第43話「勘違いしているようだけど」
~海人視点~
セブンスステーションからバスを乗り10分。
目的地である【ヘブンズガーデン】が見えてくる。
大小10のカジノホテル、及びそれに隣接するショッピングモール・劇場・スタジアム・飲食店・テーマパークが林立し、世界有数のギャンブル街であるヤマトアイランド第7区の象徴とも言える場所だ。
そして、ヘブンズガーデンの中でもひと際背は低くいが面積のある地上17階建てカジノホテルであるパラダイスガーデンヤマト。
その地下1~3階にはホワイトタイガー日本支部のメイン収入源であるセブンラックパラダイスというカジノが入っている。
そして、あの斥候の男の話だと井波さんは、このホテルの最上階にあるホワイトタイガー日本支部の拠点に連れ出されている。
「さて、ちゃんと俺からの伝言は伝わっているようだね」
ホテルの周辺を両手では収まらない人数のアークマスターらしき者達が徘徊している。
「ちゃんと警戒してくれて何よりだ。うん? 何やってるんだろ」
ホテルの入口の方が騒がしい。
よく見ると白髪頭の中年の男がホテルの従業員らしき男達と押し問答をしているように見える。
まぁ、俺には関係のない事なのですぐに興味を無くす。
それに今は優先しないといけない事があるしね。
「さぁてと、井波さんの居場所を探るとするか」
井波さんの居場所を探るために
ホテル全体ではなく最上階に場所を特定した事ですぐに井波さんを探し出すことができた。
「ホテルの最上階の丁度中心部分か……よし、行くとするか」
アークによる身体強化を施し、俺は一気に駆け出す。
俺の本気のスピード。
そこら辺で徘徊しているマスター程度では感知する事はできないだろう。
いちいち相手にするのも面倒なので予め敵の戦力をある程度分散させるためにあの斥候の男を利用した。
馬鹿正直に正面から乗り込んでこの人たちを相手する事はない。
では、どうやって井波さんの元までたどり着くのかって?
簡単な事だ、そのまま駆け上ればいい。
ホテルの外壁に右脚のつま先が触れた瞬間に重力操作を駆使し重力を反発させ、身体を上空に引っ張るようにして一気に登っていく。
シュタタタタタタ!
地上から目的地まではおおよそ60メートルほど。
瞬く間に、目的地である最上階の井波さん達が囚われているだろう部屋に辿りついた俺は、斜め飛び上がる。
窓の外から部屋の中を一瞥する。
窓の付近には数名の男が立っており、井波さん達は部屋の中央で拘束されていた。
井波さん達が窓際付近にいない事を確認した俺は、重力操作のアークを駆使して三角飛びの要領で窓ガラスを粉々に粉砕する!
がしゃやあああああああん!
「あぎゃっ!」
窓際で突っ立ていた男が俺の急襲により使い物にならなくなる。
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
「どうも、友達を返してもらいにきました」
「鷹刃君!」
心配そうな表情の井波さんに「大丈夫だから、少しだけ待ってて」と伝える。
「なんだお前は!?」
薄紫のローブを纏った長髪の男が声を荒げる。
「あれ? もしかして、メッセージ届いてなかったのかな」
このホテルの周辺にいかにも堅気とは思えないマスターが多数徘徊していたのでてっきり俺のメッセージが届いていたと思っていたが……。
「黒田!」
「はいッ!」
昨日、俺にボコボコにされた黒田が背筋を伸ばして返事をする。
「昨日お嬢と一緒にいたのはこいつで間違いないな?」
「はいッ!」
「そうか……お前が鷹刃海人か」
ローブ男の後ろに立っていた威厳のありそうな中年の男がそう問うた。
「うん、俺が鷹刃海人だよ」
「どういうことです!? 相川会長、貴方はこの少年を知っているのですか!?」
「アダムさん、少し黙っててもらえねぇですかね」
「何を言っているんです!? 私は貴方達、白虎会の雇い主なのですよ!? そんな私を差し置いて「黙れって言ってんだよ!」ひぃッ」
そうか、この人が井波さん達の叔父アダム、金城孝哉か。
