夢中になって
瀬川
夢中になって
俺のクラスには、というよりも俺の周りには変人がいる。
「今日も可愛いね!」
「うるさい、黙れ」
「声まで可愛いなんて、その声を朝から聞ける俺は、なんて運がいいんだろう!」
教室に入るとすぐにまとわりついてきたかと思えば、弾丸トークをしてくる。俺はそれに冷たく返すのだが、向こうは全くめげない。
「今日の体育はマラソンだけど、後ろから眺めていてもいいかな」
「俺より運動出来るよな。なんで」
「そんなの一生懸命走る姿を目に焼きつけるためだよ!」
「気持ち悪いから、本当に止めろ」
「冷たい表情も、またいい!」
何を言っても喜ぶ姿に、俺は大きなため息を吐いた。
「一目惚れしました! 今日から推します!」
入学式が終わり、割り当てられたクラスに入った時に、急に目の前に現れてそんなことを言われた。
「おす?」
おす=推すと変換出来なくて首を傾げると、ハアハアと息を乱し、そしてキラキラとした目で詰め寄られる。
「はい。あなたのことが好きなんで、あなたのために人生を捧げようと思います。これからあなたは、俺の人生の糧です!」
「はあ?」
顔はイケメンな方なのに残念な奴だ。
こいつには関わってはいけない。すぐにそう判断したのだが、もはや手遅れでそれからまとわりつかれることになってしまった。
俺は別に可愛くも美人でもない普通の男なのだが、向こうからすると輝いて見えるらしい。絶対に、なにかのフィルターがかかっている。
俺の一番のファンを自負していて、どんな状況でも大声で好きを伝えてくる。
貢物をしようとした時は、さすがに止めた。
こんなやり取りをしていれば、周囲から自然と認知される。
いつの間にか俺達は有名になってしまい、二人でいると注目が集まるようになった。
「好きです!」
向こうは毎日のように言ってくるけど、俺はそれに受け入れるような答えをしたことは無い。
俺の方が先に入学式で一目惚れして、同じクラスになれたことも飛び上がるぐらい嬉しくて、今だって話をすると顔がにやけそうになっている。
でもそれを言わない。
推し活と称してでしか、気持ちを伝えられないぐらいなら、まだまだ駄目だ。
最近ではむしろ俺の方が、今日はどんなことを言ってくるのかと楽しみにしている。
もうしばらくは内緒だ。
夢中になって 瀬川 @segawa08
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