれほど珍しいことではないのかもしれない。

「あなた誰?」

そう言ったシラサギの声には、少し威圧的な響きがあった。

「ええと。初めまして。私、魔法使いさんの弟子で、望月夕子と申します。もしかして、あなたも魔法使いなのかしら」

フクロウに変身する魔法使いがいるのだから、シラサギに変身する魔法使いがいたって不思議はない。

「そんなわけないじゃない。私はシラサギよ。正真正銘、ただの鳥」

人間の言葉をしゃべっている鳥に、ただの鳥であると言われても、説得力がない。絶対に魔法が絡んでいるに違いないのだ。

「私、日本語を喋る鳥を見たのは二度目です。最初に見たのはフクロウでしたが、それは魔法使いさんでした」

「私はただの鳥よ。日本語と英語が喋れるただの鳥」

「すごいですね。バイリンガルなんですか」

わたしは心から関心してそう言った。因みにわたしは英語は話せない。

「ノンノン」

シラサギさんは、そう言って、私の言葉を否定した。

「当然、鳥の言葉も喋れるの。英語、日本語と三種類」

「なんと、トリリンガルでしたか」

私がそう言うと、シラサギさんは、その後、少し間を置いてからこう言った。

「トリだけに。ふふ」

私は、その瞬間、彼女のことが大好きになった。

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