第27話「呪縛」
「てめぇ! フミに何しようってんだ!」
毛束を細かく三つ編みにした所謂ブレイズヘアをした青年が怒鳴り散らす。
青年の名前は、三石弥太郎。
RFXのリーダーだ。
弥太郎は、刃威餌亡の襲撃に遇いフミこと啄木鳥文乃と共に刃威餌亡の溜まり場に連れてこられた。
椅子に座らされ結束バンドで両手両足を縛られていた弥太郎は、執拗に暴力を振るわれたのか顔の至る所が晴れておりアザを作っていた。
そして、フミは数人の青年達に身体を押さえつけられ横たわっていた。
「ほらぁ、暴れるなよ~」
「放せ! うちにさわんじゃねぇ!」
押さえつけられた身体を動かして必死に抗おうとしている赤髪の少女の前に一人のミリタリー姿の男が近づき腰を落とす。
「よぉ相変わらず口が悪いな文乃」
「……謙二ッ」
男の名前は遠野謙二。
刃威餌亡の6代目ヘッドだ。
遠野とフミは、家が近所と言うこともあり、昔からの顔馴染みだ。顔馴染みと言っても仲が言い訳ではないが。
「謙二さんだろ? 俺とお前でいくつ離れていると思ってんだ! あぁん!?」
遠野はフミの白くか細い首を掴む。
「ぐ……ッ」
「ほらぁ、苦しいか?」
「やめろ遠野! その手を放せ!」
「てめぇは黙ってみてろ!」
弥太郎の晴れ上がった顔に手下の拳が刺さる、そんな弥太郎の様子にご満悦なのか遠野の糸目は更に細くなっていく。
「おっと、絞め殺すところだったぜ」
ぐったりしてきたフミに気付き遠野が手を離す。
フミは、げほげほと咳き込みながらもギッと遠野を睨み付ける。
「ちっ、気の強い女め……全然堪えやしない」
「げほ、げほ、お前なんかに負けてやるもんかよ」
「まぁ、いいや。はなっから痛みでお前を屈服させれるなんて思ってないからよ。おい、出番だ」
屋上に設置してある物置小屋の後から初見であれば誰もが目をそらしたくなるような、フランケンシュタインの様な風貌の巨漢が姿を現す。
巨漢の男は、遠野の元へとゆっくり近づいてくる。
「遅いぞ謙三! もっとキビキビ動けといつも言ってるだろが!」
巨漢の男、謙三は遠野に叱咤されたことにシュンとなり「ごめん、にぃちゃん」と背中を丸める。
巨漢の男の名前は、遠野謙三。
その名の通り遠野謙二の実弟で刃威餌亡の次期ヘッドである。遠野の実弟と言うことでもちろんフミとも面識がある。というより、謙三はこう見えてフミと同じ歳で幼なじみでもある。
「謙三……」
「あれ? 文乃ちゃん? どうしてここに?」
「謙二に聞きな」
「にぃちゃん、文乃ちゃんに何してるの? 文乃ちゃん苦しんでるよ? 放してあげてよ!」
「うるせぇぞ謙三!」
「ひぃッ」
「お前、昔から文乃のことが好きだったよな?」
「に、に、にぃちゃん! 文乃ちゃんの前でなんてことを」
想い人の目の前で暴露された事で謙三は大慌てになる。その顔はリンゴの様に真っ赤に染まっている。
まだ謙三は文乃の事を好いている確信した遠野は、弥太郎を指差す。
「見ろ謙三、あの男を」
「へ? 大変、ケガしてるよ? 早く病院に連れていってあげないと!」
弥太郎に近付こうとしている謙三を「待て!」と制す遠野は、卑下た笑みを浮かべる。
「いいのか? あの男は文乃の彼氏らしいぞ?」
「彼氏……?」
「そうだ。そいつは、お前が愛して止まない文乃の身体も心も好き勝手に弄んでいる野郎だ」
どうだ? 許せないだろ?
