第41話 「怒り」

 のんびり歩いていると遅刻してしまうため駆け足で学校へと向かう。


「ここまで来ればもう大丈夫だよね」


 ホテルからある程度離れたところでホテルを出る前に発動させていた気配遮断のアークを切るとその瞬間、四方八方より無数の視線が俺に向けられる。


「へぇ~結構いるもんだね」


 井波さん達の足取りが追えないため、もう一人の当事者である俺を監視して井波さん達にたどり着こうとしているのだろう。

 それにしても……。


「俺がいきなり現れてさぞ驚いているよね」


 悪戯が成功した時の様な楽しい気分ってこういう事なのかなと悪戯というものをした事がない俺は勝手にそう思う。


 まぁ、今のところは俺に対して接触してきそうな気配は感じられない。

 恐らく、今、俺を監視しているのは斥候に長けた者達だと思う。

 擬態系赤ランクである黒田を簡単に捻りつぶした俺に対して、そんじょそこら斥候担当では荷が重いと感じているに違いない。

 斥候の役目は俺の事を監視し、頃合いを見て戦闘特化の者達にぶつけるという算段だと思われる。


「早ければ今日にでも終わりそうだね」


 井波さんには明日までに決着をつけると言っていたが、上手くいけば今日中に決着をつけられそうだ。


「こっちが釣ってやればいいからね。放課後にでも仕掛けてみよう」


 緩む口元を抑えて学校へと急いだ。



「おはよう、鷹刃君」


 ギリギリホームルームに間に合った俺に一番最初に反応したの誰でもない委員長の三宅さんだった。


「おはよう、委員長」


 三宅さんは、じっと俺の顔を見つめている。

 それこそ俺の顔に穴が空くほどに。


「……何も言わないんだね」


 どうやら昨日の7区での話をしているらしい。


「そうだね、三宅さんが俺に何か言いたいのなら聞くし必要であれば君の力になるよ」


 人は各々の人生を生きているんだから何が真実なのかは当事者でないと分からない。


 高校生が繁華街で自分を必要以上に着飾って中年の男の腕に絡まっている様子は普通ではないと浮世離れしている俺でも分かる事だ。

 だが、それは俺がそう思うだけで三宅さんにとってはそうではないかもしれない。

 だから、俺から率先して口を出す事は出来ない。

 その上で三宅さんもそれを普通とは思わず、困っているのであれば力になりたい。

 この先、三宅さんに俺の事を覚えて貰えるために。


「そんな言い方……ズルいよ」

「ズルい? 凄く明確な事だと思うよ。君が困っているなら助けを求めればいい」

「……そんなの、出来る分けないじゃん」

 

 ――ガラガラガラ


「おらぁ、マコ! いつまでくっちゃべってんだ!」

「おッ、やばいZE」


 担任の絶妙なタイミングでの登場により三宅さんとの会話は消化不良のまま中断され、その日、三宅さんと再び言葉を交わす事はなかった。


「あれ? おかしいなぁ……」


 放課後、校門の外に出た俺はある違和感に気付く。

 朝、あれだけあった俺に対する視線が激減しているのだ。と言うよりたった一人しが俺の行動を観察していない。


「……まさか」


 俺はデバイスを起動し、井波さんに電話を掛ける。


「……でない」

 

 恐らく俺が今考えている事が正解なのだろう。

 答え合わせをするために、俺を監視している視線の元へと移動する。


「ちょっと、いいかな」

「なっ!? なんで、ここが!?」


 視線の主。タッパは俺より頭二つ大きいが、身体の線は細い男が俺の登場に驚きながらも手に持つナイフを俺の首目掛けて突きだす。


「いや、そういうのはいいから」

「なッ!?」


 俺はナイフの切っ先を手の平で受け止め、そのままナイフ握る。

 男は何度も俺の手中からナイフをとり戻そうとするのだが、俺がそれを赦すことはない。


「ねぇ、もしかして、井波さん達を連れていった?」

「………………」

「悪いけど、今かなり機嫌が悪いんだ……もし、答えてくれないというならッ」


 自分が気配を遮断して動き回る事で井波さん達の居場所にたどり着く事はないと思い対策を怠った。

 これは、俺の油断が招いた事だ……が、元を辿ればこいつらが悪い。

 悪いけど八つ当たりに付き合って貰うことにしよう。 

 戦闘モードに入る。

 今の俺は、敵を駆逐するだけの戦闘マシーンだ。

 俺の身体から発せられる殺気に当てられた男の顔から生気が消えていく。


「あわ、わ……」

「10秒以内に答えろ……もし、答えないと言うなら10秒過ぎる毎に貴方の身体に無数とある骨を一本ずつ折っていくから」

「そ、そんなこと出来るわ、ぎゃあああ!」


 左腕を折る。


「たかだか腕一本折られて位でギャーギャーと……更に10秒」


 右腕を折る。


「ぎゃああああああ!」

「ねぇ、そんな騒いでばかりいたら時間だけが過ぎていくだけだよ? ほら、また10秒過ぎちゃった。次は、右足「ま、待ってくれ! は、はなす、話すから!」へぇ、意外と根性なかったね」

「……ぐッ……」


 俺の言葉に男は恨めしそうな表情を向ける。


「それで? 井波さん達をどこに連れていったの?」 

「俺達白虎会の親、ホワイトタイガーの日本支部だ! 学生のお前だって名前くらいは知っているよな? あのトップランク傭兵団のホワイトタイガーだ! 少しできるからって調子に乗りやがって! お前は終わりだよ! どこに逃げ隠れても必ず探し出して生き地獄を味合わせてやるからな!」


 俺に折られた腕の痛みで男はアドレナリンマックスなのだろう、かなりおかしなテンションになっている。

 なるほど白虎会の親が出てきた訳か。

 最悪ホワイトタイガーと事を構えることになりそうだけど団長から許可は貰ってるし問題はないだろう。


「そう。それで? それはどこにあるの?」

「はぁ? 話聞いてたのか? ホワイトタイガーって言ったんだぞ!?」

「だからなに?」

「何って……お前、まさか行く気なのか!?」

「そんなの当り前だよね? だって、そこに井波さん達がいるんでしょ?」

「お前、頭おかしんじゃないのか?」

 

 どうやらこの男は、ホワイトタイガーの名前で俺が委縮して逃げ回るとでも思っていたのだろう。まぁ、それは普通に考えれば仕方のない事だ。だって、この男の目に映る俺は【銀の乙女団】の団員ではなく、ただの学生なんだから。


「10秒で答えないと右足粉々にするよ」

「待ってくれ! 7区にあるセブンラックパラダイスの最上階だッ! そこが、ホワイトタイガー日本支部の本拠になっている!」


 男の右足を掴み強めの口調でそう断言すると、男は大慌てでホワイトタイガーの日本支部の場所を吐く。


「また、7区か……」


 ほぼ毎日7区に入り浸っている気がする。


「あ、そうだ。手っ取り早く済ませたいから、俺、鷹刃海人がそっちに行くって事を貴方の上司に伝えてもらえると嬉しんだけど」


 俺は、男にそう言い残し7区へと急いだ。

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