第39話 「五聖」
国立ヤマト第一高校。
アークマスター育成に特化した世界有数のアークマスター養成の教育機関である。
そんな背景もあってか国立ヤマト第一高校通称イチコーには日本国内だけではなく、世界各国の優秀なアークマスターの原石達が集まっている。
そんなエリート集団の中にあっても突出した者は存在する。
それが、【
【五聖】とは、イチコーの2学年までで最も有能なアークマスター5人に送られる称号だ。
その任命権はイチコーの理事長が持っている。
【五聖】に選ばれた生徒は、校内においてあらゆる特権を手に入れる事が出来る。
また、アークマスターとしての主な進路先である【
現在の五聖は以下の面々だ。
第一席:大野内姫乃(2年生)操作系上級アークマスター【
第二席:宮本豪志(2年生)操作系中級アークマスター【
第三席:佐伯一輝(2年生)操作系上級アークマスター【
第四席:黒ノ崎みちる(1年生)操作系上級アークマスター【
第五席:エリザ・ローレル(1年生)操作系上級アークマスター【
【五聖】は必ずしも5つの席を全て埋めなくてはいけないという決まりはない。
例えば、【五聖】に相応しい生徒が4人しかいないと理事長が判断した場合は、1つの席は空席となる。
それ故、第五席は、エリザ・ローレルが転入してくるまでは空席だった。
そして、今日は月に一度の【五聖】月例会議の日。
――ガラガラガラ
真っ赤なアフロ頭の青年、操作系と擬態系のデュアルアークマスターである宮本豪志が【五聖】の定例会場である生徒会室の扉を開ける。
「よしッ、ギッリギッリセーフ!」
「何がギリギリセーフですの! 5分遅刻ですわよ! 宮本君」
「あれ? そう? あぁ~俺の時計5分遅れてたわ」
月例会議の時間に遅れてきた宮本を咎める【脳殺師】大野内姫乃に宮本は自分のデバイスを見せる。
そこに映し出された時刻は15:35。
月例会議の開始時間は15:30、つまり宮本の時計は遅れてなどいない事になる。
「1分たりとも遅れてないわ!」
「まぁ、そう言うなって」
「まったく……あなたって人は」
はははと宮本は軽薄そうな笑い声を上げながら空いている席に座る。
「久しぶりだな一輝。ミーコは元気か?」
宮本は、長身長髪の青年【重力操縦士】佐伯一輝の肩を軽く小突く。
「まぁな。てか、おせぇぞ豪志。俺の貴重な鍛錬の時間を無駄にしやがって」
「相変わらずの鍛錬バカだなお前は。もう充分つえーんだから、もっと休み休みやれよな」
「そんな暇はねぇ。アイツが待ってんだ」
「アイツ? 誰よそれ」
「ゴッホン! 定例会、初めてもいいかしら?」
顔をビクつかせながらそう言い放つ姫乃の迫力に気圧されたのか「お、おぅ……分かったから、そんなに怒るなって」と言って、無駄口を叩く事をやめる。
「まったく……さて、少し遅れましたが【五聖】の月例会議を始めます。まずは、私達【五聖】に新しいメンバーが加わりました。さぁ、エリザさん、自己紹介を」
4人の視線が一ヶ所に集まる。
そこには、欧米系特有の小さな顔に少しかかる程度に短めの煌びやかな金糸の様な髪。その下から覗かせているブルーサファイアの大粒の瞳は、じっと見つめると溺れてしまいそうな感覚に陥られる。
【歌姫】エルザ・ローレル。
ひと月前にこのイチコーに転入してきた留学生だ。
「………………」
「エルザさん?」
エルザは、一言も声を発する事も無くじっと姫乃の顔を見つめている。
「またか……」
エルザの隣に座っていたキッチリ七三分けの少年、【模倣師】黒ノ崎みちるがそう呟き、エルザの肩をトントンと叩く。
エルザは、自身の耳に指を持っていき何かを取る。
イヤフォンだ。
あぁ、それで呼び掛けても何の反応も無かったのかと2年生組は納得する。
エルザは、首を傾げながら「……なに?」とこの中で唯一面識のあるクラスメートの黒ノ崎に返す。
「自己紹介、してほしいんだって」
「そう……」
エルザは立ち上がる。
「エルザ・ローレル、よろしく……」
「えっ? それだけですの?」
疑問を投げる姫乃の言葉をスルーして、エルザは腰を降ろしまたイヤフォンを着けようとするのだが、姫乃が会議中だと叱咤を飛ばし、仕方なくイヤフォンを着けるのを諦める。
「まったく……では、改めて月例会議を始めます」
それから小一時間ほど月例会議は続いた。
会議中、何度かエルザが船を漕ぐような仕草を見せていたが、それを除けば会議は概ね順調に進んでいった。
「では、これで本日の会議を終えます」
姫華の締めの一言で会議は終わりを迎えた。
「豪志、これから潜るのか?」
「まぁな、あと少しで10階層だからな。休んでられねぇよ」
宮本は、現役高校生【調達屋】として活躍しており、その界隈ではかなり認知度がある。
【調達屋】には、ランクと言う物が存在しており、下はFランクから上はSランクまである。
大体Dランクから一人前とされ無色のカードがブロンズに変わる。そこから、C~Bランクが中級でシルバー、Aランクが上級でゴールド、Sランクは黒に変わっていく。
参考までに【調達屋】全体の数を100%とすると、F~Eランク20が%、Dランクが30%、C~Bランクが40、Aランクが10%と過半数が無色で一生を終える。
Sランクはごくわずかのため、この割合には含まれていない。
宮本は高校生さながら上位50%以内のCランク。
【調達屋】界隈では、若手No.1の有望株なのだ。
「一輝、さっき言ってたアイツってなんだ?」
「あぁ、この間タイマンを仕掛けて負けた」
「ーーッ!?」
佐伯の爆弾発言に、宮本、姫乃、黒ノ崎の視線が一気に集まる。エルザは、既に生徒会室から出て行ったのでこの場にはいない。
「お前が負けた? おいおい冗談だろ?」
「冗談じゃねぇよ。この俺が全く相手にならなかった……俺は、早くアイツに追いつかねぇといけね」
「お前にそこまで言わせるなんて、何者よ? お前に勝った奴は」
「サンコーの一年だよ」
更なる爆弾投下で宮本と黒ノ崎は困惑し、姫乃はその人物に心当たりがあるのかニィと妖艶は笑みを浮かべる。
「はぁ? 何バカな事言ってんだよ! お前に勝てる奴がサンコーいてたまるかよ!」
「しかも、一年生だなんて……同年代で佐伯さんに勝てるような奴なんて聞いたことがないです」
「まぁ、信じられないよな? だけど、事実だぜ? そいつの名前はーー」
「鷹刃海人……ですわね?」
「鷹刃? 鷹刃ってお前」
「その鷹刃で間違いねぇよ。【銀の乙女】鷹刃冴子の養子だそうだ」
「なんでそんな奴がうちに入らないでサンコーなんかに」
「さぁな。まぁ、そんなわけで行くわ。早く特級に上がってアイツにリベンジしないと行けないからな」
「特級って、そいつは特級なのか?」
「分からねぇ……けど少なくとも俺が特級に上がらないと勝負にすらならないと思う」
そんな意味深な言葉を残し、佐伯は生徒会室を後にする。
その背中を無言で見つめる宮本が未だに佐伯の言葉を呑み込められない中、姫乃は別の事を考えていた。
「やっぱり面白い少年ですわ海人……やっぱり貴方が良いですわ」
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