第15話 「やっぱり気になる井波さん」
5時限目の始業ベルが鳴る直前に自分の教室に戻った俺は自分の席に戻る道中メガネ君から「どこ行ってたの?」と話しかけられるが「ちょっとね」とだけ返し、それ以上会話を広げる事なく自分の席に座る。
隣の席の井波さんは、俺が席に座ったとたんワザとらしく俺から背を向けるのだが……なんだろうこの胸がぎゅうッと締め付けられる嫌な感じ……。
「あっ!」
「どうしたの?」
「見てこれ、スカート破けてる」
「ホントだ、ついてないね」
「もぉ、ホントになんなの? 最近、ほんとについてなんですけどぉ」
「私もだよ、昨日財布失くしたし」
「私も彼氏に振られたし」
クラスメートの女子達の会話が嫌でも耳に入ってくる。
ツイてない。普段なら聞き逃せる単語だが……ちらっと隣の席を覗くと井波さんは辛そうな顔をしていた。
そういえば、最初に彼女にあった時。
遠目で捨て猫を見ていた彼女が口にしていた言葉は、「私が近づくと不幸にしてしまうから」だった。彼女は自分のせいで周りの人達に何らかの不利益が起こっていると理解している。
たしかに大本を辿れば井波さんの【
もう一度井波さんの顔を見る。
やはり、とても辛そうにしている。
そして、井波さんの反応を見る限り彼女の意思で行っている事ではないと考えられる。
井波さんにもっと詳しい事情をきかないとだな……。
それにしても会って間もない他人になんで俺はこんなに肩入れしているんだ?
悶々とした気持ちで授業に身が入る訳もなく。
学生生活の初日が幕を閉じた。
◇
「ねぇ、井波さん」
「さよなら」
放課後、再度井波さんに話しかけるのだが……。
井波さんは、俺を完全に避けるように教室を出た。
こんなに嫌われるとは……。
なかなか一般人との付き合いは難しいんだなぁとしみじみ思う。
さて、俺も帰るか。
席を立ちかばんを肩に掛けているとメガネ君が近づいてくる。
「鷹刃君、帰るの? 部活見学は?」
「部活? あぁ~俺は別にいいかなぁ」
「えぇ~せっかくの学校生活なんだから部活動も体験した方がいいよ」
せっかくの学校生活かぁ……それも普通に過ごすために必要なものであるなら確かに体験してみるのもいいかもしれないな。
「メガネ君は、どんな部活に入ってるの?」
「おッ、興味持ってくれた? 僕は部というよりは新聞同好会に入っているんだ」
「同好会?」
「うん、部員が規定数に達していないから同好会扱いなんだけど。もし、鷹刃君が入ってくれるなら部に昇格できるんだ! どうかな、見学だけでもしてみない?」
分厚いビン底メガネの奥から覗き込むメガネ君の瞳が期待に満ち溢れてキラキラしてる。
「面白そうだし、見学するのはいいんだけど明日でもいいかな? 今日は妹達と一緒に帰る約束をしているんだ」
「見学に来てくれるなら明日でも、明後日でも全然構わないよ!」
「じゃあ、明日お邪魔させてもらうね」
「ありがとう! あッ、そろそろ行くね、今日は部長と取材に行かないとだから」
「うん、頑張ってね」
「じゃあね!」
メガネ君は、「鷹刃君の事を話したら部長、絶対に喜ぶぞ!」と軽い足取りで教室を後にした。
「さて、俺もいくか」
メガネ君の後を追うように教室を出る。
下駄箱で外履きに替えていると、腕に装着しているデバイスにメッセージが届く。
スミからメッセージだ。
『急に部活のミーティングが入って時間がかかりそうだから、悪いけど先に帰ってもらっていい?』
どうやら、一緒に帰れない事を伝えてくれているらしい。
別に一人で帰るくらい問題ないので、『了解、頑張って』と簡略にメッセージを返す。
妹達と一緒に帰らないのであればメガネ君の新聞同好会でも覗いてみようかなと考えるが、今日は取材に出ると言っていた事を思い出した俺は予定通り家に帰る事にする。
校門をくぐり朝来た道を反対に進む。
時折通りすぎる風により揺れる街路樹から発せられる葉っぱ同士が擦り合う音が心地ち良さを演出してくれる。
「うーん、あんまり厄介事に巻き込まれたくないんだけどなぁ」
せっかくいい気分で帰っていたのに、少し離れた場所から俺の後をついてきている複数の殺気によって心地よかった気分が台無しになる。
ひぃ、ふぅ、みぁ、よお…………背後に10人に、前の方から15人かぁ。その内の何人かは、今朝俺に突っかかってきたイチコーの生徒らだ。俺にとってはその全てが中級アークマスター止まりの有象無象の雑魚。そして、俺はその雑魚共に囲まれる。
「ねぇ、ちょっとあれ」
「不味くない? 通報した方がよくない?」
そんな様子に通行人達が騒ぎ立てる。
「おいッ」
「随分と男前になったね」
朝、俺に突っかかってきたイチコーの生徒だ。
鼻の所にデッカイ絆創膏をしており、顔の至る所が腫れていた。
「誰のせいだと思ってんだッ!」
「少なくとも俺のせいではないよね?」
「てめぇのせいで佐伯さんからヤキ入れられたんだよッ!」
俺は何もしてないし元々突っかかってきたのはそっちだし、と反論しようとしたら俺の言葉に被せて絆創膏の青年が「佐伯さんがお待ちだ、ついてこい」と吐き捨てるように俺に投げかける。
「嫌だと言ったら?」
「おいおい、少しできるからってあんまりなめんなよ? イチコーの佐伯一派がこれだけいるんだ。ケガしたくなかったら黙ってついてくるんだな」
正直なんの驚異もないけどこれ以上目立つのもよろしくないため、俺は絆創膏の青年のいう通りに黙ってついていくことにした。
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