KAC20222 推しを全力で育てた結果、俺が推されてしまった件

ちょせ

街の天使がブチ切れるまで

その娘に気づいたのは俺が16歳の時だった


まるで天使だ、心からそう思った


彼女は祖母と二人暮らしで、裕福とは言えず、確実に貧乏だった


履き古したスニーカー、ランドセルすら持っておらず祖母の手作りの手提げ袋に教科書や学校から配給されたタブレット等を入れて通っていた


いつもお腹を空かしていて、肉屋のコロッケを食べたそうに眺めていたら、肉屋の親父が内緒だと言ってコロッケを彼女に渡していたし、たこ焼き屋の兄ちゃんも彼女に1パックあげているのを見た事がある


やはり誰の目から見ても、彼女は天使に見えるのだろう


ああ、彼女の、グッズでもなんでもいいからあれば買うのに…もちろん公式なやつ…


貯めたお年玉を全額渡したところでただの怪しい奴だろうし、一回限りで終わりだ。


だから…俺は決めた


彼女を推せるアイドルに仕立て上げると!


そしてグッズを買いまくるんだ!






そして、10年の月日が流れた。


雨宮 昴 16歳

身長154センチ

体重43kg

スリーサイズはひみつ


大手事務所、サンクルーズ所属のアイドルになっていた


そして僅かデビューから1年足らずの間に彼女は大人気のアイドルとなっている


「うぐっ、ううう…」


俺は涙せずには居られない

何故ならば、念願叶って、彼女のグッズを買い、CDを買い、彼女のアイドル活動を支える事が出来るのだから!


「長かった…ようやくここまで…」


あの愛くるしかった、天使のようなあの子は今でもその天使の様な姿で居てくれている


先月辺りから収入も安定したとテレビで言っていた。

所謂貧乏時代を過ごしたアイドルという事でウケもいい。


色々と、本当に、俺の苦労が報われたと言えるだろう……超頑張った


どう頑張ったのか、それを語らせて貰っても良いだろうか?


俺はまず彼女をアイドルにする為には金が必要だと思った。


そして手っ取り早く金を稼ぐには投資だと


だから俺はまず、その為の資金を稼ぐため、必死にバイトをして金を貯めた

あとは念の為の学歴を手に入れる為、国内で一番の大学へ進学した


その結果、20歳の時に貯金が100万となり

そのまま株にぶちこんだ

在学残り2年、そこで俺は巨万の富を得た


危うくその金のせいで変なやつが近づいて来そうになったが、その時の俺には仲間がいたのだ


肉屋のオヤジ、たこ焼き屋のアニキだ。

他にも花屋のオバサンやスーパーの店長もいる


皆、俺が会長を務める雨宮昴ファンクラブの会員であり、幹部だ



その仲間たちの助けもあって、あの天使の少女は健やかに成長できたと思う


そして金を手に入れた俺はその資金を持って、芸能事務所を立ち上げた


そう、サンクルーズだ

いずれ彼女を迎え入れる時のために金の力で巨大化させる。

小さな芸能事務所を幾つも買い取り、ノウハウと人材を確保していった


他にも彼女の経済状況にはかなり気を使った


お祖母様が懸賞が趣味だと言うことで、その懸賞雑誌を発行している会社の株を手に入れて無理やり当てたり

そのついでにいずれ彼女がテレビに出た時のことを考えてこっそりとテレビ局の株も大量に手に入れておいたりと、金さえあればどうとでもしてきたのだ。


その成果が実り、昨年彼女をスカウト。そしてアイドルにのし上げたのである……


そして俺は、雨宮 昴に未だに気取られる事無くただのいちファンとして、彼女のライブに参加していたりするのだ。ああ、至福である







「はぁー、きんちょーしたなー」


「お疲れ様、昴。上手くできてたわよ」


「え?本当?良かったぁ。マネージャーさん、ありがとう」


にこりと昴はマネージャーにほほ笑む


「うくっ…役得だわ…」


マネージャーはじわりと涙をためる


「え?なんか言いました?」


「ううん、何でもないわ。さあ、つぎのスタジオに向かうわよ」


「はーい」


そんなこんなで、昴はアイドルとして忙しい日々を送っていたが


ある日のこと


「あれぇ?マネージャーさんどこいったんだろ?」


六本木にある大きなビルの中に、サンクルーズの事務所はあった。

その日は大事な打ち合わせがあるとかで事務所に呼び出されていた昴はマネージャーを探していたのだが


「どうしてですか!あなたは!」


マネージャーの叫び声が聞こえてきた

昴はそちらの方へ向かう、どうやら誰かと話しているようだったが…

昴はこそこそと、聞き耳をたてる


「名乗り出ればいいじゃないですか!あなたは十分その資格がありますよ!」


「だから何度言ったらわかる?それじゃあ彼女を応援できないんだ!」


「出来ます!」


かなりの大声だ、昴は中に入ることが出来ない


「けんか、してるのかな?」


昴にとって、マネージャーはかけがえのない存在だ。いつも優しく、そして聡明な彼女がこんな声を出すなんてと驚いていた


「あなたが昴ちゃんにした事、きちんと説明したらきっと」


(んん?わたしに何かしたの?ええ?)


