だって、推しだよ!?

御影イズミ

推しが生きるためには犠牲を厭わないよ!


「フォンテ、突然で申し訳ないんだがお前の指を貸してくれないか」

「本当に突然過ぎて笑うんだが、何??」



 ある日の如月探偵事務所。今日は異世界から3人の男たちが、暇つぶしに遊びに来ていた。


 そんな中、如月和泉がスマホ画面をフォンテ・アル・フェブルに見せながら懇願する。ちょっとこの画面を押すための指を貸してくれと。

 フォンテはスマホ画面を見たのだが、何が起こっているのかわからない。何故なら彼は異世界であるガルムレイという世界の出身であり、機械文明の途絶えた世界からやってきた。故に、スマホというものに慣れておらず、指を貸してくれという意味合いも『指を切って渡せばいいのか?』といった返答を返してきた。


 違うそうじゃないとイズミ・キサラギがフォンテに告げ、フォンテの隣にいたジャック・ノエル・ウィンターズも和泉に向けて先の言葉の意味を問う。そもそもスマホという未知の物体が何なのかもわかっていないため、和泉は1から順に説明した。



「まずこのスマホってのは、まあ通信機のことな。通信機なんだけど、ゲームとか、スケジュール管理とか色々出来る」


「うん、お前が電話? してるのは見たことあるぞ。それの中に人がいるのか?」


「いねぇよ。いたら怖ぇよ。まあ、お前らが使っている魔石通信みたいなものだと思ってくれ」


「じゃあ、指を貸せってのはどういうことだよ? ぶった切るんじゃなかったら何に使うんだよ」


「こうやって指で操作する必要があるんだよ。スマホは」



 すいすいと説明しながら画面を動かす和泉。しかしその画面は、あるスマホゲームのガチャ画面を写したままほとんど動いていない。

 ……どうやら和泉は今、推しを引き当てるために汚れのない指、つまり何も知らないフォンテやノエルの指を使って推しを引き当てようとしている。すでに課金も限度額まで済ませているため、あとは彼らにガチャのボタンを押してもらうだけなのだそうだ。


 よくわからんと言った顔がイズミ、フォンテ、ノエルから出てくる。まず、推しというものがよくわからなかったし、なんなら和泉が引き当てようとしているゲームのキャラを引くという意味もわかっていなかった。

 こうなってしまうと、説明に手間がかかる。そこで和泉はおもむろにガチャ画面からお目当ての少女キャラ『ココロ』の設定画面へと移行させ、キャラクターボイスを聞かせる。

 画面の向こうから聞こえる可愛らしい少女の声は事務所内を響き渡り、イズミ、フォンテ、ノエルの心を揺さぶった。



「っ!? 喋った!?」


「わぇ!? な、なに!?」


「これが、俺の推し!! 可愛いだろ!? なぁ!? 可愛いだろ!!?」


「ちょ、バカ近づくな!! 鼻息荒すぎる!!」



 推しの話になると一気に加速する和泉は、推しキャラの台詞が可愛いだの、顔が可愛いだの言ってイズミ達に売り込む。このキャラの魅力は語るだけでは難しいと、更には過去ストーリーのリプレイまで読ませる始末。


 全部のリプレイを読ませ終わると、イズミ、フォンテ、ノエルは陥落。あまりにも健気で可愛い少女の物語は、新たに3人の男たちの心を掴んで離さなくなってしまったわけで。



「な? わかるだろ? ココロちゃんの新しい台詞、新しい動作、新しい技……それを手に入れるのは、今しかないんだ!!」


「オッケー、完全に理解した!! 俺の指でいいんだな!?」


「おう!! まずはフォンテ、お前の指からだ!!!」



 そう言って和泉は画面をガチャ画面に切り替えると、フォンテの指を使って10連ガチャを引く。ずらっと並ぶガチャの排出画面を見て、フォンテは喜んだが……和泉は喜ばなかった。その排出画面にはココロが出ていないからである。

 他の可愛らしい子もいたが、今は何よりココロが目当て。和泉は次だと言ってノエルの指を借りて、次の10連ガチャ排出画面を出す。



「ど、どうだい……?」


「……くっ、惜しい!! 同じようにピックアップされてるフェリシアちゃんは出たが、ココロちゃんは出てねぇ!!」


「ぐあーー!! ココロちゃーーん!!」


「イズミ!! 次はお前だ!!」


「よーし、任せろ。こう見えて俺はこういう運絡みのことは結構強いんだぞ」



 最後に指を差し出したイズミの画面は、きらきらぴかぴかと演出が光る。これはもうココロちゃん排出確定だろう。誰もがそう思っていた。……数秒前までは。


 排出画面に映し出されているのは、同日ピックアップキャラのフェリシアというキャラクターが2人ほど。他はレア度の低いキャラだったり、装備品だったりが映し出されており……彼らのお目当てであるココロはいない。

 その絶望に4人の男たちは机を同時に叩き、悔しがった。大好きなココロが出てこない、フェリシアばかりが出てくるという状態に男たちは涙を流し、悔しさに机を連続して叩いていた。


 そんな環境下、如月探偵事務所に客が訪れる。……というよりも、昼食のおすそ分けに来た霧水砕牙と木々水サライ、鷺来瑞毅の3人が来ただけなのだが。

 3人は和泉たちの重い空気に一瞬ドン引きしたが、和泉のスマホ画面を見て何かを察する。現代人である砕牙たちもまた、和泉と同じゲームの同じキャラを推しとしているため、ここで一緒に引こうぜとガチャ画面を開いた。



「忘れてたわ。ココロちゃん今日だったんだっけ」


「そうなんだよ……俺あと200連ぐらい回すことになりそう……」


「天井あるとはいえ結構厳しいよな。……うーん、俺も出ねェ」


「瑞毅くんはどう? 出た?」


「俺はさっき天井してココロちゃんお迎えした」


「はえーよ廃人」


「イズミっちー、ちょっと指貸して」


「お前もか!!」



 この日、7人の男たちは推しのためにたくさんのお金をばらまく。

 あどけない笑顔を浮かべたゲームの中の架空の少女・ココロ。その子のためならなんだってするさの勢いで、男たちの財布は空になっていった……。

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だって、推しだよ!? 御影イズミ @mikageizumi

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