第12話 「佐伯一派」
「ねぇ、鷹刃君。日本は不馴れって言ってたけど、海外からきたの?」
「うん、最近まで
「彼女いる?」
「彼女? なにそれ」
「恋人よ!」
「そう言った人はいないよ」
「鷹刃って、もしかしてあの有名な銀髪乙女の鷹刃冴子様となんか関係あるの?」
「うん、僕の母なんだ。義理の、だけどね」
「すっごーい!」
とまぁ、ホームルームが終わったと思ったら、クラスメート達(何故か全て女生徒)に囲まれて質問責めにあっている。
鷹刃という名字だけで殆どの生徒が団長に辿りつく。
このクラスがアークマスターを養成するクラスだって事も理由として挙げられるが、それでも学生にまでこんなに認知され人気のある、我が団長は凄いなぁと改めて認識した。
感心しつつ、隣の席にチラッと視線を移す。
トイレにでも行ったのだろうか、井波さんは席にいない。
正直、俺としては井波さんともっと話がしたいんだけどなぁ。
特に彼女のあのアークについて。
いつかしかコピーした並列思考のアークを駆使してクラスメートの質問への対応をしつつ、一人物思いに更けているとメガネをかけた小柄な坊ちゃん刈りの少年が近づいてくる。
「た、た、鷹刃君! 今朝、君、イチコーの生徒達と揉めてたよね!?」
という少年の問いかけに返事をしようとするのだが、
「ちょっと、メガネ! 入って来ないでよ!」「空気読みなさいよ、メガネ!」などなど女子達に顰蹙が凄い。
「それで、何があったんだい?」
メガネ君は、女子達の事をこれっぽちも気に掛けていないようだ。
面白いなぁ。少し、この少年に興味が沸く。
「君は?」
「あっ、失礼。僕の名前は
自称なんだ……。
「うん、よろしく。えっと、気長君って呼べばいい?」
「呼び方なんて何でもいいよ。気長でも、メガネでも。それで、今朝のあれは? イチコーの生徒達と揉めてたよね?」
メガネって呼んでいいんだ……。
メガネ君の問い掛けで、男女問わずほとんどの生徒の視線が俺に向けられる。これもまたアークマスター養成クラスだからなのだろうか、イチコーのアークマスターとのいざこざにみんな興味津々のようだ。
「彼らが妹達にしつこく迫ってきてね。兄として相手しただけなんだ」
だいぶ端折ったが嘘は言っていない。
「鷹刃君の妹達っていうと! まさか、スミルミ?」
「スミルミ? あぁ、スミとルミをくっつけてスミルミかぁ。そうだよ、二人は僕の義理の妹なんだ」
「なんと! メモメモ」
メガネ君は、懐から手帳を出しペンを走らせ、メガネ君以外の男子からは仇を見るかの様な視線を送られる。中には、俺の天使が汚されるッ! と嘆く者もいる。
意味が分からないので無視する。
そして、女子達は一つ屋根の下に血のつながらない美少年と美少女の双子が! と言ってキャーキャー騒いでいる。
こっちも意味が良く分からないので無視する。
「それにしても、よく無事でいれたね?」
メガネ君は、その他大勢の生徒を余所に淡々と話を進める。
「何が?」
「何って、君を取り囲んでいた人達は、佐伯一派の人達だったんだよ?」
「佐伯一派?」
佐伯一派という言葉が出たことでクラス内にどよめきが走る。
こっちに興味なさそうにスマホを弄っていた長身で目つきの悪い男子生徒と茅野先生にマコと呼ばれていたパイナップル頭の生徒も佐伯一派に興味があるのか、俺の方を見ていた。
そんな中、メガネ君は、「あぁ、そう言えばこっちに来たばかりって言っていたね」と言って、手に持っていた手帳のページをペラペラとめくり「あった」と言った後、わざとらしくゴホン咳ばらいをする。
「僕の情報によると、佐伯一派はイチコー三年生の佐伯
「そんな事件を起こしておいて、よく学生でいられるね」
「僕の情報によると、佐伯一輝を始めとする一派のメンバーの殆どが良い所の坊ちゃん、嬢ちゃんで親の力で上手くやり過ごしているらしいよ」
親の力かぁ。
確かにさっきの人も親の力でどうにでもなるとか言ってたな。
「それに佐伯自身、【
「へぇ~特級にね」
アークマスターには、基本的に下から下級、中級、上級、特級の4つのクラスが存在する。
下級アークマスターは、100人に1人の水準で存在し、中級は1000人に1人、上級は10万人に1人、特級については1000千万人に1人と上級から特級までの間には、かなり高いハードルがある。
銀の乙女団の団員は、団長をはじめほとんどの戦闘メンバーが特級アークマスターであり、そうでないメンバーでも特級アークマスターと同等の能力、もしくは特級アークマスターになれるポテンシャルを持っている。これが、我が団が世界トップクラスの傭兵団と言われる所以だ。
この日本でも両手以内に収まる程の数しかいないんだ、特級アークマスターになれる可能性を持っている者がいればある程度の事であれば許されるのだろう。
ちなみに俺は特級より上位の超級アークマスターだ。
まぁ、それを言ったところで誰も信じてくれないだろうけど。
なぜ信じてくれないかって?