「だから、それじゃあ意味が無いんだよ!」


「私も肉屋さんに聞きました、あなたがした偉業を!なんでも昴ちゃんを幼少の頃から支えていたと!」


(ふええ!?あ…もしかして……)


昴には、幾つか不思議に思っている事があった。それは主に身の回りの事ばかりではあったのだが


「しかしだなぁ」


「まだ折れませんか…それはそうですよね、そりゃああなたが未だに大学時代からのアパートに住んでいるくらいですものね」


「わかったならこの話は終わりだ」


「昴ちゃんのために私立中学まで建てたでしょう?それどころか、アパートが取り壊されるからと嘘をついて新築のアパートに引越しさせたりとか」


(はいい!?嘘?確かにアパート、綺麗なとこに引っ越せたし…学校めちゃくちゃ近かったと言うか、目の前だったけど)


「ふん、当然だ。通学ルートは危険が多い。であれば近くに学校があればいいのだからな」


「まさか高校まで建てるとは思いませんでしたよ!」


(はい?高校…確かに高校も新設校だったけど……あれ先生が……あ、わかったかも)


昴の目が、あの綺麗な目が闇に染まる…

そしておもむろにドアを思い切り開けた


「なっ!昴ちゃん!?まさか聞いていたの!?」


「くっ!しまった!この馬鹿!」


俺は慌てて隠れようとすると


「ふうん、あなただったんですね……会員ナンバー111、岩下文雄さん……」


「なぜ、俺の名前を!?」


上手く隠れて居たはずだった。会員ナンバーも1さえ取れる立場にありながら、泣く泣くほかの番号にしておいたはずなのに、昴はなぜ覚えているのだと


「そりゃあね、毎回ライブには来てくれるし、グッズもこっちが心配するくらい買ってくれてたんだもん、覚えますよ」


それが原因か!なるべく接触も絶っていたのに!


「ええ、おかしいなーと思うことがあったんですよ……」


「な、何がだ……」


「私に悪口を言った友達、次から次に転校していったんですよ…それも貴方のせいだったんですね」


「あ、あれはだな…」


「やっぱり…。中学の時も、私に告白してくれた人も翌日急に転校してたり」


「スキャンダルの種は潰しておかないとな…って違う!知らんぞ!」


「極めつけは、あのアパート……まるで護衛みたいな人ばかり住んでいたんですよね…それにどこに遊びに行っても会うんです。アパートの誰かに」


それも変な虫が付かないように俺が配慮してたのだ!


とは言えなかった。なぜならば昴の様子が…なんか怖かったから


「あーなーたーのーせーいーでええええ!私に友達と呼べる人が1人も居ないんですよ!仲良くなった人はみんなどこかに行くし、学校の先生も私にものすごい敬語だったし!なんかめちゃくちゃ恐れられてて、ほんとに誰も居なくなっちゃってたんだからああああああ!!」


涙をボロボロと流しながら、昴は泣いた


「代表…」


「な、なんだよ」


「流石にやり過ぎです。ドン引きです。幹部の方々も関わって居そうですね。後で説教です。昴、ほら落ち着いて、あっち行きましょう」


「ふぐう、ふぐう、うわああーん」


昴は大人しくマネージャーに連れて行かれた


俺は膝から崩れ落ちる


天使に、嫌われてしまった…と。


俺も涙を流しながらビルから飛び出し、そのまま走ってアパートまで帰った


ガチャリとドアをあける


「ただいま…昴、ごめんよお……」


壁一面に貼られた昴ポスターに俺はひたすら謝ったのである




その後、何事も無かったかのように昴は仕事をこなした

もう彼女はすっかりプロになっていたのだ


ただ、岩下文雄についてマネージャーから色々と教えて貰った


「そうなんですね…」


「そうなのよ…あの人、天才なんだけど馬鹿みたいに不器用なのよね」


「みたいですね。でも実はあの人の事覚えていたの、熱心なファンだからってだけじゃないんですよ」


昴は頬を赤らめてから言った


「めちゃくちゃカッコよくないですか?」


「あ、やっぱり昴ちゃんもそう思う?」


「はい、ヤバすぎですよね?それこそアイドルとか俳優さんと比べてもダントツに!実はアイドル仲間とも話題になってたんですよ!岩下文雄さんの、ファンクラブ作らないかって!」


「ぷっ、良いわねそれ」


「ええ、仕返しって訳じゃないんですけど…」


「わかったわ、私も協力するわ!カレンダーとかグッズがバカ売れする様なアイドルにしてあげましょ!」



まさか、まさかである


その一年後に…俺が、アイドルになるなんてこの時は全く思っても居なかったんだ…




推しに、推されるアイドルになるなんて














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20222 推しを全力で育てた結果、俺が推されてしまった件 ちょせ @chose

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