第60話「豪志の先輩らしい」
「これが迷宮の入口……」
時間が正午に差し掛かった辺りで俺達は樹海を突破し、
入口の周辺は、まるで縁日の様に屋台が並んでおり結構な数の調達屋や野良が行き交っていた。
野良というのは、俺の様に本業が調達屋でない者を指す言葉だ。
「凄い人ですね」
「まぁ、この日本支部で活動する人全てが必ず通る場所だからね」
目をキラキラさせている井波さんだが、樹海での目標レベルに達した。
それによって樹海にこれ以上留まる必要もないので、迷宮に潜るには丁度いいタイミングだろう。
そんな井波さんのステータスは次の通りだ。
名 前:井波春風
ランク:Fランク
パーティ:カイト
レベル:21
H P: 70(+30)
攻撃力:170(+100)(+30)
防御力:70(+30)
敏 捷:170(+100)(+30)
技巧性:70(+30)
運 :777
装備:フェザースピア(攻撃力+100、敏捷+100)
井波さんのレベルは現在21。
ステータスについては安定な上昇値だ。
「ハハ……本当に凄いよな。まだ、数時間しかたってないのにこのステータスは」
分かってはいたけどと苦笑いを浮かべる豪志。
俺もソロで活動していたから豪志の気持ちの分からなくはない。
あらゆるアークを使いこなす俺でさえ、井波さんのステータスになるには3日は掛かったのだから豪志はひと月以上掛かっているハズだ。
「本当にお二人のおかげです」
「何をもう終わったみたいな事を言っているの? 本番はここからだよ」
と俺は迷宮の入口を指さす。
今までいた樹海は
調達屋として生計を立てていくつもりならここからが本番なのだから。
「わ、分かっています。頑張ります!」
「うん、頑張ろう。さて、時間も時間だし中にに入る前に軽くお昼にしようか」
「そうだな、俺が屋台で色々買ってくるから場所取り頼むは」
「うん、分かった。美味しい物を頼むね」
「おうよ! ここに何か月通ったと思っているんだ。厳選に厳選を重ねた俺チョイスを買ってきてやるよ」
鼻息を荒くして屋台に向かう豪志を見送り、俺は井波さんと休憩広場へと向かった。
◇
休憩広場はには6人掛けのテーブル所狭しと設置されていて、お昼時だからなのか見渡す限り席が埋っていた。
「結構いるな」
「あっ、あそこどきそうです」
時間を掛けて席を探していると、荷物を纏めて立ち上がろうとしている5人組のパーティがいたので、そちらに向かう。
「ここ、もういいかな?」
「ん? あぁ、いいぜ。俺達はもう終わったからな」
二十歳前後の長髪の青年が爽やかに返してくる。
青年のパーティ仲間もすぐさま席を開けてくれる。
「「ありがとう(ございます)」」
「いいって。じゃあ、頑張って」
「おッ、いたいた!」
長身の青年達がその場から去ろうとしたタイミングで豪志が両手いっぱいに袋を抱えてこちらに向かってくる。
「豪志?」
「優太さん、どうも」
長髪の青年は優太という名前らしい。
「知り合い?」
「まぁ、調達屋の先輩だよ」
「もしかして、この子達とパーティを組んだの?」
「はい……すみません、何度も誘ってくれたのに」
豪志は優太の目を見る事なく、俯きそう答える。
「いや、別にいいんだ豪志がパーティを組んでくれているなら一安心だよ。ソロには限界があるからね」
「うっす」
どうやら本気で豪志の事を心配していたらしい。
「えっと、僕はシーダーっていうパーティのリーダーをしている上杉優太っていうんだけど、君達の名前を聞いてもいいかな?」
「鷹刃海人」
「井波春風です」
「鷹刃君に井波さんね。二人とも豪志の事をよろしくね。こいつ、結構危ういところあるからさ」
「うん、豪志は大事なパーティ仲間だからね」
「海人……」
うるっとしている豪志を見てなんだかほっこりする俺がいる。
「ねぇ、優ちゃん。カイトって、さっきの」
「あぁ、確かに」
重装備の女の人が優太さんに何かを知らせる。
「俺の名前がどうかしたの?」
「いや、今朝、カイトってやつを知らないかって、野良の人達に声を掛けられててね」
「野良の?」
野良というのは、調達屋ではない協会員の事を指す。そう言ったら俺も立派な野良だ。
「他の人に聞いてみたら元傭兵団の人達らしくて」
「元傭兵団の人がなんで海人に……別人じゃないんですか?」
「いや、その人が言っていた特徴が一致しているから君であっていると思う。意図は分からないけど、僕達だけじゃなくて色んな人に聞いて回っていたからね……三人ともくれぐれも気をつけてね」
そう言って優太さん達は迷宮へと姿を消していった。
「元傭兵か……まぁ、今考えていてもしょうがないね」
「海人って、なんつうか肝がすわってるよな」
「そう? あまり気にした事はないけど」
「俺だったら元傭兵団の人に目を付けられたって考えただけでも胃がキリキリするけどな」
まぁ、俺も傭兵だし。
それに、団を抜けて迷宮に潜っている様な輩に負ける気もしないしね。
まぁ、二人とも心配している様だし話題を変えるかな。
「それにしても、優しそうな人だったね」
「あぁ、駆け出しの時に凄く良くしてくれてさ。何度かパーティに誘ってくれたんだけど、いつも断ってさ……」
「そっかぁ」
「何かしらの形で恩返しがしたいと思ってるんだけど、今の所なんも浮かばねぇんだわ」
ハハハと苦笑いを受かる豪志。
「大丈夫。これから先ずっとこの業界にいるんだったら何かしら恩を返せる機会がくるよ」
「そうだな」
「あの……」
手を挙げる井波さんはやや恥ずかしそうにしている。
「どうしたの?」
「いえ、その……そろそろ食べませんか? 温かい内に……」
豪志が手に持つ湯気によって内側が湿っているビニール袋を指さす井波さん。
「そうだね。あったかい内に食べたほうがいいもんね。豪志、味は保証してくれるんだよね?」
「おうよ! 言っただろ? 厳選に厳選を重ねた俺のチョイスだって」
流石と言うべきか、豪志チョイスはどれも美味しく俺達は迷宮に向けて英気を養う事が出来た。
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