第24話 「マコの事情」

「チーム? なにそれ」


 急に俺とメガネ君の話しに入ってきたスリーブロックのパイナップル頭をした色白の青年、マコに疑問をぶつける。


「俺のチーム、それはRFXアールヘフエックス

RFXアールヘフエックス? メガネ君、知ってる?」

「僕が知っているのは“誰にも何にも縛られず、自由に楽しむ”をモットーに十代の少年少女で構成されているグループってとこかな」

「ザッツライト! さすがだZEグラシスボーイメガネ少年


 メガネ君にチェケラッチョを向けるマコに対して褒められた事にまんざらでもないメガネ君。


「それで、マコのチームが刃威餌亡と敵対してるってのはどういうこと?」

「それは――」


 マコの話しはこうだ。

 娯楽区画である第7区画の駅、セブンスステーションの西口を縄張りとしているのがマコが入っているRFXというチームだ。

 RFXは何かを主目的として集まっているチームではない。

 様々な趣旨趣向を持ったメンバーが集まっている。

 たとえば、音楽に興味があれば同じ好き者同士でバンドを組んだり、躍りが好きな人達はダンスチームを作ったり、更にいえば異性との出逢いを求めてくる人達もいる。

 つまり何をやるにしても自由なのだ。

 そして、RFXと駅を挟んで反対側の東口を縄張りとしているのな刃威餌亡だ。

 フリーダムなリア充集団であるRFXとは違い、恐喝、暴力、強姦、窃盗などなどの悪事を息をするように行っている無法者集団。それが刃威餌亡だという。

 そんな刃威餌亡は西口を占有しているRFXが気に喰わないらしく度々ちょっかいをかけているらしい。まだ、警察沙汰になるような事案はないのだが奴らがいつ一線を超えてくるか分からないため戦々恐々としており、最近ではチームを抜けるメンバーも少なくないとか。


「それで、マコ達は刃威餌亡に対してどうしてるの?」

「悔しいけど、何も出来ないZE……奴らと戦える程の力もねぇ、そもそも自由をこよなく愛するオイラ達にはこれと言った団結力もねぇ……このままチームが解散する事を待つしかねぇZE」


 シュンと落ち込んでいるマコ。

 マコにとっては、RFXというチームが自分の居場所なのだろう。俺にとっての団と同じで。

 だからなのか親近感がわく。

 そんなマコに俺は敢えて聞いてみた。


「マコは、それでいいの? マコにとって大事な居場所だよね?」

「言い訳ねぇだろッ!」


 俺の言葉にマコが机を両手で叩き抗議する。

 教室内が一瞬で静まりこちらに視線が集まる。


「マコ、普通にしゃべれるんだね」

「いや、まぁ、てかそんなこと言ってる時じゃねぇZE!」


 あッ、戻った。


「じゃあ、マコはどうしたいの?」

「俺は、前みたいにチームとみんなと自由に集まってバカ騒ぎしたいZE」

「そう……なら、やることは決まってるね」

「決まってる? 何がだYO?」

「相手が暴力でマコ達を支配しようとするならより強力な暴力で相手を支配すればいい」

「それができりゃ苦労しねぇってんだYO! 奴らのバックには暴力団がついてて、その暴力団には奴らのOBも沢山はいってんだZE! ただのガキが立ち向かえる相手じゃねぇんだYO!」

「ガキ? 年って関係ある?」

「お前は何を言ってるんだYO。荒くれ者のプロみたいなもんだZE?」

「プロ? いやいや、暴力団って、アークマスターがいたとしても傭兵にも番人にも調達屋にもなれなかったアマチュア集団だよね? そんな相手に年なんて関係ないよ」


 俺の言葉にマコもメガネ君も、それに俺達のやりとりを注目していたクラスメート達もポカーンとしている。そんな中、一人だけ「クスクス」と控えめな笑い声をこぼす人物がいた。

 井波さんだ。


 いつもクールを装い、笑顔など見せた事のなかった井波さんのその反応に教室全体の視線が集まり「バカな……井波さんが……笑ってる?」と言ったざわざわ感が教室全体を包み込んだ。


