第29話「君が想像する以上の何か」
「えへへ、僕やったよ。初めてにぃちゃんの言う通りにしなかったよ!」
「どうやら俺の出番はなかったようだね」
フミさんに頭を撫でられ上機嫌な謙三。
謙三にとってはフミさんが、俺にとってあの少女なのだろう。
まぁ、結果オーライだ。
「そんな事ないぜ? あんたが謙三の事を止めて考える時間をくれた。それがなかったら説得なんて無理だったよ」
「うんうん。文乃ちゃんの言う通り君のお陰だよ!」
「そうか。役に立てたなら嬉しいよ」
よしこれで一件落着――とはいかなかった。
「何を和気藹々としてやがるッ!」
「ここで終わりにしなよ。謙三はもう君に従わない」
遠野のアークは一般人にしてみたらかなり脅威なものになるが、だからといって遠野自身が強い訳ではない。
だから今まで謙三の力を利用して競争相手を蹴落とし、刃威餌亡のトップという場所に座る事ができたとマコが言っていた。
謂わば遠野にとって謙三は最大の武器だ。その最大の武器を失った事になる。
「大人しく降参した方がいいと思うけど。君は自分の最大の武器を失った」
「はん! 何か勘違いをしているようだが、俺の最大の武器は謙三じゃねぇ【
【
バタバタと力を奪われた遠野の手下たちが地面に倒れ込む。
「ちょっと、謙三!?」
「うぅ……力が……」
謙三もだいぶ辛そうな感じだが、気を失わず耐えている。
「あぁ~~これだよこれ! 力が漲る! 俺はな今まで謙三に負けた事がねぇんだ! それはなこの力があるからだ。楽しいぜ? 弱った謙三を謙三の力でボコボコにするんだからよ」
「聞いてて気持ちのいいものではないね」
「軽口叩けるのもここまでだ。いくらてめぇが強くても謙三だけじゃないここにいる数十人の力を取り込んだ俺に勝てる訳ねぇんだからよ」
「今まで、これだけの人数を取り込んだ事は?」
「あぁん? ある訳ねぇだろ。いつもなら謙三の力だけで事足りるんだからよ」
「なるほどね」
「無駄話はここまでだ。ここでてめぇをぶっ殺して謙三をしつけ直さねぇとなッ!」
遠野の言葉が終る否や俺の目に遠野が現れ、拳を振り上げている。
流石に速い、が俺にはどうってことはない。
「なッ!? 避けた、だと!? いや、まぐれに決まってる!」
常人では目で追えない程の攻撃を難なく避けて行く。
「ぎゃははは! 防戦一方じゃねええか!」
「まぁね。わざとだから」
「はぁ? わざと? 何を言ってやがる」
時間にして一分弱。
そろそろだな。
パキッと乾いた音を皮切りに「あぎゃあああああああああああ!」という耳障りな遠野の悲鳴が響き渡る。
「な、何が、あったんだYO!」
「ただのオーバーワークだよ」
「オーバーワーク?」
「何十人分の力を取り込んでそれを行使するためには、その力に耐えられる身体が必要なんだ」
「つまり、遠野の身体が力に耐えられなかったという事なのかYO」
「うん。どうせ、何でも他人任せにして自分を鍛える事をしなかったんだろうね。謙三だけの力であれば筋肉痛くらいで済んだかもしれないけど何十人もの力となれば……今頃、遠野の全身の骨や筋はズタズタだと思うよ」
「それを解らせるためにわざと手を出さなかったのかYO」
「まぁね。身を持って味わってほしかったからね。自分の愚かさを」
「涼しそうな顔で……怖い奴だZEカイトYO」
◇
顔中の穴という穴から汚い液体を垂れ流し泣き叫ぶ遠野の声が耳障りなのでとりあえず眠らせた。
拘束から解放されたRFXのリーダーは思っていたより重症だった。
治癒系のアークを使っても良かったのだが所持していた回復薬をリーダーの傷を治す。
俺の力について他言はしないと思うが念のためだ。
「すまねぇ。助けてくれただけでも頭が上がらないのにこんな高価な回復薬まで……この礼は必ず!」
リーダーは、深々と俺に向けて頭を下げる。
「別に礼なんていらないよ。高々中級の回復薬だし」
「高々って、お前それいくらか分かってるのかYO!?」
