第3話 俺の限界
――月曜日。
白雪と金宮のコラボ動画の再生数はこの数日間で60万再生まで伸びていた。
その恩恵もあってか日曜に見た時、金宮の登録者数は1200人まで伸びていた。
コラボは大成功だ。
「おはよう、和樹」
いつもの通学路でいつも通り白雪と会う。
「コラボ動画、金宮に10万あげるだけの価値はあったか?」
僕は少し意地悪な顔をして言う。
「あるよ!今回のコラボは両方登録者が伸びたしカーチンとも仲良くなったし!」
白雪は少しキレ気味に返す。
「悪い悪い、幼なじみだから嫉妬してただけ」
「……」
僕の冗談に何故か白雪は顔を赤らめている。
……こいつはBLのジャンルにも首を突っ込むつもりなのか?
「……そのジャンルは賛否両論だと思う」
「え?何の話?」
その後は他愛のない日常会話をしながら学校へと歩いて行った。
※
――教室。
「おはよー」
「……」
僕と白雪はいつものように軽い挨拶をして席につこうとする。
だが教室が妙に静かだ。
「何だ?」
僕は理由を探そうとするがすぐに原因が理解出来た。
「白雪!どういう事だよ!」
金宮が何故か怒っているからだ。
「何言ってんだ金宮」
白雪が口を開くより先に僕が口を開く。
「……っ!」
金宮は怒りと悲しみが混じったような顔でかなり前の機種のスマホを僕に見せる。
「何だ…これ?」
白雪は写った画面を見て反射的に目をそらす。
「教えてくれよ…なんで俺のコメ欄が荒れているのか!?」
それは目を塞ぎたくなるような光景だった。
最近投稿した動画のコメントが
『白ファから来たけど編集がスマホレベル』だったり『編集gm』といったアンチコメが大半を占めていたのだ。
「なんで…あの時のチャットはそこまで…」
「……」
白雪は未だに理解できていないらしい。
プレミア公開した時の視聴者と反応が真反対だからだろう。
「なんでだよ…登録者も800人まで下がったし…お前とコラボしたのは間違いだったのかよ!?」
金宮は怒りに任せて叫ぶ。
「それは…僕はただカーチンと…」
白雪はしどろもどろになっている。
「おい金宮、コラボ相手にそれは失礼すぎるだろ」
僕は耐えきれず白雪の前に出る。
「お前には関係無いだろ!」
金宮の頭の血はまだ引いてないらしい。
「あぁそうだな。でもいいのか?そんな怒りに任せて叫んで。新学期早々信用を失いたいのか?」
「……ぁ」
金宮はふと冷静になり周りを見渡す。
「……」
静かだ。
しかしおびただしい数の視線が金宮を貫く。
「……カーチン?」
白雪は不安な表情で金宮の方を見る。
「……悪かった。俺は冷静じゃなかった。お前らも…ごめん!」
金宮は白雪とクラスメートに頭を下げる。
やはり陽キャにクラスカースト上位は手放せないらしい。
「う、うん!こっちもなんかごめん!」
白雪も社交辞令のように頭を下げる。
「……スマホ禁止だからはやくしまえよ」
僕はそれだけ言って席に着いた。
※
――放課後。
「今日はありがとう、和樹」
白雪は顔を
「お前気弱だからこんな事日常茶飯事だろ。気にすんな」
僕は何気なく返す。
「……」
「……」
何故か口が動かない。
別に動かしても何の損も無いのに。
「ねぇ和樹」
「なんだ?」
白雪が先に口を開いてくれた。
「和樹が朝聞いてた10万だけど…やっぱりその価値はあったと思うよ。僕みたいな人間が関われるにはそれしか無いからさ」
白雪は未だに俯いたままだ。
「そんな事ねぇよ。僕なんて何も持ち合わせて無いが、基本的には成り立ってるからさ」
僕は励ますように白雪に返す。
「それは和樹が強いだけだよ。…でもありがとう。おかげで勇気が出た」
白雪は僕の目を見て言う。
ピロリン♪
白雪のスマホから音が鳴った。
「誰からだ?」
「カーチンから。えーっと…今日はごめん!お詫びと言ってはなんだけどプレ企画の集計と通知は俺がするよ!ってさ」
白雪は少し嬉しそうな表情を浮かべ言う。
「そっか、金宮が反省しているのが知れてよかったよ」
僕も少し笑みを浮かべて橋の影が映った川を見つめていた。
第4話に続く…
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