第46話「脅し」
「そ、そんなぁ、こてつぅ……」
腹心である相川が倒されたのを目の当たりにして、
その場でへなへなと尻もちをつくミズ・リンダ。
その顔は真っ青に染まっている。
もうすぐ【
「ミズ・リンダ」
「ひぃッ!?」
「そんなに怖がらないでよ。貴女が俺に何かしない限り、俺が貴女を害する事はないからさ」
「聞いてないわよ……なんで、あんたが、銀の乙女団のエースがこんな島国で学生なんてやってるのよ」
「俺にも色々とあるんだ。【
「なんなのよぉ、お願い? 脅しの間違いじゃないの?」
「別にどう捉えるかは貴女次第だから脅しに聞こえるならそれでいいよ。あんまり難しい事をお願いするわけじゃないから気負わずに聞いてほしいんだ」
ピシピシッと【
「もう限界が近いようだし、話を進めるね」
「…………」
「俺がお願いする事、それは、今後決して井波さん達に近づかないこと」
「そ、そんな事できるわけないじゃないの! 【常世の楽園】の護衛料が一体いくらすると思っているの!? 私達ホワイトタイガー日本支部の売り上げ全体の4割よ、4割! それを手放せっていうの!?」
「別に手放さなくてもいいよ。貴女達は引き続き【常世の楽園】の護衛をすればいい。ラッキーホルダーのない【常世の楽園】のね」
井波さん達がいなくなってもラッキーホルダーが無くなるだけで【常世の楽園】自体は存在する。
「ラッキーホルダーが無ければ【常世の楽園】なんてすぐに潰れるじゃない!」
「人の弱みにつけこんで手に入れた力でしか成り立たない組織なんて潰れてしまえばいい」
「……も、もし、断ったら?」
「断るという選択肢があると思ってるの?」
「やっぱり脅しじゃない……うちの団長が黙っていないわよ!?」
「黙っていないかぁ……別にそれでもいいよ。そうなったら俺が本気でホワイトタイガーを潰しにいくから」
「……本気で言っているの……?」
「ここで嘘をつくメリットはないと思うんだけどね。今すぐにでも
「……マジ、なのね?」
「うん、本気だよ。で、どうする?」
「……分かったわ……。井波春風と井波夏菜にはもう手を出さない。その代わり上に報告はさせてもらうわよ」
「うん、いいよ。ありがとう、ミズ・リンダが物わかりのいい人で良かったよ。じゃなかったら皆殺しにしないといけなかったからね」
「は、ははは……皆殺しって……」
ミズ・リンダがどれくらいの権限を持っているかは知らない。ここで俺の要求を突っぱねるのなら、ホワイトタイガーを徹底的に潰す必要があった。
そうなれば、向こうの被害は甚大になるだろう。
俺も無駄な殺生を好んだりはしない。
平和で終わらせられるなら、それに越したことはない。
「あっ、それとここにいる全員に俺の存在を漏らさないための制約を設けるからね」
右手を上げる。
すると、そこに光が集結する。
「【
すると光の杭が俺以外の人達の心臓部にスーッと入り込む。
【制約の釘】は対象と術者の力の差が離れている場合にだけ発動可能な強制力のある上級アークマスター【
つまり、ここにいるミズ・リンダのを含む全員は俺の正体を他人に漏らすことが出来ない。
「【制約の釘】ですって!?」
「銀の乙女団のブラックマンティスはここにいなかった。ここにいるのは鷹刃冴子の養子である鷹刃海人なんだ。それを分かってもらえると嬉しいかな」
「もし、制約を破ったら……」
「ご想像にお任せするよ」
「……ッ……」
「じゃあ、解除よろしく」
ミズ・リンダが何かぶつぶつと呪文の様な物を口ずさむと、パリーンと音を立てて【仮想空間】は、粉々に砕ける。
「鷹刃君!」
俺の姿を確認した井波さん。
俺に駆け寄り、両手で俺を包み込む。
柔らかくて、暖かい……。
「大丈夫!? 怪我してない!? ごめんなさい、私のせいで……巻き込んでしまって」
「俺が好きでやった事だから、気にしなくていいよ」
「良かった、良かったよぉ」
「ミズ・リンダとは話がついた。もう、奴らが井波さん達には手を出すことはないよ」
「本当、に?」
「うん、本当に」
「嘘をつくなああああああッ! 私が奴らにいくら払ってると思っているんだ!」
アダムは顔を真っ赤にしながら俺に怒鳴り付ける。
「貴方がどんなに凄んでも答えはもうでているんだよ」
「ミズ・リンダ、これは、どう言うことだ!? まさか、この私を裏切るのかッ!?」
アダムは唾を飛ばしながらミズ・リンダに詰め寄ると、ミズ・リンダはかなり迷惑そうな顔で答える。
「裏切り? 違うわ、私達の負けよ。その坊やには逆立ちしても勝てないわ」
「何を……」
「あんまり、難しく考えたらメッよ。ただ、生きることだけを考えなさい」
「はぁ!? 俺は生きてるだろうがッ!」
「そんなちっぽけな命、一瞬で消えるわよ……」
それだけを言い残してミズ・リンダは、配下達を連れて部屋を出る。
「待ってくれ! あんた達がいなくなったら、私はどうすればいい!?」
アダムの泣き言にミズ・リンダから言葉が返ってくる事はなかった。
「ふざけるなあああああああああ! 後、もう少しで本島に進出するはずだったんだぞ! はるかああああああ!」
俺に抱きついている井波さんに手を伸ばすアダム。俺は、その腕を掴む。
「離せえええ! クソガキがああああ!」
「やめなよ。もう、いいじゃん。井波さん達を解放してあげなよ」
「だまれえええ部外者! お前に何の権限があって俺の行く道を阻むんだッ!」
「権限? 友達権限かな?」
「ふざけるなああああ! はるかああああああ! 絶対許さないぞおおお! お前を必ずーーッ!?」
俺はアダムの首元に短剣を突きつける。
首の皮一枚で刃は止まっている。
一応こんなんでも井波さんの血筋の者だというの事で色々と大目に見てきた、が、これ以上は……。
「これから先、万が一お前が井波さん達に害を及ぼすというなら、いつ何時でもお前の前に現れてその首をかっ切ってやる」
殺気をたっぷり込めてそう言い放つと、アダムは白目を向き泡を吹きながらその場でバタりと気を失った。
俺の脅しが効いたかどうかはわからない。
効かなかったのであれば、腕の一本や二本落として痛い目にあってもらうだけだ。
いまだに俺の身体に腕を絡めている井波さんの腕をほどき、寝息を立てている夏菜さんを背負う。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
こうして、【常世の楽園】と井波さんの問題はひとまず幕を閉じたのであった。
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