「笑うところ?」

「えぇ、人の悩みを悩みとは思わない鷹刃君のそういう所すごくいいと思います」

「そうかなぁ。よく分かんないや。それより、マコ」

「なんだYO」

「連絡先交換しよう」

「ワッツ!?」

「刃威餌亡に何かされそうだったら俺に連絡して」

「……お前一人で何が出来るんだYO」

「多分、マコが想像する以上の何か、かな?」


 マコにとって俺は銀の乙女団の【双刃ブラックマンティス】ではなく、落ちこぼれサンコーのいちクラスメートだ。俺の実力なんてたかが知れていると思っているのだろう。

 だから、俺はもう一度あの手を使う。


「それに、俺の母親は【銀の乙女シルバーメイデン】鷹刃冴子だよ」


 一撃だった。

 先程まで訝しげに俺を見ていたマコはすぐに俺に連絡先を教えてくれた。

 井波さんの時と同じだなぁと思い、井波さんの方を見てみると俺が考えていた事を悟ったのかまたクスクスと控えめに笑い出し「また、井波さんが笑った……」とクラスメート達がざわつくのだった。


 マコと連絡先を交換したタイミングで茅野先生が教室に入ってきて、その日のカリキュラムが始まった。


 そして、お昼休み。


「マコ、刃威餌亡の事もう少し聞きたいから一緒にお昼たべない?」

「鷹刃君、赤西君はいつも女子と食べてて」

「いや、いいZE。一緒に食べるYO」

「うん。井波さんも、一緒にどう?」


 と隣の席の井波さんを誘ったところ、首を縦に振ってくれたので俺と井波さんの机をくっつけて、それを四人で囲むように座る。


「井波さんと仲良くなっててびっくりだよ」

「本当だZE。それに井波が昼休みに教室にいるのも大分レアケースだYO」

 二人の反応に井波さんが恥ずかしそうな顔を浮かべており、どうしたらいいか分からないといった様子でチラッと俺に助けを求める。

 困っているならそれが悪人でない限りは助ける。俺の信条だ。

 という事で本題に入る。

 

「それより刃威餌亡の事をもっと教えてほしいんだけど」 


 スミ特性のダシの効いた卵焼きを飲み込んだ俺はマコに視線を向けるとマコは口に含んだ菓子パンを急いで飲み込む。


「オイラよりメガネ君の方が詳しいんじゃないかYO」

 

 マコがメガネ君を指さすと、メガネ君は待ってましたと言わんばかりに懐から例の手帳を取り出す。


「刃威餌亡、セブンステーションの東口を縄張りとしている荒くれ者の集団」


 ここまではマコの情報と一致している。


「10代から20代の構成された100人規模のチームで、そのほとんどがイチコーの在学生や卒業生で構成されている」

「という事は、みんな何らかのアークマスターという事なんだね」

 

 昨日俺が相手した3人は、アークを使用していなかった。俺の事を舐めてかかったのだろうか? サンコーの落ちこぼれにはアークを使う必要がないとか。


 そうだねと相槌を打ち、メガネ君は続ける。


「赤西君の言っていた通り大分あくどい事をやっているね。特に恐喝や窃盗が酷くて、それでかき集めた金を上納金として白虎会という暴力団に収めているらしいよ」

「白虎会……」


 白虎会というワードに井波さんが反応する。

 どうしたの? と聞いてはみたもの、何でもありませんと首を横に振る井波さん。

 気にはなるのだが、それは今聞かなくてもいいと思いメガネ君に視線を戻す。


「その白虎会が刃威餌亡のOBがいるっていう?」

「うん、20半ばを過ぎたメンバーは、チームを抜けるか白虎会に入るか半々らしいね。さっき鷹刃君が暴力団は傭兵にも番人にも調達屋にもなれなかったアマチュア集団と言っていたけど、構成員の中では元傭兵や何らかのペナルティで全職を追われた元番人や調達屋崩れも結構いるらしいよ。特に白虎会の会長は元傭兵で、銀の乙女団にならぶトップ傭兵団、ホワイトタイガーの日本支部に所属していたんだとさ」

「へぇ~ホワイトタイガーね」


 ホワイトタイガーは、構成員の数が千を優に超えるるマンモス傭兵団だ。

 それに各国に支部を構えている。

 個々の強さはそこまでではないが圧倒的な数で傭兵団の力ランキング上位に入っている。

 まぁ、数が多いだけで銀の乙女団うちの敵ではないんだけど。

 ホワイトタイガーはその数故に入れ替わりが激しく、末端であればいちいち誰が入団して退団したなんて把握していないため、団員でもないのにホワイトタイガーの一員だと偽っている者達も少なくないと聞く。白虎会の会長って人も怪しいものだ。


「鷹刃君はどうするつもり?」

「どうもこうもしないさ」

「大層な事言っといて、やっぱりビビってるのかYO」

「ビビる? 俺が? ははは、あり得ないよ」

「あり得ないというならどうするのさ?」

「待つ」

「待つ?」

「うん。ああいう連中はやられたままではいないという事さ」


 サンコーの落ちこぼれにメンツをつぶされたんだ。

 必ず仕返しに来るだろう。

 俺はそれを待っていればいい。

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