孤高な井波さんとラッキーホルダー

第4話 「新たな居場所 ①」

『当機は後五分ほどで、ヤマト国際空港に着陸いたします――』


 機内アナウンスで目が醒める。

 

 団長から暇を言い渡されてから一週間も経たない内に俺は決して多くはない荷物をまとめ拠点ホームを後にする事になった。

 団長をはじめとする銀の戦乙女団仲間のみんなは、新しい任務についているため拠点ホームには誰もいなかった。

 まぁ、別れは既に済ませてはあるが……。


「いってきます」


 また、この場所に戻ってくる事を自分に言い聞かせる様に、俺は拠点ホームに向かって一礼し、踵を返した。

 団長から渡されたチケットを手に日本行きの魔翔機に乗った。

 

 そして、現在に至る。

 魔翔機というのは、角石かくせきを原動力として空中を平均時速三千キロで飛行する乗り物だ。

 そして、角石とは、フィアーの心臓ともいえる魔核の事を指す。

 形が一辺の長さ十センチメートルの正六面体であるため、その形から角石と呼ばれている。

 角石には、白 青 黄 緑 赤 銀 金と魔力の含有量によって七種類あり、フィア―の強さと比例するとされている。


 白い角石一つで、俺が愛用しているタブレット端末SIPADをおおよそひと月使えるほどのエネルギーを有している。


 元々資源不足だったこの世界は、ザ・ウェッジとフィアーの登場によりそれは更に加速し深刻な状況になった。

 フィアーに抗える力を手に入れる事はできたが、明日を生きる為の資源が枯渇しているのだ。

 そんな絶望のなか、角石に秘められた無限の可能性に着目した賢人達の血の滲む努力により、新たな資源を手に入れる事ができたのだ。


 それを考えたら、フィアーの出現もマイナスだけではないだろう。


 さて、これから俺がいくヤマトアイランドについておさらいをしよう。

 ヤマトアイランドは、千葉県最南端の海上に落ちた楔によって出来た島だ。


 そして、国を挙げて開発を施した国内最高峰の最先端都市であり、世界で三指に入る迷宮都市でもある。

 

 迷宮と言うのは、楔から派生したフィアーの住処、ゲームでいうところのダンジョンの様なものだ。

 その形態は、大きな遺跡だったり、天高くそびえる塔だったりと様々だ。

 

 因みにヤマトアイランドのそれは、ヤマトアイランドの中心部を覆いつくす程の巨木だ。

 その名を【アマテラスの躯幹】。その巨大さと神々しさに日本神話に出てくる最高神の名が由来だとされている。


 ヤマトアイランドは、千葉県最南端から約百キロメートルほど離れた海上に位置し、魔翔機、魔進船の他、海底トンネルでの移動が可能だ。


 余談だが、東京湾アクアラインの海底トンネル約十キロメートルが竣工までに十年かかったとされているが、この海底トンネル、ヤマトラインは、アークの力により一年もかけずに十車線もの巾のトンネルを完工させることができたという。

 

 それほどアークの力は出鱈目だと言えるだろう。


 さて、話をヤマトアイランドに戻そう。


 人口は、おおよそ三百万人。

 面積は約七百平方キロメートル、東京二十三区と大体同じ広さだ。

 

 楔の産物であるモンスターの素材は、角石だけではなく、頭のてっぺんから爪先まで無駄にならないとされている。

 フィアーの肉は、人が口にしても問題なく味も申し分ない。そのため、食糧不足のこの世界に角石以上に貢献してくれている。


 そして、フィアーの皮や骨などもそれぞれ人の営みに役にたっている。

 そんな、金の成る木を放っておくわけもなく、国内外から様々分野の企業や研究施設が軒並みに進出している。


 そして、人が増えれば自ずと、娯楽やグルメ、宗教団体など、その他諸々と集まるのが必然でありサクセスストーリーを夢見てこの地に訪れてくる者が絶えないらしい。


 このヤマトアイランドは、今や日本一注目されている都市だと言えるだろう。


『ただいまより、当機は着陸態勢に入ります。ご乗客の皆様は、ご自分の席にご着席をお願いいたします』


 着陸態勢に入った事により、身体に重力がのしかかる。

 いくら技術が進歩しても、この感覚だけは取り除く事ができないらしい。

 いや、ひど昔前の飛行機という乗り物より三倍の速さで飛んでいるのだ、それをこれだけの重力で済んでいると考えれば、技術は着実に進歩しているのだろう。


 そんなどうでもよい事を真剣に考えていると、魔翔機は瞬く間にヤマトアイランドに降り立った。

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