第42話「幾度なく私を救ってくれた人」
~春風視点~
鷹刃君が私達の部屋を出て数時間後、私達が泊っていたホテルの部屋に数人の黒服の男達が押しかけてきました。
どうして?と思っていましたが、黒服の男達の後ろにホテルのフロントマンの男が立っていました。昨日、チェックインをした際に対応してくれていた人です。
「あぁ、良かった。まさか、アダム様のご親族の方々がこのホテルに囚われていたなんて!」
「よくやった。これはアダム様からだ」
「あぁ、ありがたき幸せ……」
黒服の男の内の一人が、フロントマンにラッキーホルダーを渡していました。
大きさからすると上級会員専用の物です。
涙を流しながらそれを受け取っているフロントマン。
どうやら、このフロントマンは【常世の楽園】の会員で私達の事をリークしたのでしょう。
私の隣にはスヤスヤと寝息を立てている夏菜がいます。
それ以前に自分一人の力では、この屈強そうな男達にあらがう事はできません。
そう悟った私は、成す術もなく黒服の男達が乗ってきたバンに乗せられ、7区にあるホテルの一室に連れられてきました。
「はるちゃん……あ、れ? ここ、どこ?」
この場所も、私達が置かれている状況もうまく説明ができません。
「大丈夫。大丈夫だからね夏菜」としか口にする事ができない無力な姉に対して、夏菜はこくりと頷いて答えてくれました。
少し待っていると部屋の扉が開かれ、数名の男女が姿を現しました。
その先頭には露出度の高いスリットドレスを身に纏う美魔女、ホワイトタイガー日本支部長のミズ・リンダ。
そのすぐ後ろに白虎会の相川虎徹会長と満身創痍な黒田さん。
そして、一番後ろには私が一番会いたくない人物……そう、叔父である金城孝哉です。
叔父は不機嫌そうな顔で私達の前に近寄ってきます。
「やってくれたな? 春風」
「それはこっちのセリフです! よくも今まで夏菜をッ!」
自分を騙していた事より、夏菜に対する仕打ちが腹立たしい!
「何が悪い! 春風、お前はただ生活しているだけで、夏菜は寝ているだけで、何万の者達が救われるのだ!」
何一つ悪びれる様子のない叔父の態度がもっと赦せません!
「まぁ、いい。夏菜は私が預かる。そして、お前は今まで以上に【糧】を集めるのだ。いよいよ本格的に本島に進出するのだからな」
「嫌です! 夏菜は渡しません! 私も、貴方に加担するつもりはありません!」
「分かってないなぁ~春風。別にお前達の許可なんか要らないんだよ」
そう言って叔父は徐に両手を広げます。
そう、この部屋の中に私達の味方が誰一人いないと言わんばかりに。
「お嬢さん、一つ確認したいことがあるんだが」
そんな中、相川会長が私の方に寄ってきます。
「……なんですか」
「鷹刃海人を知っているな?」
「……」
「沈黙は肯定と取る。黒田をやったのはそいつなんだな?」
「鷹刃君は、私達とは関係ありません」
これ以上鷹刃君に迷惑はかけられません。
相川会長はじっと私の目を見た後、ふうとため息をつきます。
「お嬢、貴女達を助けに来ると鷹刃海人本人から連絡を貰っている」
「――ッ!?」
「姐さん、どうしますか?
「う~ん、別にいいんじゃない? 知らぬ存ぜぬでいきましょう。元々、うちらの縄張りを荒らしてきたのはその海人って子だし? いくら
「分かりやした、では、その方向で」
「やめてください! 鷹刃君は、関係ないんです!」
「奴が、貴女達の事を諦めてくれるのであればこちらから何かをするつもりはない。部下が数人やられはしたが、そんなもの銀の乙女団と事を構える事を考えれば遥かに建設的だろう」
相川会長は、そこで一度言葉を切り、一度何かを考える仕草を見せ、言葉を続けます。
「でも、奴はここで貴女達を諦めるような男なのか?」
いくら鷹刃君が強いからって、ここにいる人達はトップランク傭兵団員です。
鷹刃君に危険が及ぶのなら、私達の事は諦めて欲しいと切実に願います。
でも、鷹刃君はきっと――。
「そういう事だ。結局奴とはやり合うしかないんだよ。心配するな、姐さんの言う通り殺しはしないさ。別にこっちも部下が殺されたわけでもないしな。部下達と同じように痛い目にあってもらうだけだ」
「銀の乙女団? 先ほどから何の話をしているのですか?」
一人だけ話についていけない叔父が不機嫌そうに相川会長に言い詰めようとしたその時でした!
「なッ!? ま、まさか!?」
窓際に立っていた白虎会の人の驚愕の声が部屋中に響き渡ります!
「どうした!?」
尋常でない部下の様子に相川会長も声を荒げます。
がしゃやあああああああん!
「あぎゃっ!」
窓ガラスが割れる音と共に白虎会の人が吹き飛びます!
「な、なんだ!? 何が起きた!?」と叔父もパニック状態に陥ります。
「あぁ……あぁあ……ッ」
私達の視線の先に立っていました。
幾度なく私を救ってくれたあの人が……。
「どうも、友達を返してもらいにきました」
鷹刃君が、涼しげな表情で立っていました。
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