第65話「モドキ」
「じゃあ、二人ともまた明日ね」
「おう、じゃあな!」
「お疲れさまでした!」
換金を終え、纒さんの専用部屋を出た俺達は、明日も今日と同じ時間に集合する事を約束してそれぞれの帰路についた。
このヤマトアイランドに国内留学していて学校の寮暮らしをしている豪志。
迷宮に潜る日は大体協会の食堂で食事を取ってから帰っているという事で食事に誘われたが、スミが俺の分のご飯を作って待っていてくれているためまたの機会に一緒にする事にした。井波さんは豪志と食べて帰るとのこと。
まぁ、井波さんは豪志と同じような状況だしね。
という訳で俺は駅に向かって歩きながら今から帰る旨を家族のグループトークに打つ指が止まる。
複数の男が俺の行くてを阻む様に立っており、その視線は俺に向けられている。
明らかに狙いは俺だろう。
「なんか用?」
「お前がカイトって奴だな?」
無精ひげの20代後半のくらい男がそう問うが、俺はそれよりも無精ひげの男の横にローブの様な物をすっぽり被って立っている存在に目が行く。
「おい! 聞いてんのか!?」
いつまでも返事のない俺に対して無精ひげの男が声を荒げる。
「違うよ。人違いの様だしそこを通してくれないかな?」
「違う訳ねぇだろ! お前がカイトって事は分かってるんだよ!」
「分かってるんだったら聞かなければいいのに。それで、俺になんの用?」
「なーに、用って言っても大した事じゃあねぇ。お前が今日、取得品を売って手に入れた金、それを全部俺達に渡せば五体満足で帰してやる」
なるほど、てっきりホワイトタイガーからの報復かと思っていたが、ただの強盗という訳か。
「さぁ、誰に聞いたか知らないけど金なんて知らないけど」
とりあえず惚けてみる。
「んな訳あるか! てめぇが、20億持ってるって事は知っているんだ!」
20億?
その5倍はあるけど。
それよりも、なんでこの人は俺が取得品を売って大金を持っている事を知っているんだ?
その事を知っているのは、豪志と井波さん、それに協会の人達くらいしかいないはず。豪志と井波さんが他の誰かに俺の情報を漏らすのは考えにくい……。となると自ずと消去法で情報を漏らした犯人は協会の人という事になる。
「そう。でもアナタ達に渡すものはないから、このまま回れ右してこの場から消えてくれるなら見逃して上げるよ」
別に金に執着する性格ではないが、ただで金を渡すほど俺は弱者ではない。
「ハン! 知らない様だから教えてやる! 俺達は元傭兵だ、その意味はわかるよな?」
「あぁ~アナタ達はモドキだったんだね。どうりで、こんな所で強盗まがいの事をしているわけだ」
「なんだと!?」
モドキ呼ばわりされて激高する無精ひげの男。
傭兵を何らかの形で退団しても、自分達は元傭兵だと言いまわっている奴らを侮蔑の意をこめてモドキと呼ぶのは傭兵の間では常識だ。
つまり、俺がこのモドキ共を馬鹿にしているという事に怒っている訳だ。
「餓鬼がッ、下手に出てりゃつけあがりやがって! いくら迷宮内でのレベルが高いからって、それはあくまでも迷宮内での話だ! てめぇ、サンコーだってな?」
「それがなに?」
「けッ、落ちこぼれのお前が、つい最近まで傭兵団にいた俺達に勝てると思ってるのか!? これが最後の忠告だ、とっとと金を出せ!」
「イヤだね」
「……忠告はしたぞ? おい、この餓鬼を痛めつけろ。ただし、金が貰えなくなるから殺すなよ? 腕の1,2本落とせば大人しくなるだろう」
無精ひげの男の言葉に仲間達が俺を取り囲み、アークを発動させる。
面白い事に全員身体強化のアークを発動させているのを見る限り中級の【格闘士】のマスターの様だ。
襲い来る男達の攻撃を躱しつつ、アークを使わず一撃でしとめていく。
それくらいで十分すぎるほど、モドキ共は弱かった。
「な、な、なんで――」
次々と戦闘不能になっていく、モドキ共をみて無精ひげの男の表情は固いものになっていく。
「なんで? それは、貴方がとんでもない勘違いしているからだよ」
無精ひげの男1人とその横のローブ姿の二人を残したところで俺は、そう口にする。
「か、勘違いだと!?」
「アナタ達のパーティは何人?」
「6人だ」
「そう、6人パーティね。それで、アナタ達の到達階層は?」
「12階層だ」
「確かに迷宮でのレベルは、迷宮外では適用されない。でも、俺は一応4つの迷宮のレコードホルダーなんだよソロのね」
「……何が言いたい」
「弱者にそれが達成できるほど迷宮は甘くないってこと」
「……ッ……」
金に目がくらんでの事なのか、男は今になってやっと気付いたってところだろう。
元傭兵の自分達でさえ、6人パーティで数ヶ月迷宮に潜って到達した階層は12階層だ。それなのに目の前にいる俺は、たった1人で比べ物にならないほどの深層にいる。
つまりのところ、俺は落ちこぼれでもなんでもない強者だという事を男は気付いたのだ。
「さぁ、どうする? このまま掛かってくるなら相手するし、もし、ヤマトアイランドから出て行くなら見逃してあげるけど」
「何が見逃して上げるだ! 調子に乗りやがって!」
無精ひげの男は、横に立っている者のローブを引き剝がす。
「なるほど……明らかに普通の人とは違う感じがして気になっていたけど、そういうことだったんだな」
ローブの主は、俺とさほど歳の変わらない獣の様な耳を持つ少女だった。
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