僕は勇者! 死亡グラフを回避して僕と結婚したクロエ様は料理上手なのです

東雲三日月

第1話 僕は勇者! クロエ様は料理上手なのです

 僕は勇者松本 まつもと


 ・・・・・・腹が減ったなぁ、どうしよう。


 3日前に不運により交通事故で死んだはずなのに、何故かこの世界に転生してしまった。


 ここからどうやって生き延びろというのだろうか。


 食材を入手することもままならず、お金なんか持っていない。


「私は神だ!」


 3日目にして僕は石像を見つけ、その石像に祈りを捧げると、その石像が動き出し、中から神と名乗る者が現れた。


「お前は松本だな! 今から勇者としての力と剣を授けよう。今日から勇者松本として生きるが良い」


 こうして僕は転生してから三日目にして、望んだわけではないのに力と剣を手に入れてしまい勇者となった。


 ・・・・・・そんなものより握り飯でもくれればいいのに・・・・・・。


 僕はこの時、初めて神様を恨んだ!


 ・・・・・・勇者の力があっても剣があってもお腹がいっぱいにはならないじゃないか。


 力を与えられても役に立つ筈が無いだろうと思いながら、だだっ広い草原を走り回る。


「あの、貴方はお見受けするところ勇者様でしょうか?」


 声をかけてきたのはとても美しい女の人だった。


 服装もドレスのような華麗なものを纏い、肩下まである艶やかな白銀の髪には王冠をしていて、色白の肌に青い瞳をしている。


「あ、はい、まぁ一応勇者ではありますが、勇者だなんてよく分かりましたね」


「だって服の後ろに勇者松本とはっきり書かれてましたから」


 彼女はにこっと笑ってそう言った。


 ・・・・・・ぐぬぬ・・・・・・なんだって! やってくれたな! あの使えぬ神様め。


 勇者となってから、誰もが僕を避けるようにしている理由がようやく分かり、僕はあの神様の仕業を恨みまくった。


「私はクロエ公爵家の一人娘なのですが、この度第一王子との婚約が進む展開に来ているので、とても困ったいるのです」


「それはおめでたい話では無いのですか? 何も困るようなこと無いと思いますが・・・・・・」


「貴方はこれから私が話すことを聞いたところで理解出来ないと思うけど、聞いてくれますか?」


 神妙な面持ちで言ってきたので、僕は「聞きます」と答える。


「頭のおかしい奴だと思うかもしれませんが、私は此方の世界に転生してきました。そしていきなり貴族になっていたのです。恐らくこれから王子と出会い婚約すると思います。ここは転生する直前に私がやっていたゲームの世界とそっくりなものでして・・・・・・」


「それは本当ですか? 実は僕も転生してきました。前は高校生だったんですよ」


「そうなんですか、奇遇ですね! 私も前は高校生でした。でも今はゲームの世界と同じ世界にいます。だから、これからどうなるか私自身の未来が分かるのです」


「ど、どうなるんですか?」


 僕はお腹空いたことより、彼女の話が気になっていた。


「これから私は舞踏会にて第一王子と知り合い婚約するのですが、その後浮気の疑いを掛けられ、この国から追放されます。ゲームの世界では追放の後は殺されていました」


「ほ、本当ですか・・・・・・!?」


「ええ、本当です。色々と設定が同じなので、分かります」


 彼女はそう言うと、遠くの方を見つめたまま、俯いている。


 ・・・・・・ぐーきゅるる


 こんな大事な話の最中に、僕のお腹が鳴ってしまった。


「ごめん、三日三晩なにも飲まず食わずなもので」


「私の手料理で良ければ振る舞いますよ? 私を助けることを条件にですが・・・・・・どうなさいますか?」


 有難いことに振舞ってくれると言うなら、条件を飲んで助けてあげることを誓うことにした。


 ・・・・・・嬉しい! 貴方は女神様だ!!


