第51話「井波さん育成計画」
支部長さんの部屋を出てロビーに向かうと窓口に座っている井波さんが俺の姿に気付くと、受付の風花さんと一緒に俺の方へ近づいてくる。
「鷹刃君」
「登録終わった?」
「はい、ちょうど今終わりました。これで私も楔に潜れます」
出来立てホヤホヤのライセンスカードを俺に見せる井波さんに俺は良かったねと頷く。
「これから俺が持っている迷宮産の取得品を査定に出すから少し時間がかかりそうなんだけど、いいかな? もし、時間がないなら先に帰ってもらってもいいけど……」
「迷惑産の取得品、すごく興味があります。私もご一緒してもいいですか?」
目をキラキラさせている井波さん。
別に断る必要もないので、俺は井波さんを連れて支部長と風花さんの後に続いた。
中庭の様な開けた場所に出るとそこには作業着をきた職員が数名立っていた。彼らは楔での取得物を査定する査定員だ。
「では、カイト様。こちらに取得物の方を出していただけますか?」
「うん、了解です」
支部長さんが指差す中庭の中心部に俺は収納箱に保管していた角石やフィアーの素材などを出していく。
まずは、角石。
最低ランクの白の角石から最高ランクの金の角石まで、まるで地面に降り積もる雪の様にそれは積み上がっていく。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「ん? どうしたんですか?」
「い、一体、どれくらい角石をお持ちなのですか?」
「これの倍は軽くあると思いますが……」
「は、はは……倍……」
「続き、出して良いですか?」
「ど、どうぞ!」
若干引き気味の支部長さんを横目に全ての角石を出す。積み上がったそれは、俺の背丈よりやや高い山となった。
続いてその隣にはフィアーの素材を出す。
角石よりも遥かに大きいそれらによって、中庭は足の踏み場もない程に俺の取得物で一杯になる。
「こんなもんかな」
「……は、はは……」
「大丈夫ですか? 多いなら戻しますけど」
「いえ! ぜひ買い取らせて下さい! 想定以上の品数なので多少時間は掛かってしまうと思いますが……」
「急いでないですし、お願いします」
「はい!」
てきぱきと査定員に指示を出す支部長さんを残し、風花さんの後ろについてその場を離れた。
◇
時刻は夕方になり、俺は支部内にある食堂で井波さんと早めの夕食を取ることにした。
「鷹刃くんのレベルっていくつなんですか?」
レベル。
迷宮の中は少し特殊な環境になっている。
それがレベルという概念だ。
迷宮の中に入るとフィアーを倒す事でレベルが上がるシステムになっていて、レベルの上昇によってステータスが上がる仕組みになっている。
だが、これはあくまでも楔の中だけの話で、迷宮の外へ一歩でも出るとレベルやステータスの概念はなくなる摩訶不思議な現象が起こるのだ。
レベルアップの恩恵はステータスの上昇のみであり、ゲームみたいにスキルや魔法などを習得する訳ではない。
だからこそ優秀なアークマスターのアークが迷宮内では重宝されるのだ。
俺の様に複数のアークを使える者は、迷宮の攻略にかなり有利に働く。ソロでレコードホルダーになれたのもその恩恵のお陰だ。
そして、迷宮内でのレベルやステータスは他の迷宮でも引き継がれるため、俺は4つの迷宮のレコードホルダーになれたわけだ。
そんなわけで俺のレベルはーー。
「999だよ」
「へっ……?」
「カンストしちゃったんだ」
「世界で最も高レベルの調達屋のレベルは300って聞いたのですが……」
「そんなものなんだね」
「はぁ……まぁ、鷹刃くんですし、もう驚きません」
と呆れ顔の井波さんのこれからについて話す。
「さて、いつまでも俺が井波さんについて回ることはできない」
「はい、もちろんです」
「なので、井波さんは自力で生計を立てられるくらいのレベルに上がるまでが俺の仕事だと思ってる」
高ランクのフィアーで経験値稼ぎをしてまずは井波さんのレベルを上げる。所謂パワーレベリングというやつだ。
「目標レベルは300」
「さ、さ、さんびゃく!?」
「なんで?」
「だ、だって、300って言ったら調達屋のトップなんですよ!?」
「大丈夫、俺は999だから」
「いや、大丈夫の意味が……いえ、もう、何も言いません。鷹刃君がやれるというならそれを信じてやり通します!」
「うん、その意気だよ」
「ちょっといいか?」
背後からの声に降る向く。
そこには先ほどの赤アフロ君が立っていた。
「さっきの……なんか用かな?」
「いや、さっきは悪かったな。雨音さんが絡まれていると思ってつい……」
赤アフロ君は、バツの悪そうな表情を浮かべてアフロをさすっている。
「別に気にしてないから」
「そっかぁ……なぁ、俺はイチコーの宮本豪志って言うんだけど、名前を聞いてもいいか?」
「俺は、鷹刃海人。それで、こっちは」
「井波春風です」
「鷹刃だって!? じゃあ、お前が一輝を倒したって言うサンコー生!?」
一輝? あぁ、佐伯君の事か。
「そうだね。そのサンコー生で間違いないよ」
「まじかよ……でも、まぁ一輝が言うだけの事があるな。まさか、同年代のヤツがSランクでレコードホルダーだなんてよ」
「佐伯くんはなんて?」
「“全く相手にならなかった……早くアイツに追いつかねぇといけね”ってメラメラと燃えてたぜ」
「そうなんだ。俺が良いカンフル剤になったようでよかったよ」
俺の言葉を聞いた宮本君は、口を閉じ何かを考えこむ。
そして、次に出た言葉はーー
「俺もお前達のパーティに入れて貰えないか?」
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