さぁ、苦しめ。そして、お前の手でその男をずたぼろにしろと遠野は畳み掛けるのだが……。
「ダメだよにぃちゃん。この人、文乃ちゃんの大切な人なんでしょ? そんな人に酷い事したら文乃ちゃんが悲しむよ」
「はぁ? お前、憎くないのか? 文乃の事すきなんだろ!?」
「もぅ、そんなに何回も本人の前で好きとか言わないでよ。恥ずかしいよ」
「そんなことを言ってるんじゃねぇんだ!」
「だって、文乃ちゃんが好きになった人なんでしょ? きっといい人だよ。そんな人を傷つけるなんて出来ないよ」
「……お前」
「くっくっくくく」
「何が可笑しい……」
自分に向けて笑いだすフミに遠野の怒りが蓄積されていく。
「実の兄貴の癖に謙三の事を知らなすぎなんだよ。謙三は、優しい奴だ。蟻も殺せない位にな。謙三が自己都合で他人を傷つけるなんてありえないんだよ」
遠野は、怒りで身体を震わせるのたが、すぐに震えを収め深くため息をつく。
「俺が間違っていた」
「にぃちゃん、じゃあ、文乃ちゃん達を」
「間違っていたよ。お前の意思を尊重しようとするなんてよ。俺が間違ってたよ!」
「にぃちゃん? 何を言ってるの?」
「命令だ。三石の目の前で文乃を犯せ」
「あんた……なんて、こと……を」
文乃を顔が真っ青に染まる。
こんな事になり、ある程度の事は覚悟していた。
だから、心を強く持とうともした。こんな状況で強気でいるのもそのせいだ。
だけど、その相手が謙三なら話が変わってくる。謙三は、謙二の命令に逆らえない。昔からその様に洗脳されているのだ。謙三が文乃に手を掛けてしまえば、恐らく謙三は壊れてしまう。
「だめだよ、だめだよ、にぃちゃん」
「ダメだ、命令だ。今すぐ文乃の服を剥ぎ取り、メチャクチャに犯せ」
涙ぐみ、身体を震わせながら謙三は文乃に近づく。
「出来ないよ、文乃ちゃんに酷い事をするなんて出来ないよ」
「やれっ!」
「ごめんね、文乃ちゃん。ごめんね」
何度も文乃に謝る。
文乃は、チラッと弥太郎を見る。やめろ!と叫んでいる弥太郎は謙二の手下に何度も殴られていた。
文乃は、心の中でごめんねやっちゃんと謝る。
「うちは大丈夫、気をしっかり持つんだよ謙三! 絶対に自分を見失うんじゃないよ!」
大粒の涙を浮かべる謙三の手が文乃の身体に伸びる。
「そうだ! 一気にやるんだ!」
遠野のテンションが最高潮に達しようとしたその時だった。
「はい、そこまで」
◇
ロン毛君に教えてもらった通り屋上に向かった俺は、今すぐにでも飛び込んで行こうとするマコを宥めながら様子を見ていた。もちろん、RFXのリーダー達に命の危険があるならすぐに介入できる状態で。
あの謙三と呼ばれてる巨漢の男は恐らく長い間兄に洗脳されてきたのだろう。頭の中では兄に背きたいと思っているが、心が、身体がそれを拒んでいるのだろう。だけど実に惜しい感じがする。あともう少しで兄からの呪縛を払えそうなのに……。
「カイト! このままだとフミがあのデカブツにヤられるZE!」
これ以上はだめか……出来れば自力で何とかしてほしかったんだけどな。
そう、俺は謙三が兄の呪縛を解き放たれる様を見たかったがためすぐに乗り込まずにこの場所で傍観していた。
「行こうか」
「よっしゃー! やっとだZE」
そして、今に至る。
「マコ……なんで、来たんだ……」
「あっちゃん、すぐに助けてやるからNA!」
「バカ、やろう、すぐに逃げろ」
こんな状況で自分の身よりマコの事を案じるなんて、いいリーダーだな。
「大丈夫、すぐに終わるから」
「なんだてめぇらは……」
「お助けマンだよ」
「あぁ! 遠野さん、こいつです! 昨日俺達がヤられたサンコーの!」
昨日俺に返り討ちにあった三バカがの一人が俺に気づいたので「やぁ、昨日ぶり」と軽く手を振る。
「ほぅ、てめぇがなぁ。大して強そうにも見えねぇけど、本当にこいつにやられたのか?」
「うっす」
「そうか、まぁいいか。どうせ、てめぇにとお礼参りに行こうと思ってたんだ。今日はRFXを潰して明日あたりにな。そっちから来てくれるんなんて、手間が省けたぜ」
そうか、今日はRFXに対する襲撃があったから俺の方にはこなかったのか。これで納得がいった。
さて、まずは……。
「おい、てめぇ! どこに行こうとしてんだ!」
「悪いんだけど少し待っててくれないかな」
俺は、フミさんを押さえ込んでいる謙三の元へと歩きだす。
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