それに先ほどの黒田の態度とアダムの話を聞く限りこの相川って人が白虎会の会長で間違いないだろう。
「続ける。お前は、鷹刃冴子の養子で間違いないのか?」
「うん、団長の養子で間違いないよ」
「団長……そうか。では、今回の件が単純な子供の遊びで片付けられるとは思っていないよな?」
「子供の遊び? 何を言っているのか分からないんだけど」
「銀の乙女団の団長である鷹刃冴子の身内がホワイトタイガーのシマを荒らしている。これがどういうことか分かるかという事だ!」
「あぁ、そういう事ね」
「トップランクである2つの傭兵団が争う、そうなれば被害は甚大な物になる。それを互いに望んでいないはずだ」
「何が言いたいの?」
「もぅ! 察しが悪いわね。見逃してやると言ってるのよ。今回の起きた事をすべて忘れて今後こっちに介入しないと誓うなら今回の件は不問にしてあげるわ」
胸元がぱっくり開かれている赤いスリットドレスを身に纏った女の人が相川を押しのけて出てくる。
「あなたは?」
「ホワイトタイガー日本支部長のリンダよ。ミズ・リンダとお呼び坊や」
「つまり、そこの白虎会の会長さんの上司ってこと?」
「あっはん、そうよ。それで、坊やの返事を聞かせてくれるかしら? まぁ、答えは決まっているとお・も・う・け・どぉ」
「もし、俺が断ったら?」
「そんな選択肢なんてないでしょうけど。そうね……とりあえず坊やは半殺しにしてこの事をうちらの団長に報告するわぁ」
「そう……」
「鷹刃君お願い! ミズ・リンダの言うとおりにして! これ以上、迷惑をかけたくないの!」
井波さんは、両目に今にも零れ落ちそうな涙を溜めながらそう叫ぶ。
自分達の事を差し置いて俺の心配をしてくれる。
やっぱり井波さんはいい人だ。
だからこそ守って上げたい。
「春風ちゃんもこぅ健気に言っているわけだし、坊やもママに迷惑を掛けたくないわよね?」
このまま俺が井波さんにの問題に首を突っ込むと言うのならホワイトタイガー団長、
それは、俺も同感だ。
だからこそ、俺は団長にホワイトタイガーと揉める事について事前に許可を取った。だから、俺はなんの憂いなしにこの場に立つ事が出来ているのだ。
まずは、いくつかこの人達の考えを正して上げる必要がある。
「ミズ・リンダ」
「なぁに? 腹が決まったかしら?」
「いや、勘違いしているようだからいくつか正して上げるよ」
「勘違いですって?」
自分の求めていた答えではない事にミズ・リンダは若干の不機嫌を露にする。
「まず一つ目、今回の件に俺が絡む事で下手したら貴女達ホワイトタイガーとうちの戦争になるという事は最初から分かりきっていたということ」
「……それで?」
「もちろん、団長に貴方達と揉めるという事は事前に報告しているよ」
「--ッ!? そ、それで、
「大人同士のいざこざはこの母に任せて存分にやりなさい。つまり、団長の許可は得ているということ」
俺の言葉で室内にいたホワイトタイガーの面々に緊張が走る。
「う、嘘でしょ!? トップランク傭兵団であるうちらとやり合うって事がどういう事か分かっているの!? どれだけの被害が出ると思うのよ!」
「続いて二つ目、被害が出るのはそっちだけだよね?」
「何を言っているのかしら……」
「確かに、貴女達の傭兵団はトップランクと言われているけど、それって誰が決めたこと? ホワイトタイガーは団員の多さと豊富な資金源で周りがトップランクと周知しているだけで、そっちの白虎さんと数名の幹部以外は有象無象の雑魚。そんな雑魚集団とうちを一緒にしないでもらいたいんだけどね」
「なんですって!? ざ、ざ、雑魚集団ですって!? もう、我慢ならないわ! 二度と生意気な口が利けない様に徹底的に痛めつけなさい!」
鬼の形相のミズ・リンダの命令で、部下達が各々のアークを発動して戦闘態勢に入る。
「そして、三つ目。俺を貴女達如きでどうこう出来ると思っていることだよ」
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