第11話 「普通の生活を送るため」
第一高校の生徒達とのひと悶着で結構ギリギリの登校になってしまった。
学校についたら職員室まで来るように言われている。
そして現在、俺は校舎前に設置されていた校内図を頼りに職員室の前に立っていた。
コンコンとノックをし、「失礼します」と一言口にしてから職員室内に足を踏み入れると、人の良さそうな若い男性教諭が俺に気付いて近づいて来る。
「うん? 見ない顔だね。どうしたんだい?」
「転入生の鷹刃です。登校したら職員室に顔を出す様にとの事でしたので」
「あぁ~アークマスター養成科の。話は聞いているよ、ちょっと待ってね。茅野先生! 先生の所の転入生がきましたよ」
男性教諭の呼び掛けに、「今電話中だから少し待ってくれ!」とハスキーな女性の声が木霊する。
「というわけで、茅野先生、君の担任の先生ね。電話終わったら来ると思うからここで少し待っててね」
「ありがとうございます。えっと……」
「あぁ、僕の自己紹介がまだだったね。僕は
「はい、美川先生。こちらこそよろしくお願いします」
美川先生は、異様な程に白い歯を光らせて笑みを浮かべ「じゃあ、僕は行くから」と足早に職員室から出て行った。
「すまん、待たせたな」
声に反応して振り返る。
すらっとした長身に黒ショートヘアー。
少しキツめに見える顔のパーツは、まるでファッションモデルのようなカッコよさがある。
そして、着衣のままでも分かる鍛え抜かれ体躯……うちの団員ほどではないが、かなりやり手の様に伺える。
「初めまして、鷹刃海人です」
「随分と早い登校だな? 始業時間の15分前には顔を出せと言ったはずだが?」
少しキツめの顔で皮肉を言われる。
「すみません。登校中予想外の事に巻き込まれてしまい、遅れてしまいました」
「まぁ、大体の事情は把握しているよ。それに、お前の事は、アイツから聞いている。意図的に約束事を破らないという事もな。さて、私は、茅野
「よろしくお願いします。それにしても、アイツって……?」
「まぁ、それは教室に向かいながら話すとしよう。ついてきな」
「はい」
俺は、茅野先生の背後を追いかける様に職員室を出た。
◇
「鷹刃冴子」
二人横に並び廊下を進む道中、何の前触れもなく茅野先生の口から団長の名前が漏れる。
因みに既に始業ベルがなっており廊下には人っ子一人としていない。
「団長がどうかしたんですか?」
「お前はもう傭兵じゃない、一学生なんだ。これから団長と呼ぶのは禁止だ。あと、傭兵だった事も秘密にしておけ」
「はぁ」
「ったく、何だその気の抜けた返事は」
「いや、なんで隠す必要があるのかなって思いまして」
ピタリと足を止める茅野先生に合わせて俺の足も止まる。
「いいか? 平和ボケしたこの国の学生にお前が傭兵で散々人を殺してましたって言ってみろ? その日からボッチ確定だ」
「ぼっち……?」
「独りぼっちという意味だ。腫れ物扱いされたくなかったら、隠し通せ。いいか? アイツが、サエが、なぜお前を養子に迎え入れたからよく考えてみろ」
「普通の家庭で、普通の生活を送るため」
「そうだ。あいつの思いを無駄にするな」
茅野先生は握った拳を俺の胸の辺りを軽くぶつけ、ニィッと口角を上げる。
「はい、わかりました」
「私とサエはな――」
そして再び歩き出すと同時に茅野先生が団長との関係を話してくれた。
二人は、幼稚園の頃からの腐れ縁だったらしい。
そして、お互い切磋琢磨し合えるライバルでもあったという。
高校は別々の進路に進み、団長は第一高校、茅野先生はこの第三高校の生徒代表を務めていたという。
それから団長は単身海外に渡り傭兵として名を上げ、茅野先生は、【
余談だが、侮蔑を込めて番人は傭兵の事を【守銭奴】と呼び、傭兵は番人の事を【犬】と呼んでいる。
茅野先生は、妊娠を機に番人を引退して出産後、母校である第三高校の教鞭を振るっているという。
「さぁ、ここがアークマスター養成科の教室だ」
ガラガラガラ
茅野先生は、勢いよくドアを開く。
「チャイムなってんぞ! マコ! いつまで女子とくっちゃべってんだ! 早く座れ!」
女子生徒達と歓談していたマコと呼ばれたスリーブロックのパイナップル頭の少年は、「わかったYO!」とチェケラッチョと言わんばかりに両手で応えて席に座る。
「ねぇ、あの子結構よくない?」
「かなりレベル高いかも!」
「アイツ、イチコーの奴らと揉めてたやつじゃね?」
「あー、俺見た! イチコーのやつら手も足もでなかったぜ?」
茅野先生の登場により一瞬静けさに包まれていた教室内だったが、俺の存在によって再び騒がしくなる。
「ホームルームを始める! 前に、転入生を紹介する」
「海人、自己紹介だ」
いつの間にか俺を名前呼びにしている茅野先生の指示にしたがって、俺は教卓の前に立つ。
「初めまして、鷹刃海人です。日本にはあまり慣れてないので、色々と教えてくれたら助かります」
俺が鷹刃と名乗った辺りで教室がざわつくのだが、茅野先生の睨み一発でざわつきが消える。
「質問とかは空いてる時間に勝手にしてくれ。海人、お前の席はあそこ、井波の隣だ」
茅野先生が指さす先を見て、ガラにもなく驚いている俺がいた。
昨日公園で出会った井波春風が座っていたからだ。
彼女もまた、驚きに満ち溢れた表情で俺を見つめていた。
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いつも読んでいただきありがとうございます。
次話から、基本水・土の週二回更新になります。
面白い、続きが気になると少しでも思っていただけるのでしたら、いいね・★・レビューなど頂けると凄く嬉しいです。
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