第49話「受付嬢と赤アフロ」

 井波さんが考えていた金策。

 それは、自信のユニークアークである【幸運吸収フォーチュンドレイン】を駆使して【アマテラスの根幹】に潜る事だった。


 【アマテラスの根幹】は、このヤマトアイランドの中心部にある楔で、巨樹の形をした迷宮だ。

 そこたどり着くまで【アマテラスの根幹】の楔への道筋ザ・ロードである直径10キロメートルの樹海を突破しなくてはいけない。もちろん、樹海にもフィアーは徘徊しているためある程度の力を持っていないと突破は難しい。


 それ故、この樹海を突破する事がこの【アマテラスの根幹】の登竜門となっている。

 もちろん、今の井波さんではこの樹海を突破するのは難しい。調達屋のパーティに入れて貰えれば何とかなるかもだが……調達屋ではない野良のマスターを受け入れる事は規約に違反しているため基本それはない。

 そうなると野良同士のパーティーになるのだが、この野良というのが大半は何らかの問題を起こして居場所を失った傭兵や番人崩れが殆んどだ。

 井波さんをそんな輩と組ませる訳にはいかない。


 そんなわけで、俺は今井波さんと共に【アマテラスの根幹】に来ている。井波さんが一人立ち出来るように鍛えるためだ。


「鷹刃君は、迷宮に潜った事があるんですか?」

「うん。【アマテラスの根幹ここ】は初めてだけど、他の国で何ヵ所かね」


 鍛練という名目の団長の命令によって、銀の乙女団の戦闘職の団員であればみんな迷宮に潜っている。もちろん、ソロでだ。


「取り敢えず、登録しにいこう」

「はい」


 樹海の入り口に建築されているドーム型の施設。

 調達屋協会日本支部の建物だ。

 早速井波さんの登録をするために窓口に向かう。


「こんにちは」

「ようこそ調達屋協会日本支部へ、ご用件は?」


 濃い化粧にわざと胸元を強調しているかのように着崩している制服。それに顔をしかめたくなる位にきつい香水の匂い。

 品の悪そうな受付嬢は、明らかにガッカリした表情で俺にそう返す。


「俺のライセンス情報の更新を」

  

 ライセンスカードを受付嬢に渡すと「はぁ、まだ駆け出しじゃない」とため息をつき、イラついた手つきで端末のカードリーダで更新を行う。

 

「あと、この子の登録もお願い」

「登録? まだ学生でしょ? しかも、第三高校の」


 先程から受付嬢の見下すような言い方が癇に触る。


「そうだけど? 何か問題でも?」

「何か問題でもですって? 大アリよ! アンタも会員なら分かるよね? 有用なアークマスターでない限り登録は出来ないことになっているのよ?」

「有用なマスターでないとどうして断言できるの?」

「だって、アンタら第三高校の生徒でしょ? 落ちこぼれの」


 派手なネールで俺達の制服を指差す受付嬢。

 俺達は学校帰り登録だけでも先に済まそうと思って制服のまま来ている。


「アンタのその物言いはどうかと思うけど……Bランク以上の推薦があれば問題ないはずだよね」

「なによ、推薦状があるならとっとと最初から出しないよね」


 何だろうこの上からの感じ。

 今までこんな酷い受付嬢を俺は見た事はない。

 井波さんはかなり引いていて、何をどうすればいいか分からずオドオドしている。


「推薦状はないよ。俺が推薦するから」

「はぁ!? バカにしてんの!? アンタFランクでしょ!」

「別にバカにしてないよ。更新が終わればわかるはずだから」

「何が更新が終わればよ! はぁ、最悪ッ! トップの座が見えてるのになんでこんな奴らの相手なんかしなくちゃいけないのよ!」

「貴女のその態度、かなり度が過ぎてると思うんだけど?」

「煩いわね! 生意気なのよ落ちこぼれのくせに!」

「なんだと?」


 一触即発の状況にゾロゾロと野次馬が集まる。

 

「おいおい、どうしたんだよ雨音さん」


 真っ赤なアフロ頭の青年が近づいてくる。


「豪志くぅん」

「なに? 君」

「彼は宮本豪志君よ! 第一高校の生徒でありながらCランク調達屋のこの日本支部の期待の星! アンタ達落ちこぼれとは格が違うのよ」

「そんなに持ち上げないでくれよ~。まぁ、俺の名前くらい知ってんだろ?」


 まるで自分の事のように鼻高々で語る受付嬢と満更でもない赤アフロ……なんだこの茶番は……。


「知らない。てか、俺は今、この失礼な受付嬢に一言いってやらないと気が済まないんだ。邪魔しないでくれないかな」 

「こわ~い、助けて豪志くぅん。この子達がいちゃもんつけてくるの」

「俺に任せてくれ雨音さん。おい、ちょっとあっちで俺と話そうか?」


 赤アフロがそう言って俺の肩を掴む。


「邪魔するなって言ったよね?」 


 赤アフロの腕を掴み、力を込める。


「ーーッ!?」


 赤アフロは、堪らず膝をつく。


「あが……は、はなせ……」

「ちょ、ちょっと、豪志くぅん……? 冗談でしょ?」


 受付嬢も状況が呑み込むことが出来ず混乱しているそんな時だった。

 30歳半ばくらいのスーツ姿の女性が数名の受付嬢を伴い慌てた様子でこっちに向かって来る。


「し、支部長!?」


 どうやら、この日本支部のトップらしい。


「雨音、これはどういう状況だ!」

「わ、私は悪くないんです! こ、このFランクの少年がその女の子の登録に必要な推薦を自分がすると言って! Fランクの癖に!」

「お前、この少年の更新した情報をちゃんと確認したのか?」

「えっ、そんなのするまでもないじゃないですか! 駆け出しのFランクがいくら更新したからって、推薦にはBランク以上必要なんですよ!?」


 支部長は、額に手を当て深くため息をつく。


「今すぐ、その少年の更新データを確認しなさい」

「なにを……」

「早く!」

「は、はい! もぅ……なんだって言うのよ」


 受付嬢は、ぶつぶつ文句を口にしながら端末に目を落とす。


「はぁ? え、え、Sランクうううううぅ!?」

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