「さぁ……2千円くらい?」
「バッ、0が全然足りねーYO!」
マコの話では、中級回復薬の小売価格は大体一つ97万円だという。
結構な金額だが俺の収納箱には腐る程ある不良在庫なので必要な人がいればドンドン使おうと思う。
「まぁ、こんなの腐るほど持ってるから気にしないでよ」
「腐る程って……いや、でも何もしないわけには……」
喰い下がるリーダーに一つの案を提示する。
「そうだね……あっ、ねぇ、謙三にRFXの人達に謝罪する場を設けてくれないかな」
「……へ?」
今回の襲撃は、謙三は少なからず関わっている。
兄の命令で仕方なく従った……これは、加害者の言い分であって被害者にはなんの関係のない事だ。
他の人達は知らないが少なくとも謙三とRFXの間に蟠りが残らないようにするべきだと思ったのだ。
「謙三もみんなに謝りたいよね?」
「うん……許してもらえるか分からないけど、謝りたい」
「リーダー、お願いできる?」
「あぁ、先ほどのやり取りで彼の人間性は十二分に解ったつもりだ。俺も出来る限りのフォローするよ」
「ありがとう」
「あ、ありがとう、その、文乃ちゃんの彼氏の人」
「あぁ……そのだな、フミは俺の彼女じゃないんだ」
「うん? どう言うこと?」
リーダーは、少し気まずそうに苦笑いを浮かべていた。
「実は最近変な女に付きまとわれててフミには彼女のフリをしてもらってたんだよ」
「そうなの?」
「うん、やっちゃんとうちは従姉妹同士だしな」
「今回の件でフミには迷惑掛けたし、もう付き合ってるふりはやめよう」
「えっ? うちは全然気にしてないよ?」
「お前が気にしなくても俺が気にするっちゅーの。お前に何かあったら叔父さん達に目も当たられない。それに、最近、あの女も俺の周りに現れなくなったしもう大丈夫だろうよ」
「やっちゃん……うん、わかったよ」
「と言うわけで、フミの事頼んだぜ謙三君」
「え? ぼく?」
「他に誰がいるのよ」
「で、でも、僕顔怖いし、身体が大きいし……」
「バカだな謙三は。大丈夫、うちは謙三の良いところたくさん知ってるから」
「いた、痛いよ文乃ちゃん」
フミさんに背中をバシバシと叩かれ顔を真っ赤に染めている謙三は凄く嬉しそうだ。
謙三は自分の容姿に少なからずコンプレックスを抱いているのだろう。
昔から謙三を知っている幼馴染みのフミさんであれば、謙三を色眼鏡で見る事はないだろう。
「良かったね、謙三」
「う、うん。ありがとう……えっと、ごめん、君の名前聞いてなかった」
「俺は、海人。鷹刃海人。改めてよろしくね」
「海人君かぁ、うん、僕の方こそ」
「俺、最近このヤマトアイランドに引っ越して来たばかりで友達があまりいないんだ。だから、俺と友達になってくれない?」
「僕なんかでいいの?」
「強くて優しい君がいいんだ」
「ぼ、ぼく、こんな見た目だからいつも怖がられて、友達なんていた事なくて……」
「じゃあ、俺が男友達第一号がな?」
フミさんがいるから、あえて“男”をつける。
「うん! 海人君は男友達第一号だよ!」
涙ぐむ謙三と握手を交わすとフミさんが良かった、良かったと自分の事の様に喜んでいた。
それから、RFXの溜まり場に戻った俺達はメンバーに事情を説明した。
謙三は謝罪を受け入れられただけではなく、なんとRFXのメンバーとしても受け入れられた。
新たな居場所と本当の仲間を手に入れた言えるだろう。
「ありがとう、カイトYO。まさか、俺達の悩みをこんなにあっさり解決してくれるなんて思ってもみなかったZE」
マコが気恥ずかしそうにパイナップルみたい頭を掻きながらそう口にする。
「君が想像する以上の何かにはなった?」
「あぁ、すげぇ奴だZEお前はYO」
RFXと刃威餌亡との問題はひとまず解決したとして、白虎会がどう出て来るか……いや、それよりも井波さんの妹さんが先か。
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