「本当に有難う! クロエ様は僕の女神だよ」


「女神だなんて大袈裟ね。でも味は保証出来ないわよ」


 そう言われたけど、お腹が好きすぎているから、そんなのどうだって良かった。


 死にかけの僕は、一刻も早く何か口にしたい状況なのだから。


 その後、クロエ様の知り合いの家に連れていかれた僕は、そこでまたあの神様に遭遇することになる。


「あの、この家は・・・・・・」


「勇者松本だな。ここは私の住まいだ!!」


 ・・・・・・えっ! 神様は下界で暮らしているってこと? それに、クロエ様と知り合いなら助けてあげろよ・・・・・・。


「この人は私がこの世界に転生してきた直後にお世話になった神様よ。時々遊びに来てるの」


「へぇ、そうなんだ。実は僕もこの神様に勇者にしてもらったんだよね!! でも、お腹が空いてるのにそこは助けてもら貰えなくて・・・・・・」


「それは仕方ないわね。私も神様なら死亡フラグを回避してもらてると思ったんだけど、それは出来ないって断られたのよ」


「すまん、この世界に転生して神様になったは良いが、出来ないことも多くあるのだ」


「あの、神様って元は・・・・・・」


「元は高校生だったよ。好きな子が居て告白しようと思ってたんだけど、病気でね・・・・・・」


 ・・・・・・何だよ! この高校生の集まりは・・・・・・これじゃ神様に文句が言えないじゃないか。


「じゃあ、私ちょっと台所借りるわね」


 そう言うと、クロエ様は早速料理に取り掛かる。


 味の保証は無いとか言いながら、凄く手際が良すぎて料理を期待してしまう。


「じゃーん! 一品目完成」


「何ですかこれは?」


 とても食欲をそそられる良い香りがする。


「ホロホロ肉のステーキ丼よ。タレはこの世界に何故かあったカブを使って作った甘辛みぞれダレよ。真ん中に温玉のせたんだけど、どうかしら?」


「うわぁっ、ウマーい! ネーミングからしてお肉がホロホロと口の中で蕩けるように消えていくよ。それに卵との相性もバッチリ!」


「それと、これはフワフワ卵スープと、柔らか豆腐と豆のカラフルサラダ」


 飲んでみるとチーズと一緒に卵が混ぜられているのか、コクがあってとても美味しい。


 それに、豆腐とカラフルな豆のサラダも盛り付けが可愛い。


 こんなに母性本能をくすぐられるほど、料理上手なら、死亡グラフなんて回避出来ると思うんだけど・・・・・・。


「クロエ様は料理上手なんだね! 尊敬しちゃうよ」


「褒めてくれて有難う。元の世界だった時はお母さんが先に病気で亡くなって父子家庭だったから、料理は全部私の担当だったの。味は保証できないんだけどね」


「そうなの? 僕には味も最高だったよ!!」


「勇者松本さん、そう言ってくれて嬉しいわ。有難う!」


「あのさ、僕思うんだけど、未だ婚約した訳じゃないよね。だから、クロエ様は僕と結婚しませんか?」


「えっ、私が勇者松本さんと結婚・・・・・・」


「すみません、そんなの考えられないですよね」


「良いわよ! 料理を褒めてくれる勇者松本さんなら、幸せになれそうな気がするもの」


 僕の決心は決まった。どうにか結婚して貰えるようにするにはどうすべきか、神様を混じえ三人で相談が始まる。


「では。わしがこの世界に巨大な龍を召喚しよう。その龍を倒し、この世界を勇者松本が救ったことにより結婚に持ち込むのはどうだろうか?」


 驚くことに、そんな凄いことを神様自ら提案された。


「で、出来るんですか?」


「見くびるでない! 一応神じゃ。でも、凄く弱い龍しか召喚出来んので、演技の方は任せたぞ、勇者松本!」


 有難いような、有難くないような・・・・・・。


 仕方なくその日から龍を召喚して貰い、練習が始まった。


 先ず龍がクロエ様を連れ去ろうとしたところに僕が現れ、クロエ様を救出したのち、剣で一つきにする作戦である。


 三日三晩の練習に励み、とうとう本番を迎えた。


 神様に、心配そうに見守られながら、とうとう僕は勇者松本をやり切ることに成功する。


 そして、とんとん拍子でクロエ様と結婚することになった僕達は、死亡グラフを回避して、この世界で神様も一緒に小料理店を開くことになった。


 きっかけは、クロエ様が僕に作る料理が上手すぎると身内で評判となったことである。


 今迄神様の家でしか料理をしてこなかったので、身内はクロエ様の手料理を食べることが無かったのだ。


 ──あれから十年。そう、未来は変えられる!!


 僕達は転生してきたけど、この世界でも命ある限り幸せに生き延びるんだ。


 追伸、妻のクロエ様の料理が美味しすぎて今僕はダイエット中です。


 僕のお腹がぷにぷになのに、好きだと言う妻のクロエ様は更に料理上手になっていき・・・・・・今では神様迄ぷにぷにに・・・・・・そしてついには結婚するはずだった第一王子までもが、クロエ様のお店で出す料理にハマりぷにぷにに・・・・・・。


 未だに勇者松本は勇者松本を名乗るため神様が召喚する弱いモンスターしか倒していないけど、何だか今日も平和です。










































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕は勇者! 死亡グラフを回避して僕と結婚したクロエ様は料理上手なのです 東雲三日月 @taikorin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