第25話 「俺が取り戻してあげるよ」
放課後、マコとメガネ君と共に校門をくぐった俺は予想外の展開に拍子抜けしていた。
予想外の展開とは、昨日痛めつけた刃威餌亡の連中のお礼参りがあると思っていたのだが……少なくとも校門前に奴らの姿はなかった。
だから、マコに「ああいう連中はやられたままではいないという事さ」と確信を持って言ったのだが……中々冷静に行動できる奴らなのか、それとも何かあるのか……。
「予想が外れたみたいだNA」
「うん、ああいう連中の事だからゾロゾロと仲間を引き連れて仕返しに来ると思ったんだけどね」
「まぁ、やつらの事だからやられっぱなしで黙ってはいないと思うZE。いつかはくるだろうYO」
「それならそれでいいけど、やる事がなくなったな」
「鷹刃君、凄く残念そうな顔してるね。刃威餌亡くらいの不良グループに狙われるってだけど僕なら家からでて来れなさそうだけどね」
ジャーナリストを目指す身としてそんな弱腰でいいのかメガネ君。
「まぁ、あんなのが何人いたって大した脅威にはならないからね」
「カイト、お前のその自信はどこからくるんだYO」
呆れているマコになんて返そうか考えて歩いていると「あっ、鷹刃さん!」と俺を呼ぶ声があり、それに反応すると。
「足立君、だっけ?」
佐伯一派の絆創膏君、足立次郎とその仲間達だ。
まぁ、今日は絆創膏をしていないが。
「そうっす! お疲れ様です!」
「お疲れ様です。佐伯君は元気?」
「はい! 鷹刃さんにリベンジするんだってめちゃめちゃ鍛錬してます」
「そうか。佐伯君が特級になれる日は思ったより早いかもしれないね。再戦するのが楽しみだ」
「鷹刃さんがそう言ってたって伝えれば佐伯さんも喜ぶと思います!」
「ちょっと待ってYO」
足立君と会話を交えていると不思議そうな顔のマコが話に割って入ってくる。
「どうしたの?」
「佐伯って、あの佐伯一輝の事だよNA?」
「うん、そうだよ」
「カイト、お前にリベンジってどういう事なのYO!?」
「実は二日前に佐伯君と一戦交えたんだ」
「なんと! そんな面白い事が!」
メガネ君が懐から手帳を出してもっと詳しくとペンを走らせる。
「そんな大したことはしてないんだけどね」
「何を言ってるんすか! あの佐伯さんが手も足も出なかった事なんて今までなかったんすから」
「と言うことは、お前が勝ったのかYO」
「まぁね」
「要メモ、要メモ」
「カイト、お前、一体何者なんだYO」
「普通の学生だよ、マコ達と同じね」
そう、今の俺は傭兵【双刃】ではなく普通の学生だ。
俺の返事に言葉が続かないマコを余所に要メモという言葉を繰り返しながらペンを走らせるメガネ君。
「俺らはそろそろ行きます」
「うん、またね。佐伯くんによろしく」
足立君達は、俺に向けて一礼してその場を去っていった。
「信じられないZE、あの佐伯に勝ったなんてYO」
マコは未だに信じられない様子だ。
「さっきどこからその自信がくるんだって聞いたよね? 佐伯君に勝ったからというのは答えになる?」
マコはコクりと頷く。
「じゃあ、マコのチームの溜まり場に連れてってもらってもいい?」
◇
フォースステーションで魔動列車に乗り込みマコ達のチームRFXの溜まり場のあるセブンスステーションへと向かう。
俺が佐伯君に勝ったという事を知ってからマコの態度が変わった。先程までこいつ大丈夫か?と疑っていた様子から、こいつになら!といった感じで信頼の全幅を寄せているのだ。
セブンスステーションに近づくにつれて魔動列車の窓越しに写り込む風景がガラっと変わる。聳え立つ無数のホテルらしき豪華な建物やドーム型のスタジアム、競馬場、それに何か分からないが巨大な円柱の建造物など多種多様な施設があり見ていて飽きない。
セブンスステーションに到着した俺達は西口から駅の外に出る。
RFの溜まり場に向かう道中、華やかな街並みとは似つかわしくない光景が目に写り込む。浮浪者達だ。
「酷い光景だろYO」