簡単な事だ。超級アークマスターなんて、今まで発見されていない都市伝説みたいなものだからね。
「そんなわけだから、佐伯一派には気を付けてね鷹刃君」
「うん、ありがとう。情報助かるよ」
「えへへ、良いって事よ。分からない事があれば何でも僕にきいてね」
「メガネ、もういいでしょ!」
「うわぁ、ちょっと」
照れくさそうに答えるメガネ君を押しのける女子達の質問攻めは、始業のベルが鳴るまで続いた。
◇
国立ヤマト第一高校部室棟
教室ほどの広さがあるその場所は、元は4つある部室の壁を取り除いて1つにしたものだ。
もちろん、これほどの広さがある部室は第一高校の中でもここアーク実践応用研究部以外はないだろう。まぁ、アーク実践応用研究部とは名ばかりで、その実佐伯一派のたまり場なのだが……。
そんな学校の部室に似つかない、本革製のソファーに少女を侍らせふんぞり返っている青年がいた。
いやらしい手つきで、少女の身体を弄ると少女の艶かしい吐息が漏れる。いつもならこの少女の反応を手下達に見せつけ悦に浸るところなのだが、今日の青年はそれどころではなかった。
青年の名前は佐伯一輝。
第一高校三年生であり、上級アークマスターである【
10万人に1人しかいない上級アークマスターだというだけも将来有望なのだが、佐伯は特級アークマスターになれるポテンシャルを持っているという事で、国をはじめてとする各方面から重宝されている。
熱心に部活動に励んでいる3つの部活動の生徒達を追い出し、この部屋を与えられたのもそれが理由だ。
そんな佐伯は、憤っていた。
目の前で己のアークである重力支配により床に押しつぶされて泣きっ面を浮かべている三バカのせいだ。
この三バカのせいでお楽しみのイチャイチャタイムが気乗りしない程に、佐伯は憤っていた。
「ミーコ、ちょっと外してくれ」
「えぇ~やだぁ~もっといっくんといちゃいちゃしたーい」
「後で相手してやるから、な?」
「もう、絶対だよ! 君達も、ホントに空気読めないよね! ミーコといっくんの時間をさ!」
「「「す、すみません! ミーコさん!」」
「ふん! また後でね~いっくん」
「おう」
少女が部室から出たとたん、ドッと室内の空気が重くなる。
ソファーから立ち上がる佐伯。
長身かつ、程よくついた筋肉が、気崩している制服をオシャレにみせ、整った顔立ちにより青年の年にそぐわない男の色香を漂わせている。
佐伯は、三バカ筆頭である足立の髪を掴み頭を持ち上げる。
「それで、てめぇらはしょんべんくせぇガキにちょっかいかけて、それのアニキ、サンコーの雑魚相手におめおめと逃げてきたという訳だ」
「いえ、そ、その、逃げたんじゃなくて、大野内代表が乱入にしてきて」
「あぁん!?」
「に、逃げました……そいつ、やばい感じがぷんぷんしてて」
「だせぇ、だせぇ、だせえええええええええ!」
「や、ぎゃぃッ!」
佐伯は、足立の顔も床に叩きつける。
「くそがッ、俺の顔に泥をぬりやがって!」
「す、すみ、ません、ゆるじでぐだざい」
「ちっ」
足立は顔を真っ赤に染め、泣きながら佐伯に許しを請う。
そんな姿を見て佐伯の溜飲も下がったのか、重力支配を解き再びソファーに座り込むと、蹲っている足立の横でプルプルと震えている小太りの青年を睨みつける。
「おい」
「はひッ」
「そのサンコーの野郎、やばい感じがしたとか言ってたな?」
「はい、あれはやばいっす! シッコちびりそうななりましたっす!」
「そうかそうか、最近歯ごたえのあるやつがいなくて暇してたんだ」
そう漏らす佐伯は、獲物を見つけた肉食獣のような獰猛な表情を浮かべていた。
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