上段と二刀
中田もな
極は無声に至る
彼が剣道を習っていることは、友人伝いに聞いていた。小さい頃から剣道をやっていた俺は、彼のことが少しだけ気になった。しかし、それ以上でもそれ以下でもなかった。ふとした瞬間に、互いのことを耳にする。ただ、それだけの関係だった。
「やぁぁぁぁぁっ!!」
――打太刀の発声が、乾いた道場に響く。彼は有名大学の名を背負い、俺の前に対峙していた。
「珍しいっすね。上段と二刀の試合なんて」
試合が始まる前、末席の方から声が聞こえた。大手新聞のカメラマンが、隣の記者に言ったのだ。
「おまえ、しっかり撮影しておけよ。あの二刀の選手には、名のある師範がついているらしい」
二刀が出場できるのは、大学の試合からだ。だから彼は、今まで公の場で活躍することはなかった。そして俺も、彼の強さを全く知らなかった。
――一瞬の接触ののち、均衡した鍔迫り合いに入る。俺は小さく息を呑みながら、剣先が触れない位置にまで下がった。
思ったよりも、攻め切れない。彼の左手にある小刀が、俺の竹刀を抑え込む。守りながら、攻められる。そんな感覚に陥った。
「ただ今の試合は、神田選手が勝ちました」
隣の試合は、すでに終わったようだ。俺たちの試合は勝敗がつかず、延長戦にもつれ込んでいる。間合いを取れば、俺の勝ち。攻め切れたなら、彼の勝ち。たった三分間の出来事が、半永久のように感じられた。
「どぉぉぉぉぉっ!」
……客席から、拍手が上がる。しかし、俺の入れた一本は、有効打突にはならなかった。
「めぇぇぇぇぇんっ!」
彼が俺の竹刀を抑えて、激しい面を入れた。審判の判定は、一人が一本。あとの二人は判定を棄権した。
決着がつかない。均衡が破られない。緊張の糸が張り詰める中……、俺は心の底から楽しんでいた。
試合はいつか終わる。勝負も必ずつく。しかし、彼とはまた会える。俺は、そんな気がしていた。
「めぇぇぇぇぇんっ!!」
――俺と彼の竹刀が、緊迫した場面を破り、互いの面を打つ。のちに、旗は上がった。
上段と二刀 中田もな @Nakata-Mona
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