俺は戦場でもっと酷い光景を目の当たりにしてきた。だからなのか、そこまで酷い光景とは思わないのだが、やっぱりこの街のとのギャップが凄い。
マコの話によると、この場所にいる浮浪者達のほとんどはギャンブルによって金も家も家族も全て失った人達だという。元は億万長者だったっていう人も少なくないらしい。
彼らはこの場所に留まって人生最高潮だった過去の思い出に浸っているのだとか。
「
「いや、いないZE。以前、東口で刃威餌亡共の浮浪者狩りが頻発した事があってみんな西口に逃げていたんだZE」
「あっ、それ聞いた事あるよ。たしか、死人も出たとか」
「ザッツライト!」
「そうなんだ。酷い事するね」
駅から歩く事5分少々、ここら辺まで来ると浮浪者達の姿は見えなくなっていた。
「ここだZE」
マコが指さす場所、そこは
「トンネル?」
「だZE」
建物じゃなくても空き地や公園とかを想像していた俺にとっては肩透かしを食らった感じだ。
「おかしいNA」
「何が?」
「静かすぎるというか……いつもなら、何かしらの音があるんだけどYO」
訝しげな表情を浮かべるマコの背中をトンと叩く。
「いてっYO」
「ここで考えててもしょうがないし、取り敢えず中に入ってみない?」
「だNA」
トンネルの中に入る。
そこはブラックライトによって紫色に染まっており、外からでは想像がつかない程に明るかった。
だから、余計に際立って見えるのだ。
「ワッツ!? おい! どうしたんだYO!」
マコが取り乱すのも無理はない。
破壊されたスピーカーや楽器などがそこら辺に転がっており、RFXのメンバーだろう人達が地べたに座り込んでいて、その殆どが満身創痍といった感じだ。
「……ま、こ」
「タク、何があったんだ!?」
「奴らだ……刃威餌亡の奴らが急に押し掛けてきて……俺達をぼこって……うぅ……っ」
「くそッ! あいつら!」
マコの口調が普通になっている。キャラを維持する事を忘れるくらい取り乱しているのだろう。
「そうだ、リーダーは!? リーダーはどうした!」
「リーダーは、つれてかれた……フミちゃんと一緒に」
「なんだって!? なんで、止めなかったんだよ!」
「止められるわけねぁだろ……俺達の殆んどは普通の人間で、あっちにはアークマスターが、ゴロゴロいるんだぞ……どうにかなるわけねぇだろうがッ」
タクって人のいう通りだ。
いくら腕っぷしが強くてもアークの使えない一般人では、アークマスターには逆立ちをしても勝てないだろう。まぁ、戦闘系のアークマスターに限るけど。
「わりぃ、熱くなりすぎた」
「いや、いいんだ。俺達が黙ってリーダーを連れていかれたの事実なんだなからよ。それに、この襲撃でメンバーの離脱が本格化し始めた……もう、チームも終わりだろうな……」
マコとタクとの間に沈黙が続く。
俺が介入するならばここだろう。
「そのリーダーって人はどこにつれてかれたの?」
「誰だ、あんた。マコのツレか?」
「あぁ、この間うちのクラスに転入してきたカイトと元からクラスメートのメガネ君だ……ZE」
どうやら俺の顔をみてキャラを思い出したらしい。
「はじめまして」
「で、こっちは、サブリーダーの拓実だZE。みんな、タクって呼んでるYO」
「マコのツレなら、気軽にタクって呼んでくれや」
「うん、そうさせてもらうね。それで、リーダーの居場所は?」
「東口の奴らのアジトだ」
「そう……じゃあ、いこうか」
「は? 何言ってんだお前」
「何って、リーダーを連れ戻しにだよ。それに、刃威餌亡の連中にもう君達RFXに手出ししないように釘を刺さないとね」
俺の言葉にタクは、ポカーンとしていた。
いや、タクだけではない。
いつの間にか俺達の周りに集まってきた他のメンバー達も同じ反応だ。
「マコ、こいつは何をいってるんだ」
「何をって、聞いての通りだZE」
俺は畳み掛ける様に続ける。
「君達のリーダーも居場所も俺が取り戻してあげるよ」
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