第31話「赦し」
刃威餌亡とのひと悶着から一夜が明けた。
今日もいつもと変わらず、スミとルミに挟まれ学校へと向かう。
「アニキ、何か良い事でもあった?」
「あ~それルミも気になってた! なんか、いつもと雰囲気が違うんだよね~機嫌が良さそうというか」
「そうかな? 自分ではよく分からないけど……良い事ならあったよ。昨日友達が沢山できたんだ。ほら」
俺は、デバイスを起動して連絡先一覧をスミとルミに見せる。
マコに謙三、弥太郎君にフミさん、それにRFXの他の面々。
家族と井波さんだけだった、ホログラム形式で映し出された連絡先がかなりバラエティ豊かになっていた。
「すごいじゃん! まだ、数日しか経ってないのに」
「ほんと意外。アニキって、浮世離れしてるから友達作りには苦労すると思ったのに」
ホッとしたような表情を向けるスミの傍らでルミがニカーッと白い歯を見せる。
「ねぇ~アニキ友達ちゃんとできるかな? 一人でご飯食べてないかな? って、スミねぇ凄く心配してたんだよ?」
「そうなの?」
スミの顔が見る見る赤くなる。
「凄くなんて心配してないから! ほんの少しだよ、ほんの少し!」
「そうか、ありがとう心配してくれて」
「か、家族なんだから当たり前でしょ!」
「あっれぇ~“あたしゃまだアニキだって認めてないし”って言っていたのに~」
ルミがスミのモノマネをする。
姿形がそっくりな双子なので、スミが言ってると錯覚するほどに似ていた。
「今でも認めてないし!」
「スミねぇ~言ってる事がめちゃくちゃだよ~」
「もう、知らないッ! ほら、急いで!」
急に駆け出すスミの背中を追うように学校へと向かった。
◇
「ナイスな朝だNA! カイトYO!」
「おはよう、マコ。今日も元気そうだね」
「おうYO! お前のお陰で最近の一番の悩みも解決したからNA!」
「そうか、お役に立てて何よりだよ」
下駄箱で一緒になったマコと雑談を交えて教室に向かう。
刃威餌亡を恐れて脱退した元仲間達のほとんどが戻ってくるらしく、かなり上機嫌のマコは軽やかなステップを踏みながら歩いていた。
「あッ、おはようございます」
「おはよう井波さん」
教室につくと、先に登校して席についている井波さんと挨拶を交わす。
「いよいよ今日だね」
「はい。……本当に大丈夫なんでしょうか?」
「うん、大丈夫。任せて」
「はい、任せます!」
凄く不安そうだけど、ちゃんと信頼はしてくれているようで何よりだ、
そうだ、あの事も聞かないと。
「白虎会って常世の楽園と何か関係があるの?」
「……なんでそれを?」
「昨日、マコが白虎会を口にした時に反応してたよね?」
「……はい。そんな事まで見ていたなんて凄いですね鷹刃君は。そうです。叔父は教団の警備を白虎会にお願いしているのです」
「なるほど、警備という名の用心棒という訳だね」
「はい。そして今日会う予定の秘書の黒田さんも白虎会の幹部の人です」
「何で白虎会なんだろう? 白虎会は第7区の中でも新参者の部類に入るし規模も大して大きくない。警備を任せるにはやや力不足と思えるんだけど」
第7区には、様々な規模の組織が存在している。
白虎会はその中でも下の方の規模だと思うのだが……。
「白虎会の後ろには、トップクラスの傭兵団のホワイトタイガーがいるんです」
「えっ、そうなの?」
「はい。叔父がそう言ってました」
「なるほどね。それなら納得」
ホワイトタイガーというトップクラスの傭兵団がついているのなら、暴力団やマフィアたちも簡単に手は出せない。
いや、トップクラスでなく中堅クラスの傭兵団が相手だとしても同じだろう。それ程までに互いが持つ
まぁ、中にはトップクラスの傭兵団と同じ様な戦力をもつ組織もあるが、俺の知る限り数える程しかない。
ホワイトタイガーが絡んでいるなら、下手に銀の乙女団の俺が介入するのはまずいのかなぁ。お互いの縄張りとかもある訳だし。
一応団長に話を通した方がいいな。
早速団長と連絡をとるために井波さんとの会話を切り上げて廊下に出る。
デバイスを起動し団長に電話を掛ける。
呼び出し音が鳴る事数回……。
『もっしも~し』
「団長、今大丈夫?」
『団長じゃくて、ママでしょ! ほら、呼んでみろ息子よ!』
「流石にママは……お義母さんで良い?」
『ぎゃ~~~カイトがお義母さんだって!!』
団長の背後から団のみんなの声が聞こえる。
テンションはかなり高めだ。
今、団のみんなは依頼で南米にいる。
あっちと日本の時差は+12時間くらいだから夜か。
みんなで飲んでる時間だね。
それなら団長達のハイテンションも頷ける。
「ごめん、団長。もうすぐホームルームが始まるから時間がないんだ」
『あぁ~かがりんが担任だっけ? あの子規律とかうるさいからね~。それでどうしたの?』
「困ってる友達を助けるためにホワイトタイガー傘下の白虎会って所と揉める事になるんだけど……丈夫かな」
『へぇ~友達できたんだ! 女の子?』
「そうだよ。井波さんって言うんだ」
『へぇ~やるねぇ~母としては、スミかルミのどっちかとくっついて欲しいけど』
「スミとルミは妹だしそれはないよ」
『数日前まで他人だったんだから問題ナッシングよ。さて、話が逸れたわね。アタシが駄目って言ったら?』
「団を抜ける」
『それをアタシが赦すとでも?』
「どうしても助けたいんだ」
団長から返答がない。
怒らせてしまったのだろうか……。
『……あなたを日本に行かせて良かったわ! 大人同士のいざこざはこの母に任せて存分にやりなさい!』
「ありがとう! あっ、先生来たから切るね」
『ねぇ、カイト』
「なに?」
『日本での生活はどう?』
「とても充実しているよ。友達も沢山できたし」
『そう』
「日本に送ってくれてありがとう! じゃあ、切るね」
『どういたしまして。ちゃんとご飯食べるのよ』
デバイスを切った俺は、先生が教室に入る前に席に着いた。
「団長からの赦しも出たし、あとは行動あるのみだ」
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