第14話 「幸運吸収とブースター」
メガネ君との会話を無理矢理終わらせた俺は廊下に出る。
井波さんを探すためだ。
他人に対してこんな気持ちになるのは初めての事で自分も良く分からないが、どうも彼女の事が気なる。
「さて、井波さんは……って、見つかる訳ないか」
ぐるっと廊下を見渡すだけでこの広い校内で一人の人間を見つける事は不可能だろう。
「本当最近ついてなくさぁ~」
「うちもうちも、何だろうねホントに――」
「ねぇ」
教室に入ろうとしている同じクラスの女子に話しかけると好意的な笑みを返してくれる。
「鷹刃君、どうしたの?」
「井波さん見てない?」
「井波さん? さぁ、知らないけど? 井波さんがどうかしたの?」
「少し聞きたい事があって。知らないならいいんだ。ごめんね、引き留めちゃって」
「いいっていいって、また後でおしゃべりしようね~」
さて、次の授業まであと20分弱。
時間は有限、あれを使うか。
「
このエリアサーチは、【
もっと広範囲に展開する事ができる【狩人の目】の上位である特級アーク【
「さて、井波さんは……」
俺の持っている井波さんの関する情報。
しかも、イメージしやすい物。それは一つしかない。
井波さんのアークをイメージしてサーチする。
「いた」
井波さんの反応が上の方から感じられる。
この校舎は4階建てで俺がいる1年3組の教室があるのは4階。この上となると……。
俺の目に中央階段が写り込む。
◇
中央階段を昇ると屋上へと出るドアがあるのだが、その前には使い古された机によるバリケードが張られている。どうやら、屋上へは立ち入りを禁じられているらしい。
そんなバリケードの前、屋上へと向かう中央階段の踊り場に彼女、井波春風がいた。
あまり人が来る場所ではないからなのか、自分以外の人がこの場所に来るとは思っていない井波さんは俺の姿にまだ気づいておらず、両手にぴったり収まる文庫本に目を落とし熱中していた。
まぁ、俺が気配を消すのが上手いっていうのもあるだろうけど。
「何を読んでいるの?」
「っ!?」
俺が急に声を掛けた事で飛び上がる様に驚く井波さん。
こんなに驚くとは悪い事をしたな。
井波さんは、俺の問いかけに答える事もなく、
いそいそと弁当箱を片付け立ち上がる。
そんな彼女の腕を掴む。
「ちょっと待って」
「……放して下さい」
「あっ、ごめん。つい……」
掴んだ腕を急いで放すと井波さんは弁当箱を逆の手に持ち換え、俺に掴まれた腕を反対の手で擦る様な仕草を見せていた。
「ごめん、痛かった?」
「……少し……」
「本当にごめん、手荒な真似をするつもりはないんだ。ただ、君と少し話がしたくて」
「……話って?」
「君のアークとその右手首に付けているディバイスについて」
「なっ!?」
俺の発言に、先ほどよりも更に驚いた様子を見せる井波さん。
「ねぇ、なんでそんなを事しているの?」
俺にはアーク発動時の魔法陣を読み取る力がある。
井波さんのアークは常時発動しているため、嫌でも目に入る。
井波さんのアークは、
「
「な、な、なんで、アークの事までっ!?」
「俺の目は少し特殊なんだ」
俺は、人差し指と中指の二つの指先で自分の両目を指さす。
「それに、君のそのデバイス……ブースターだよね?」
何の変哲もないピンク色の時計型のデバイス。
そこには術式が組み込まれていた。
術式が組み込まれている物質など、アークの力を持たない者が利用できるように開発された【
井波さんの【
つまり、井波さんの
「……貴方は何者なんですか? 叔父の教団に敵対している人ですか?」
「叔父の教団? 敵対? 良く分からないなぁ。俺は、今日この学校に転入してきたただの転入生だよ」
「とぼけないで下さい! 私の力を知っていて、この【
あの子?
いや、それにしてもかなり取り乱しているな。息も荒々しい。
まずは、井波さんを落ち着かせないと。
「
アークを発動すると、白いオーラの様な物が井波さんの全身を包み込む。
「な、にこれ?」
戸惑う井波さんの荒々しかった息が徐々に整う。
「興奮している人とかを落ち着かせるアークを使ったんだ。どう? 少しは落ち着いた?」
「はぁはぁ……はい、ごめんなさい」
どうやら、正気に戻ったらしい。
「俺は君のクラスメートであって君に害するものではないし、ましては、君の叔父さんの教団? ってやつに敵対する者でもないよ」
「……はい」
「ただ、昨日君を見かけた時、君が凄く奇麗でついつい見蕩れてしまったんだ」
「……はい?」
「異性に対してそんな事思ったの初めてだったんだ。それなのに、今日学校に来たら君が同じクラスで、それに隣の席で」
「言っている意味が」
「つまりね、何か困ってる事があるなら俺が解決してあげたいんだ」
「け、結構です!」
「あっ、井波さん!」
井波さんは逃げる様に階段から駆け下りて、去って行った。
「しまった……こんなのただの気持ち悪いストーカー予備軍ってやつじゃん……」
はぁ~と自分が口走った数々の恥ずかしい言葉の数々に羞恥心を感じながら教室へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます