第3話 「死に場所を求めている少年 ③」
「みんな、どう思う?」
カイトを部屋に戻した後、大人組だけが残っていた。まぁ、大人組といってもカイトを除いた全員だが。
「カイトは、強いわ。最強の傭兵団と名高い
副団長である、ダニエルの言葉にそこにいる全員が各々の方法で肯定する。
「そうよ、カイトは強いわ。ダニエル」
「ダニエルじゃないわ、ミランダよ!」
「もう、こんな時にまで! ミランダの言う通り、特級アークマスターのアタシでもカイトに勝つ自信がないわ。それほどにカイトの力は巨大すぎる……でも、カイトはまだ十六歳の子供よ」
「もう、十六歳か……。俺達が坊主を保護してもう六年にもなるのか」
グレンが懐かしそうに顔をほころばせる。
被検体ナンバー 9,999番。それが、冴子達と出会う前のカイトの呼称だ。
超級アークマスターを生み出す目標として結成された秘密結社の途方もない時間、回数の遺伝子操作を繰り返した結果、奇跡的に生まれた
いくらクローンであっても非人道的な人体実験を繰り返してきた秘密結社は、世界平和機関WPO(World Peace Organization)からの依頼を受けた銀の戦乙女団が壊滅に向かったのだが、すでに秘密結社は壊滅状態にあった。自分の様な悲しい存在をこれ以上生み出さないためにカイトが能力を解放し研究所を壊滅に追い込んだのだ。
出会った頃のカイトは、右目、右手、左足、そしていくつかの内臓を失っており、どうして生きているのかが不思議に思えるほどひどい有様だった。助かりようがない、置いて行こうという意見が大多数を占めていたが、冴子の鶴の一声でカイトは連れて帰る事になった。
施設にあった研究データを【ハイパーハッカー】
信じ難い内容ではあるが、助かる見込みがあるのならばと冴子はある人物と接触する。
【超自己再生】というアークを所持している特級アークマスターの男だ。この男は、自分の臓器を売っては再生させを繰り返し金儲けをしている、所謂臓器密売人だ。この男のアークをカイトに見させると、数日もしない内にカイトは失っていた身体のパーツを全て取り戻した。研究データの通りカイトは超自己再生のアークを手に入れた事になったのだ。
この研究データが他の手に渡れば世の力バランスが簡単に崩壊すると思った冴子は、研究データを破棄し、WPOには研究データは消失したと報告した。
その後、カイトは最強の傭兵団長鷹刃冴子率いる銀の戦乙女団の面々に鍛えられた事や、任務で培った多種多様なスキルによって、僅か六年で銀の乙女団のエースとなったのだ。
そんなカイトだが、度重なる人体実験と超級アークマスターという人知を超えた力を行使する代償としてその命の灯は短く、成人まで生きられないとされている。カイトが「どうせ、俺の命はあと数年だし」と言うのには、こういった背景があるからだ。
「あの、研究データの内容通りであればカイトの命は長く見積もってあと四年。最近になって、あの子、自分の死に場所を戦場に求めてるいる気がしてならないの」
「それは、言えてるわね。あの子、最近、特にその傾向が強いわ」
ダニエル、もといミランダをはじめ各々思い当たる節があるようだ。
「だからね、アタシは――」
◇
「カイト、入るわよ」
「うん、どうぞ」
反省会を終えたのち、冴子はカイトの部屋へと向かった。
部屋に入ると、小気味よいアップテンポな音楽が流れている。世界的に有名な三人組ユニット【ディステニーガールズ】通称DGの曲だ。
「また、これ聞いてるの?」
「うん。なんか、エリザの声、落ち着くんだ」
エリザとは、DGのメンバーの一人だ。
DGは、デビューから三年でトップアーティストの仲間入りを果たしたのだが、人気絶頂のこれからって時にリーダーのクレアの死によって解散した。
そんな彼女らは今となっては伝説となったユニットなのだ。
「そう……。ねぇ、カイト」
「ごめんね、団長。迷惑かけちゃって」
「……ッ……」
「本当は、分かってるんだ。俺が滅茶苦茶な事をしているって。ここ最近、自分の死期が近いからなのか苛立つ事が多くなって……」
「ねぇ、カイト。アタシ、あなたをこれ以上戦場に置きたくないの」
「……どういうこと?」
「貴方には、こんな殺伐としたところから離れて残りの人生を謳歌してほしいと思っているわ」
「だから、何が言いたいのさ!」
「日本に行って、年相応の生活を送ってもらうわ」
「はぁ?」
「命令よ。団から離れて日本に行きなさい、カイト」
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