第2話 不審者
白雪と金宮がコラボをすると聞いてたら数日が経った。
『今日午後7時からプレミア公開する』とLINEでわざわざ送ってきたのだから余程自信があるのだろう。
「金宮、よかったなホントに」
白雪の企画が相当面白ければ金宮のチャンネルはすぐに伸びるだろう。
「僕もYoutuberやろうかな」
僕がそんな戯言を呟いていると…
「
僕の母が1階から大声で聞いてきた。
「お菓子は何円までー?」
僕はなるべく動きたくないから大声で返す。
「100円ー」
100円か。たけのこの里が食べたいが僅かに届かない。
「四捨五入はー?」
僕の問いに母は少しの間を置いて返す。
「適応されるー」
よし行こう、たけのこの里を買いに。
最寄りのスーパーではたけのこの里が139円(税抜き)で販売されているからな。
「分かったー。すぐに行くー」
僕は12時にようやく着替え、階段を降りる。
「ちょっと母さん、テレビ切り忘れてるよ」
僕はリモコンを手に取るがテレビに写った画面で指が止まった。
竹の花が120年ぶりに咲いているとニュースで報じられていた。
「……変な見た目だな」
形は花と言うには疑うほど異形だ。
しかし120年ぶりの竹の花はとても珍しい。
「ちょっと和樹ー車で待ってるわよー?」
「……行くか」
だが僕はそれをずっと見ることはできなかった。
※
――最寄りのスーパー。
ここの商品は全体的に相場より安い。
だからいつも来ているが案の定人口密度が高い。
「なぁ、白雪の動画って見たことある?」
母に特に意味の無い質問を投げかける。
「あるある、だって旦那さんの編集が面白いからね」
母の返しに僕はうんうんと頷く。
白雪の発想力から面白みが生まれるのもあるが何より父親の編集技術が面白さの後押しになっている。
「そうだね、それに――
会話を広げようとした時どこからか出た声で会話は止まった。
「それだ」
「……誰?」
突然聞こえた謎の声の正体を僕は反射的に探そうとする。
しかも「それだ」ってどういう意味だ?
僕が眉をひそめていると……
「バカねぇ和樹は。多分連れの人と喋ってたんでしょ」
母は呆れた声で僕に言う。
「そうか…そうだよな。ごめん。それで話の続きだけど……」
僕は何事も無かったかのようにたけのこの里をかごに放り投げた。
※
――自宅、夜。
『もうすぐで公開されるね』
白雪は電話越しでも分かるほどの上機嫌さで言う。
「しっかしどんだけ見て欲しいんだよ。わざわざ通話かけてきて」
プレミア公開を待っていたが急に通話がかかってきて正直ビビった。
『ごめんって。どうしても見て欲しかったからさ』
白雪は笑いながら謝る。
やっぱりこいつは天才だ。
……人を怒らせる。
「ネタバレされたくないからもう切るぞ」
僕はそう言って通話を切ろうとすると……
『ちょっとまって!言いたいことが…』
ピッ……。
そのフレーズは女にしか許されないぞ。
ただでさえあいつは容姿が女っぽいのに。
彼女無しの僕はそう思いながら動画に目を向ける。
……もう動画は始まっていたらしい。
『どうもみなさん!白雪ファミリーへようこそ!』
画面の白雪は元気よく挨拶している。
『今回外にいる理由は……現役選手に来てもらい、逃走中をするからです!逃げ切れば賞金10万!というわけで本日はコラボゲストで僕の友人、カーチンと逃げさせて頂きます!』
『こんにちは、カーチンです!本日は10万円をかっさらいに来ました!』
さすが白雪だ。さらっと金宮が出る口実を作っている。
一方チャットは『まじ優しい』だったり
『こんな友達が欲しい人生だった…』など
それぞれ楽しんでいるようだ。
「…今は動画に集中するか」
その後は白雪が開始5分で捕まったり、金宮がすごい顔で逃げ切るなど見どころの多い内容だった。
「ふふ…金宮、今どんな顔してんだろうな」
僕はその時ただ、笑っていた。
第3話に続く…
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