第4話 純愛

――約1週間後、教室。

「えー出席を取るぞー。……白雪はまた休みか」

担任の先生は無表情で言う。

「……」

白雪は3日間学校に来ていない。

先生は体調不良と言っているが声色からして多分嘘だろう。

「なぁ金宮、白雪なんで休んでるんだろうな」

僕は斜め後ろに座る金宮に聞く。

「さぁな、最近流行りのコロナってやつじゃないか?学校側は隠すだろ」

金宮は机の木目を見ながら返す。

「……確かに。今日帰ったら通話でもかけようかな」

僕は目の前の大量のプリントが入った机を見ながら言った。


――放課後、自宅。

「白雪、元気にしてるか?」

僕はスマホ越しの白雪に聞く。

『うん、元気だよ!』

白雪は聞く限り元気そうに答える。

「……」

……でも、どこか悲しそうなのは何故だろうか。

『和樹、伝えたいことがある』

白雪は急に声色を変えて言う。

「……なんだ?」

この次に言葉を聞いた時、僕は一瞬呼吸が止まった。


『僕の住所が特定された』


「……は?」

僕は言っている事が理解できずTwitterを開く。

そこには白雪の住所特定に関するツイートが1000件以上あった。

「なんで…」

理解できない。

何が原因だ。

誰がなんのためにやった。

『和樹、これから父さんと引っ越しについて話すから…もう切るね』

「待て!白雪!」

僕は白雪と話すのがこれで最後になってしまうのではないかと思い止めに入る。

ツーツー……。

しかし返ってきたのは通話終了の合図だった。

「……くそ」


――2週間後、通学路。

2週間経っても目の前の席は空白のままだった。

だけどクラスメートは不思議なくらい普通だ。

「……」

僕は通学路の橋を黙って渡る。

橋の影の無い川を見ながら。

あれから僕は何かが足りないような感覚に包まれていた。

寂しい。

会いたい。


「おはよう、和樹」


「……!!」

僕は声の正体を探ろうとすぐに振り向く。

白雪だ。白雪が目の前にいる。

「……クラスメートに別れの挨拶でも行くのか?」

でも僕は素直に喜べなかった。

多分今日で最後だからだ。

「いや、僕は引っ越さないよ」

白雪と話すのは。

「別れの挨拶は何に……え?」

僕は白雪の思わぬ返しに困惑してしまう。

「お前…住所特定されたんだろ?いたずらとか、知らない奴らが家に来たりしてんだろ!?」

僕は否定的な言葉しか言えなかったが同時に嬉しかった。

まだ白雪と、学校に行けると思ったから。

「うん、今は前より迷惑行為は多くなってるし」

「なら早く引っ越せばいいだろ!?」

僕はこの時の白雪が理解できなかった。

こんな苦しみ、早く逃げればいいのに。

「父さんにもそう言われた。でも僕は…引っ越せない理由があったから」

白雪はそう言い僕の両手を握る。

「……なんだよ」

次の言葉は僕の思考回路を完全に停止させた。


「和樹、僕は君が好きだ」


「…………なんて?」

僕は言っている事が理解できなかった。

白雪が僕の事を好き…?

お前は男だろ?

「だから…別れたくないんだ。耐えられないんだ。君を…捨てたくないんだ」

白雪は少し涙を流しながら言う。

「ぁ……ぁ……」

言葉が出ない。

何を言えばいい?

白雪は…まさか、自殺しようとしている!?

なんでだよ!?

様々な混乱が僕の頭をかけまわる。

「でも、父さんは僕がここに残るのを否定したし、和樹も僕を否定すると思う。でも僕はここにいたい。ここにいたいから、最後に僕の気持ちを…どれだけ君が好きかを伝えるよ」

白雪は手すりに力を入れる。

「ま、待て!しらゆ……」

「……」

しかし白雪を止める最後の希望は冷たい口付けで妨げられた。

「ぁ……駄目だ。駄目だ!駄目だ白雪!」

僕は届くはずのない手を伸ばす。

「……」

こんな終わらせ方は……


「ごめんね」


誰も望んでないのに。


第5話に続く…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る