第26話「俺にもメリットがあるから」
「刃威餌亡の溜まり場に乗り込む? リーダーも居場所も取り戻す? お前、気は確かなのか?」
「別に変な事を口にしているつもりはないんだけどなぁ」
「マコのクラスメートって言ってたよな? ということは、お前もアークマスターなのか? 何のアークマスターなんだ? もしかして上級――」
タクに顔に希望が宿る。
俺が上級アークマスターであればこの状況を打開できると思っているのだろう。
「アークマスターではあるけど、俺は中級の【
本当は違うけど、そう公言しているため正す事はしない。
「上級だったらサンコーにはいかないか……」
俺が上級でもなく中級アークマスターという事でタクは露骨にがっかりする。
まぁ、これが普通の反応だろう。普通に考えて上級アークマスターであれば、イチコーに進進むからね。
「悲観する事はないYO! カイトは、あの佐伯に勝ったんだZE!」
「佐伯? 佐伯って、あのイチコーの? 佐伯一派の佐伯か!?」
「ザッツライッ!」
「佐伯って言ったら、俺達の年代でもっとも特級に近いって噂だろ? 何かの間違いじゃねぇのか?」
「間違いないYO! 佐伯一派のやつに聞いたYO! 佐伯のやつカイトに手も足もでなかったらしいZE!」
「カイト、マコが言ってる事は本当なのか?」
「うん、間違いないよ。刃威餌亡にどれ程の実力者がいるか分からないけど佐伯君ほどの実力者はいないと思う。だから、俺に任せてもらえないかな?」
傭兵団でもない、高々
「……何で」
「ん?」
「何でそこまでしてくれるんだ? お前は、RFXとは何も関係ないじゃねぇか」
「何でって……困ってるんだよね?」
「まぁ、そうだけど……だからと言って」
まぁ、普通の人だったらこんな厄介事に自ら首を突っ込む事はないだろう。
団にいた頃から自分の死期が近づいてきているというのは薄々感じていた。
別に死ぬから生きている内に徳を沢山積んで天国に……という訳ではない。
死ぬことは元々覚悟していた事なので怖くはない、が寂しいと感じてしまう俺がいる。
この感情は、あの研究所にずっと閉じ籠っていたら知りえなかった感情だ。
団長や団のみんなと過ごし、そして、このヤマトアイランドで生活をはじめてそこまで時間は経っていないが色んな人達と出遭って笑い合っている。
死ぬのは怖くないけど寂しいと感じるのは出逢いの数に比例している様に感じられる。
そして、俺の命の灯が尽きるよりも時間の経過と共にみんながいつの日か俺の事を忘れてしまうのではないのかと思う事が怖い。
だから、困っているのなら助けたい。
恩を売るという訳ではなく少しでも長く俺の事を覚えていてもらうために。
昔話をした時にそういえばアイツいたよなとちょっとした話のタネになるために。
「いいんだ。俺にもメリットがあるから」
◇
刃威餌亡の溜まり場を知らないのでマコに道案内を頼んだ。
タクや他のRFXのメンバーも俺達と一緒にリーダーとその彼女であるフミって人を連れ戻しに行くと言っていたが、けが人も多いし足手まといなると言って断った。
メガネ君に関しては取材をしたいと言ってついて来ようとしてきたので、戦闘力皆無のメガネ君についても足手まといなのでRFXの溜まり場で待っている様に釘を刺してきた。
まぁ、彼らがいても問題はないけど一応念には念を入れる事にした。
「到着だZE」
コンクリート造りの10階ほどはありそうな建物。
ここが刃威餌亡の溜まり場らしい。
RFXの溜まり場であるトンネルとは違い、ちゃんとしていると言った方がいいのか。
「てめぇ! 何ジロジロみてんだゴラァ!」
建物の前でたばこを吸っていた赤毛の坊主頭と黒髪のロン毛の人相の悪い青年らが威嚇しながらこちらに近づいて来る。
