第10話 合法的殺人

俺の家庭は生まれつき貧乏だ。

何かを買おうにも金が無く、買い物について行っても何も買ってもらえない。

何かを得るためにはまず金が必要、幼い頃にそれを知った。


それが俺、金宮光太郎だ。


――小学生時代。

「なぁ今月号のコロコロ読んだ!?」

「すまん俺ジャンプ派」

まだ無邪気な少年達は授業中にも関わらず元気な笑い声を上げている。

「なぁ光太郎!お前はどっちだ!?」

真面目にノートをとっていた俺に少年は尋ねてくる。

だがこういう時の回答はこれしか無かった。

「俺は単行本派だから」

当然、単行本なんて持ってないが周りの空気に合わせるしか無かった。

「単行本か。週間連載の方が早く読めるのに」

少年達の言葉に俺は笑うことに必死だった。


「……ただいま」

「あら光ちゃん!久しぶり!」

俺が帰ってきたら親戚のおばさんがいた。

「秋原おばさんこんにちは!」

俺はおこづかいが貰えると思い元気よく挨拶する。

「秋原さん待ってください!光太郎の入学費は!?」

「心配しなくていいですよ。毎月一定額振込みますので」

おばさんは鞄から何かを取り出す。

「光ちゃん、早いけど入学祝い!スマートフォンだよ!」

「ぇ…これ何円なの!?」

俺は喜びより先に値段が気になってしまった。

「なら値段はそのスマホで調べてみて。母ちゃんが欲しがっちゃうほどだから」

「へぇーー!!!」

俺はそれを知って満面の笑みになる。

「じゃ、そろそろ行くわね」

「秋原おばさん、またね!また来てね!」

バタンっとドアが閉まる。

「光太郎、設定とかしてあげるから一旦貸しなさい」

「ありがとう母さん!」

俺は喜んでスマホを渡した。

「スマホ♪スマホ♪」

俺はスマホが楽しみでその日はあまり寝れなかった。


――2ヶ月前。

「……金が欲しい」

俺は最近転校してきたクラスメートの桐林│冬弥とうやに机に突っ伏した状態で嘆く。

「金宮さんは貧乏なのですか?」

「あーそうだよ。貧乏、めっちゃ貧乏だよ。娯楽はスマホくらいしか無いし」

俺は不貞腐れた顔をして言う。

「ならYoutuberとかどうですか?」

「……俺なんかにできるか?」

俺の疑問に桐林はすぐ口を開く。

「コラボですよ。このクラスにいるじゃないですか、大人気Youtuberが」

「……あー確かに!ありがとな!冬弥くん!」

俺は気が晴れてサッと起き上がる。

「喜んで頂いて何よりです」

「……?」

俺は少し違和感を感じ冬弥に言った。

「冬弥くん、仲良くしたいから敬語はやめてくれ」

俺の言葉に冬弥は少し困った顔をしていた。

これで俺も金で幸せになれるかもしれない。

俺はそんな淡い期待を膨らませ動画投稿を始めた。


――そして2週間前。

「……何してんだよ」

俺はしきりに強くなる雨の中で囁く。

「あの日、白雪に助け舟を求めて断られて…一時の感情でやっちまった。……そうだよ。杉浦、お前は何にも間違ってないんだ」

後悔している。

俺はもう杉浦の敵なんだと。

そして白雪を殺したのは間違いなく俺だ。

「……でも、コラボした日、白雪と白雪の父さんが楽しそうに構成を話していたのを見て、少しでも羨ましいと思っちまったんだ」

俺は自分でも何を言っているのか分からなかった。

自己肯定と否定を繰り返し、結局何が正しいのか知ることはできなかった。

いつしか俺は自分の家までたどり着いていた。


――数日前、放課後。

杉浦が学校に復帰してから数日が経った。

てっきりまた殺しに来るのかと思ったがやけに大人しい。

何か計画でもあるのだろうか。

そんな事を考えながら5チャンのスレを覗く。

「………は?」

俺はそのタイトルを見て絶句した。


『白ファの住所晒したクソガキの住所晒すwwwww』


そこには俺の住所や白ファの住所特定に至った原因が細かく記載されていた。

「……」

俺はなるべく普通な振る舞いを見せたあとそそくさと教室を出た。

「………」

スレ内では俺に対する罵詈雑言が渦巻いている。

恐らくすぐに拡散され、イタズラとかも発生する。

そして俺は貧乏な家庭だから引っ越すこともできない。

……これは報いなのだろうか。

白雪を死に追い込んだことの。

「………嫌だ」

死にたくない。

俺は白雪のようにはなりたくない。

逃げないといけない。

「ぁ……」

すると俺は1ヶ月前白雪から受け取った10万円を思い出した。

そうだ、まだ9万残っている。

ほとぼりが冷めるまで誰かの家で居候いそうろうさせてもらえればいい。

「……生き延びてやる」

俺はそう決意し1人ずつ連絡してみることにした。


――日曜日、夜。

「……母さんはもう寝たか」

俺は家を出た後に連絡することにした。

多分すぐに止められるから。

でも生きたい、死にたくない。

俺は桐林の住所が書いてある紙を片手にドアノブに触れる。

「……生き延びてやる」


「光太郎、何してるの?」


「……!?」

俺は背後にいる存在に目を剥く。

まずい、止められてしまう。

「え、えっと母さん……その…」

俺は思考が止まってしまう。

こんな状況で何を言えば……。

「知ってるよ。ここが特定されたの」

「……ぇ」

母さんの予想外の発言に困惑する。

「健さんがあの日いなくなって……光太郎、あたしはあんたにも裏切られるのね」

「母さん……ごめん、少しの間だけ家を出ることを許して!」

俺はそそくさとドアを開ける。

急がないと……


「死ね」


11話に続く……

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