第7話 決意

僕は無力だ。

親友の仇を取れないなんて。

でも、何もできないままは嫌だ。

あいつを殺すまではお前に会えないから。

でも、もう僕だけに出来ることなんてない。

今更何をすればいいんだよ。

教えてくれよ、白雪。


「………ぁ」

僕が目覚めた直後見慣れない天井に目が入る。

ここはどこだ?

「あ、目覚めました、先生!」

看護師の女性が驚いた顔をして言う。

ここは……病院?

「……あの、すみません。どうして僕入院してるんですか?」

看護師は少し顔を顰めてから答えた。


「和樹さんは自転車で坂から転げ落ちて全身打撲したとあなたを連れてきた男性に聞きました」


……は?

それは金宮に言われたことじゃないか。

そもそも僕は金宮にボコボコに……

「……!」

……いや、あの後僕は……


嫌だ、怖い。

金宮の顔を見たくない。

殺されたくない。

降り続ける雨の中、僕は恐怖に支配されていた。

「嫌だ!嫌だぁぁぁぁぁ!!」

僕は走った。

暗闇で覆われた世界の中を。

「あぁあぁあぁあ!!」

恐怖で支配された者のする行為はただ1つだ。

「自転車は!?自転車は!?」

現実逃避。

僕は学校に行かないのと金宮の恐怖から逃れるために自転車に乗る。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

俺はそう言い続け大きな坂の上に立つ。

「……」

怖い。

けど逃げたい。

「……あぁああぁあぁあ!!!」

僕の悲痛な叫びの後にアスファルトの鈍い音が響いた。


「うわぁあぁあぁあ!!」

僕は全てを思い出し叫んだ。

「え?先生!患者の精神状態が急変しました!」

僕は白雪を死なせたのにとどまらず自分の使命から逃げたんだ。

どれだけ恥を積み重ねるつもりなんだよ。

「杉浦君!大丈夫か!?」

僕が何もかもを思い出した直後に中年の医師が来た。

こんなところに居続けてる場合じゃない。

「……先生、僕が退院できるのはいつですか?」

僕はなるべく早く退院できるよう徹することにした。

目的は変わらない、金宮を殺す。

もう逃げない、白雪を失望させない。

そのためにはどんな手も使ってやる。

あいつが白雪にしたように。


――約1週間後。

僕は割とすぐに退院できた。

どうやら骨折などは無かったらしく、圧迫固定のみでの治療で済んだ。

「母さん、ここで降ろして」

「え?ここ?」

僕は車からぎこちない動きで降りる。

「用が済んだら勝手に帰るから、先行ってて」

僕は花やお菓子が供えられた橋を見て言う。

「う、うん」

車が走り去った直後に僕は口を開く。

「……白雪」

僕はポッキーを手すりの上に置く。

「僕……いや、俺さ、強くなるよ。お前が俺を好きって言ったあの日から俺は弱いところばっか見せてきたからさ」

俺は小石を川を投げつける。

「金宮を殺す。それまでここにいてくれよな」

僕はポッキーの半分をポケットに入れて目的の場所に向かう。

入院中ずっと考えていた計画。

その計画には協力者が必須だ。

「まだ引っ越してないといいがな」

俺はインターホンに指を押し込む。

「……はい」

ドア越しに聞こえたのは暗めの声だった。

よかった、まだ引っ越してなくて。

ギィィィ……

ドアが少しずつ開く。


「お久しぶりです。白雪のお父さん」


第8話に続く…

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