潜れ、アマテラスの根幹
第48話「金策」
「あッ、おかえり春ちゃん。海人さんもこんにちは」
「ただいま」
「こんにちは、頑張ってるね」
「もちろんですよ。一日も早く身体を元に戻して学校に復帰したいので」
タオルで汗を拭いながら病院のリハビリステーションから出てくる夏菜ちゃんの足取りはここ数日で着実に良くなっていた。
井波さん達をパラダイスガーデンヤマトから連れ戻してから2週間が過ぎた。
あれから、【常世の楽園】からの接触はない。
メガネ君の情報によると、井波さん達の叔父である【常世の楽園】トップの伝道師アダムは体調を崩し入院しているという噂だ。
その間、ラッキーホルダーは販売が停止していて【常世の楽園】の会員達は、パニック状態に陥っているとかどうとか……。まぁ、たっぷり脅しも入れたし、ホワイトタイガーという後ろ楯を失ったのだ、
そんな状況を見る限りアダムがこっちになんらかのアクションを起こすとは今のところ考えにくい。
そして、ホワイトタイガーや白虎会からも何のコンタクトはない。
団長が上手く話をつけてくれたのだろうと勝手にそう思っている。
まぁ、誰が来ても俺が返り討ちにするけどね。
そんな状況の中、数年間を寝て過ごした夏菜ちゃんの身体を戻す為に現在夏菜ちゃんは、フォースステーションにあるヤマト大学附属病院で入院中だ。
井波さんも学校があるため、付きっきりとはいかない。
それなら、いっそのこと補助なしで生活できるまでこの大学病院にお世話になろうという話だ。
セキュリティ面でも家で一人留守番しているよりも幾分かマシだしね。
そんな夏菜ちゃんだが、いまでは流動食から毎食普通の病院食に変わったことで、徐々に顔にも年相応に肉がついてきて赤みも戻ってきていた。
また、ゆっくりではあるが20メートルくらいなら補助なしで歩行可能になった。
徐々に筋肉がついてきているのだろう。
夏菜ちゃんの状態が病気や怪我であれば、エリクサーやアークで治す事は可能だが、失った筋肉を元に戻すことは今のところアークでは不可能だ。地道に栄養を取って筋肉量を増やしていくしかない。
でも、今の状況を見る限り今月中には退院できるだろう。
俺達は面会可能時間である17時まで夏菜ちゃんの病室で過ごし、それから病院を後にした。
「いつもありがとうございます。夏菜に会いにきてくれて」
俺は、3日に1回のペースで井波さんと一緒に夏菜ちゃんの病室に訪れている。
なので、今となってはすっかり仲良しになっている。
毎日行ってもいい位なのだが、新聞部の活動もあるためいける日が限られてくるのだ。
「俺が好きでやってることだから気にしないで。それに俺の方から首を突っ込んだのだからせめて夏菜ちゃんが退院するまで付き合わせてよ」
誰に言われたでもなく、俺が勝手に首を突っ込んだ事で今の状況に至った。それなら、最後まで見届ける責任が俺にはある。
「……わかりました。よろしくお願いします」
そんな俺の気持ちを汲んだのか、井波さんはそれ以上何も言うことはなかった。
これからの事で気になる事がある。
それは……。
「今後、叔父さんの援助はないけど、金銭的に大丈夫?」
そう、今までは何だかんだ言ってアダムからの経済的な支援があったが、これからはそれが無くなる。
それがずっと引っ掛かっていた。
俺の唐突な質問に俯く井波さんがゆっくりと口を開く。
「……実は、夏菜を取り戻した今の私の一番の心配事がそれです……」
一応、今の住まいと両親が残してくれた遺産があり今すぐどうにかなると言うことはないのだが、夏菜ちゃんの治療代とかなんとかで結構減っているらしく両親の遺産は心許ない状態だとか。
「やっぱりね……で、金策はあるの?」
「迷宮に潜ろうと思います」
「はぁ?」
まったく持って予想だにしていなかった返答に素鈍狂な声が漏れる。
それはそうだろう。
迷宮は、フィアーが蔓延る謂わばフィアーの巣窟。
非戦闘系の井波さんが潜れば下手したら迷宮までたどり着く事すらできず
そんな事は井波さんもよく分かっている筈なのに……。
「どうしてその結論に至ったのか、教えて」
「迷宮の中では私のアークが役に立つと思ったからです」
井波さんのアーク【
井波さんの役に立つと言うのは、迷宮の中でフィアーを倒すことによって手に入るドロップ品の事を言うのだろう。ドロップ品は運任せだからな確かに、井波さんのアークであればレアドロップ品のドロップ率が高くなる。
ーーだけど
「井波さん、フィアー相手に戦えるの?」
「……いえ」
「じゃあ、どうするの?」
「私のアークを明かして何処かのパーティに入れて貰うつもりです」
「本気なの?」
「はい、何か問題でも?」
と真顔で返してくる井波さんに若干の頭痛を覚える。
「問題だらけだよ。君のそのアークは迷宮に潜ることで生計を立てている者達にとってかなり有用なアークだよ。喉から手が出る程にね」
「それなら、いいじゃないですか」
「良くないよ。迷宮に潜るのは必ずしも規約遵守の調達屋だけじゃないんだ。野良のアークマスターだって少なくない。そんな奴らに君のそのアークを知られたら、奴隷の様に悪用されるか最悪売られる事もあり得る」
井波さんのこの性格だ、コロッと騙せれてこき使われるかどっかの金持ちに売られるのが関の山だろうし、レアドロップ率を上げるアークマスターであればさぞ高値で取引されるだろう。
「そんな……」
俺の言葉に消沈する井波さん。
リスクについえ本当に何も考えてなかったんだな……。
しょうがないな……。
最後まで面倒を見るって決めてたしな。
「井波さんさえよければ俺が鍛えてあげるよ」
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