第63話「パートナー」
当初の予定通り11階層の到着ポイントに登録した俺達は、この日の迷宮での活動を終え、転送装置で樹海の入口に移動する。
「凄いですね!? あんなに離れた場所にいたのに一瞬でここに戻れるなんて。こんな便利な装置があったら世界の裏側でもあっという間に移動できるのになんで普及しないんですかね?」
「それはそうなんだけど、偉い学者さん達がどんなに調べても仕組みが未だに解明できないらしいぜ?」
「そうなんですね……凄く便利なのに」
樹海のゲートを通り日本支部に戻る。
今朝同様システムスキャンをするため列に並ぶ。
入口と出口は壁で隔たれており、一方通行になっているため人とスレ違う事はないのだが、一番込み合う時間だからなのかカードリーダーの前にはかなりの人が並んでいた。
五分程かけてチェックアウトを行い、そのまま受付カウンターに向かう。
今日の取得品の換金とライセンス更新をするためだ。
「ありゃ~結構ならんでるなぁ。俺も今はフリーだし、フリー専用窓口に並ぶしかないしな」
豪志は、昨日まであの失礼な受付嬢、雨音という人のパートナーだったらしい。
だが、昨日の一件で雨音が受付嬢を下ろされてため自然と豪志とのパートナーが解除になったため今はフリーになっている。
パートナーの受付嬢が居た場合、専用窓口で優先的に対応してもらえるなど様々なメリットがある。
だから、誰もがパートナーになりたいと思っているのだが、誰でもなれるわけではない。実績がある、もしくは将来性がある者のみが選ばれるシステムなのだ。
なので、殆どの会員はフリーであり、俺達もフリーだ。
そんな訳で、フリー用の窓口のみでの対応のため、俺達は長蛇の列に並ばないといけない。
「これは、結構時間が掛かりそうですね」
「どうする? 明日にする?」
「そうだな~これはまってると軽く1時間は超えるぜ」
どうせ明日も迷宮に潜る。
それなら、受付が比較的に空いている朝方に回した方が効率的だろう。
明日にしようという結論に至ったその時だった。
「カイト様」
背後から俺の名前を呼ぶ声に反応すると凛とした姿勢で立っている受付嬢がいた。
風花支部長の妹さんの纏さんだ。
「どうも、風花さん」
「こちらへどうぞ」
その言葉だけを残して風花さんは歩き出す。
どこに行くんだろう?と思ったのだが、支部長さんの妹さんだ。俺達に不利な事はしないだろうと思いその背中を追う様に付いて行く。
そして、受付とは反対方向の通路へと入る。
「おいおい、まさか……」
「どうしたの?」
「いや、お前。ここって……」
どうやら豪志は俺達の向かう場所に心当たりがあるらしい。
「どうぞ、こちらへお入り下さい」
風花さんの案内により部屋に通される。
部屋の中は10畳程あり、奥に受付のカンウターの様な物がある以外は何もない殺風景な作りだった。
「ここは?」
「各支部ごとのナンバー1受付嬢は専用部屋を持つことが許されているんだよ」
調達屋協会の各支部毎に5人の選任受付嬢がいて実績によりランク付けされていてそのトップに君臨する受付嬢には様々な特典があり、その一つがこの専用部屋らしい。
「へぇ、面白いね」
「どうぞ、お掛け下さい」
言われるがまま席に座ると風花さんも対面に座る。
「えっと、俺達をこの部屋に通してという事は、風花さんは俺達のパートナーになると言う認識でいいのかな?」
「はい、お三方がよろしければですが」
「おいおい、マジかよ……風花さんが……」
「えっと、どういうことですか?」
良くわかっていない井波さんは取り合えず置いておいて、風花さんが俺達のパートナーになる事で豪志は驚いているが、Sランクである俺にナンバー1受付嬢がパートナーになる事は別に不思議なことではない。
4つの迷宮のレコードホルダーである俺は、分かりやすく言えば金を生む木だから。
だけど、風花さんは”お三方”という言葉で、俺だけではなく豪志と井波さんにも目配りをしながら俺達三人の意志を聞いてきている。
そういう所は好感が持てる。
「一ついいかな?」
「はい、もちろんです」
「ありがとう。俺は、調達屋になるつもりはないんだ」
「支部長から聞き及んでおります」
「それだけじゃないよ。迷宮での活動もそんなに長くはないと思う」
「はい」
「それでも、このパーティのパートナーになるって事でもいいの?」
Sランクの俺はもうすぐいなくなる事を認識させる。
「カイト様は抜けられてもこのパーティが存続する限り、私はパートナーであり続けましょう」
愚問だと言わんばかりにニッコリと笑みを向ける風花さんは、それにと続ける。
「カイト様は、お二方のご成長をある程度見届けたのちにパーティを脱退するおつもりかとまこと勝手ながら考えております」
「うん、風花さんの考えであっているよ」
「なので、そんなに時間がかからずともお二方はこの日本支部内でのトップクラスの調達屋になられると考えております」
「その根拠は?」
「たった一日で井波様のレベルを75まで引き上げ、11階層に辿りつくなんて普通ではありえません。それだけでは理由ならないでしょうか?」
「へぇ~ライセンス情報の閲覧権限を持っているんだ」
「はい、こちらもナンバー1受付嬢の特典になります」
ライセンスの閲覧権限など、支部長を含め数名の幹部しか与えられていないはずだ。
なるほど……ナンバー1受付嬢としての特典は想像以上の物だと感心する。
「風花さん、他の会員のサポートをしているんだよね? おそらく高位ランクの人達の」
「はい。その通りです」
「高位ランクの人達のサポートってすごく大変だと思うけど、その人達をサポートしつつ俺達のサポートは可能なの?」
高位ランクになればなるほど活動する階層が困難なモノになるため、色々と手がかかる。
「お三方のサポート役として受け入れていただければ、現在受け持っているパートナーの半数を解除するつもりです」
「つまり、その半数分にかけていた労力をすべて俺達のために使うと?」
「はい。本当は全員解除してお三方の専用パートナーとなりたかったのですが、支部長に止められました」
「ははは、それは止められるよ」
すごく残念そうな表情を浮かべる風花さんを見てついつい笑い声が漏れてしまった。
「さて、俺は風花さんのサポートを受けようと思うけど、みんなはどう?」
俺の意思は固まった。
だけど、俺だけではだめだ。
風花さんはお三方、つまり、井波さんと豪志を含めてと言っているのだから。
「おいおい、そんなの聞くはずもないだろ? あの、風花さんだぜ?」
「良くわからないですけど、すごい事なんですよね?」
どうやら、二人も俺と同じ気持ちらしい。
「風花さん、これからよろしく」
「はい! よろしくお願いいたします!」
俺達は、風花さんと固い握手を交わした。
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