第64話「次にやること」

 風花さん、もとい纒さんと固い握手を交わしたあと、今日の取得品の買取り査定をしてもらう。

 

 ちなみに、苗字で呼ぶと支部長と混同するため、俺達は纒さんと呼ぶことにした。


「それにしても初日にしてはかなりの量ですね……」


 纒さんが息を飲む。

 それもそのはず、井波さんのレベル上げのためにフィアーを狩りまくっただけじゃなく、井波さんの運のおかげでドロップ率は100パーセントな訳だから普通のパーティではあり得ない程の量だろう。

 査定には30分程の時間を要した。それでもこれだけの量を30分で終わらせられる纒さんはやっぱり優秀だと言えるだろう。


「お待たせ致しました。今回の査定額は362万5400円です」

「へ? そんなに!?」


 俺と豪志はある程度の相場を知っているため納得出来る額だが、井波さんは予想外だったらしくかなり驚いていた。


 角石は白が一つ100円で、ランクが上がる毎にゼロが一つずつ増えていく。


 今回俺達が手に入れた角石は1150個。

 その内、白が620個、黄色が362個、青が127個、緑が1個だ。緑が1個なのはあのマジシャンオークの分だからだ。

 角石だけでも1,794,000円の収入で今回の査定のおおよそ半分になる。それだけ角石は重宝されるというわけだ。


「こんなんで驚いてたらもたねーぜ? 次の階層からは角石は最低でも青だからな、深く潜れば潜るほど桁が変わっていくのが迷宮攻略者の醍醐味ってやつだぜ」

「なんか、恐くなってきました……」

「ふふふ。私が、パートナー半数解約することて同僚達から頭が可笑しいなどと言われたのですが、今日の結果だけみても私の判断に間違いはなかったと考えます」


 パートナー契約を結べる受付嬢は、査定額によってパーセンテージの変動はあるが、インセンティブが発生する。


 ナンバー1受付嬢であれば、トップランクの調達屋と同水準の収入だと言われるくらい、このインセンティブはかなり大きい。


 纒さんが担当していたのは恐らくトップランクかそれに準ずる人達だったハズなのでいくらSランクの俺がいるからってその半数を捨てて俺達に鞍替えする事に周りは眉を顰めているのだろう。


「安心して、絶対に損はさせないから」

「はい! 査定額の受け取りはいかがされますか?」

「四等分にして各自の口座とパーティ専用口座に振り込んで欲しい。基本、俺達から何もない時はこの方式でやってもらって構わないよ」


 事前にみんなと打ち合わせした通り。

 なんか、あった時のため四等分にして一つはパーティ専用口座にプールしようと決めていた。


「承知いたしました。手数料や税金分を引いた額をご指示の通りお振込みいたします」

「うん、ありがとうございます」

「それと、カイト様」

「ん? なに?」

「先日、お預かりさせていただきました取得品の査定が終わっております」

「すごい。もう終わったんだ……大分無理したんじゃない?」


 決して一日で終わる量ではない事を知っていたため、相当無理をしたのだろうと考える。


「早く終わらせた方が我々の利益にも繋がりますので、支部をあげてご対応させて頂きました」

「低階層でこれくらいですからSランクの取得品ってすごいでしょうね」

「凄いってもんじゃないだろ、何て言ってもレコードホルダーなんだぜ? しかも4つの迷宮のよ」


 とまぁ、井波さんと豪志は張本人である俺よりも盛り上がっている。


「では、内訳と査定額はこちらになります」


 そう言って、纏さんはSIPADを手渡してくる。

 豪志と井波さんに挟まれる形でSIPADを操作する。

 かなりに目録があるため、俺は内訳を飛ばし最後の査定額の蘭まで一気に移動する。

 

「ひえ~~~」

「……すげぇ! すげぇな迷宮ってよ! 夢があるな!」


 査定額をみて、それぞれの反応をみせる仲間達。

 そこに記載されていた金額は"132億3652万4200円"とかなり莫大な金額だった。

 でも、そんなにあっても使う所も時間もないんだよな……。


「どうされますか?」

「一応、俺の口座に入れてもらえれば」

「纏さん、一気に金持ちだな!」

「いいえ、こちらは私が皆様方のパートナーに就く前に査定に出されたものなので、私のインセンティブは発生しませんよ」

「そうなんだ。もっと、後にすればよかったね。そうだ、あと半分くらい取得品があるんだけど出す?」

「いえいえ、お気になさらず。それに、残りのものは小出しにしていただけると助かります。あんまり大量に物が出回ってしまうと値崩れしてしまう可能性があります。それは、お互いにとって損ですので」

「分かった、じゃあ、必要なモノがあったら都度教えて」

「承知いたしました。さて、査定はここまでとして、次は井波様のランクアップの件です」

「へ? ランクアップって、私、今日初めて迷宮に入った初心者ですよ!?」

「たった1日でも井波様はランクアップ可能な実績を作っておられます」


 ランクアップは、ハードル制だ。

 主に加点される点は、階層到達ポイント、到達レベルポイント、協会への貢献度ポイントの3つがあり、ランクアップに必要なポイント達成時に審査が行われ問題なければランクアップが可能となる。審査で問題があった場合別途ランクアップ試験が行われるのだが井波さんには必要なかったらしい。

 貢献度ポイントは取得物の換金やまれに発生する協会からのミッションをこなすことで加点される。


「実績って言っても……それは二人の……」

「最初はそうだったかもだけど、今は井波さん一人でも10階層のフィアー相手だったら問題なく戦える様になったしランクアップを受け入れてもいいと思うけどね」

「そうだぜ春風。素直に喜べよ! 因みにランクは?」

「Dランクでございます。この日本支部での最速ランクアップの記録更新です」


 今まではDランクまで半年と言うのが最速だったらしい。1日でDランクという記録は中々破られる事はないだろう。


「凄いじゃねぇか!」

「すべてのランクアップの最速記録を塗り替えるのも面白いかも」

「おぉ!いいじゃんそれ! やろうぜ!」

「そうなれば、井波様のサポート役として私も鼻が高くなります」

「もぉ、やめてくださいよ!」


 俺達に(井波さんを除く)気持ちは一つになった。

 井波さんを最速でSランクにするという楽しみができた。


―――――――――――――――――――――――

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

週間ローファンタジー部門で154位になっていました。嬉しいです!

次は最初のページに載れるよう頑張りたいと思います!


面白かった、続きが気になる!と思われた方もそうでない方も感想、いいね、フォロー、☆など頂けましたら嬉しいです。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る