「お、おい、本当に大丈夫なんだろうNA?」
「うん、問題ないよ」
先ほどまで隣で立っていたマコはサッと俺の背後に隠れる。
完全に委縮しているようだ。
「聞いてんのか!? ゴラァ!」
「なにシカトしてんだてめぇ!」
「あぁ、ごめんごめん。別に無視してたわけじゃないんだ。少し聞きたい事があんるんだけど」
「あぁん? 聞きたい事だと? てめぇ、頭沸いてんのか!?」
「ボコられる前にとっとと失せろ」
二人組はやたらと高圧的な態度で取り付く島もない。
「全然話にならないなぁ。まぁ、いいや。こんな所で時間をかけてられないし、行こうかマコ」
二人組を無視して建物の中に入ろうとするのだが「待てゴラァ!」と肩を掴まれる。
「放してほしいんだけど」
「はぁ? なに――ッ!? ぐぁッ」
赤頭の手首を握り返す。
少し力を入れただけで痛みによって赤頭君の顔は歪みそして、その場で膝をつく。
「お、おい! どうしたんだよ!?」
「こ、こいつ、なんて、馬鹿力……放せッ、くそ、こうなったら!」
赤頭君から魔法陣が発言する。アークを使う気だろう。
どれどれ攻撃性の火魔法「
つまり赤頭君は中級以上アークマスターという事か。
「消し炭になりなッ!
サッカーボール大の火の玉が俺の顔面に着弾し爆発する。
「か、カイトッ!」
「ざまぁ! ぎゃははは、死んだんじゃねぇのか!」
何が面白いのか、ロン毛君はゲラゲラと笑っている反面、魔法を放った赤頭君のしてやったり顔がどんどん具合の悪いものに変わっていく。
「う、うそ、だろ……直撃したんだぜ!?」
「どうしたんだよ! 何をそんなに取り乱してんだ?」
「お、俺の腕を掴んでいる力がちっとも弱まってねぇんだ!」
「はぁ? そ、それって」
靄の様にかかっていた火爆の煙が晴れる。
もちろん俺は無傷だ。
「やっぱりこんなもんか……」
避ける事もあまつさえかき消す事もできたがワザと受けてみた。
大したダメージにもならないし、そっちの方が相手をより深い絶望に落とせるからだ。
案の上、赤頭君もロン毛君も俺の予想していた以上にいい顔をしてくれている。
「無傷……ありえねぇだろ!」
「な、何なんだおま、ぎやあああああ!」
「あぁ、ごめん。折れちゃったね。つい力が入っちゃって。でも君も俺を殺すつもりで魔法を放ったんだからお互い様だよね」
もう持っていてもしょうがないので赤頭君の手を放すと恐る恐るマコが近寄ってくる。
「か、カイト、お前大丈夫なのかYO?」
「うん、大丈夫だよ。俺の身体って結構特殊なんだ」
様々なアークを扱える俺の身体は、状態異常耐性や魔法耐性など常人ではありえない程の耐性を持っている。俺の強みの一つとも言える。
「くッ、何者だよお前! サンコーのくせに!」
腕を持って蹲っている赤頭君を横目にロン毛君はかなり取り乱しているような口調で俺を罵る。
「ただのサンコーの生徒だよ。それで、君もそこの赤頭君みたいに俺とやりあう? それとも、素直に俺の質問に答えてくれる? 俺としては、赤頭君を早く医者に見せた方が良いと思うんだけど」
「……何が聞きたい」
「RFXのリーダーとその彼女さんはこの建物のどこにいるのか、しらみつぶしに探してもいいけどあんまり時間を掛けてくないんだよね」
「屋上にいる……」
「屋上ね。ありがとう。じゃあ、行こうかマコ」
「お、おうYO」
俺を睨むロン毛君の前を通って、ビルの中に入って行く。
その際に「お前、本当に凄いんだNA!」とマコはかなりハイテンションだった。
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