第4話 壊れゆく世界で
私は振り返りざま、ゲイドがとびかかってくることを予想し剣を真上に振り上げるがそこに姿はない。
いや、いま後ろにいないということは距離は詰められていないはずだ。
今すべきは広範囲の攻撃だろう。
いや、地上に攻撃をしてもその隙に空から狙われるかもしれない。だったら……空へ飛んで地上を制す。
空に逃げれば、たとえ追ってこられても姿を隠す術はない。幸い、ゲイドの能力は接近攻撃系だ。
私は空からの攻撃を決意し、力を足に溜め飛び上がる。
「……おじいちゃん。力を貸してくれ」
私はそう呟き、両手剣から地面に向かって蒼い光の波動を当てる。仮にゲイドがまだ地面に足をつけているなら、私が作った衝撃波で洗い出されるはずだ。
しかし誰も現れない。と、なると奴はいま
私は両手剣をできる限りの力で握り締め、耳を澄ます。
いくらゲイドが殺気を静められたとしても、呼吸を止めることはできない。
――聞こえた!!
即座に振り返り剣を振りかぶる。
確かにそこにゲイドはいた。が、彼は胴体への攻撃を自らの腕で受け止めている。
私は咄嗟に膝を入れ、ゲイドの首に刃を突き立てながら地面に降り立つ。
周りを見渡し、攫われた少女を探す。
寺院のどこかに閉じ込められているのだろうか。
「もう勝負はついただろう。少女の居場所を吐け」
私の術で縛り上げられたゲイドに訊く。
仮に話してくれなかったとしても、もうすぐ雑魚を片づけたローンが駆けつけるはずだ。
その直後。
「いま君、このおねぇさんのこと考えてたでしょ」
どこからか聞いたことのある声が聞こえてくる。
「あーやっぱり、僕って影薄くなっちゃたんだなぁ」
二度目の声が聞こえた瞬間、寺院の中央に打ちのめされぐったりとしたローンを抱える声の主が立ち塞がっていた。
いつからそこに立っていた?
なぜローンは倒されている?
このローンは……生きている?
「いい反応だよ。お嬢さん。殺し甲斐があるってもんだ――」
「貴様、ローンに何した?」
この男からは殺気どころじゃない、生気すら感じられない。
ついには姿まで消えローンだけがその場に崩れ落ちる。
姿が見えないのでは追跡もできない。
「ゲイド。奴はお前の仲間なんだろう?あいつの能力は何だ」
「……知らないな。あんな奴は私の仲間にはいなかった。」
だとしたらあの男は兵機革団にも犯罪組織にもついていない第三者か?
「ローンその傷は?あの男は一体……」
「……セレーナ。私は大丈夫だから……逃げて……あんな化け物、いくらあなたでも……無理……よ――――」
大丈夫?どこがだ……ローン。お前は――――もう息をしていないじゃないか。
唯一、友と、親友と言えた彼女が……ローンが……
あの男は殺すしかない。
あの時も。じいちゃんの時もここまで殺意がわいたことはない。
この怒りを必死に抑え、私は荒れ果てた寺院に足を踏み入れる。石造りの壁はツタでびっしりと埋め尽くされている。
「そこまでして俺と戦いたいの?君は俺を恨んで、憎んでる。でも戦うとなったら俺は姿を消すことができてずるいよね」
いつの間にか、えぐれた石畳の中央に男が立ちはだかる。
「そんなことは知るか」と私は剣を構え1歩ずつ歩を進める。
静寂の中聞こえるのは石畳の上を歩く私の足音だけだ。
「君はよく分からない超能力を持ってるでしょ。本当は俺にはそんなのないんだよ。ただ……いや、話題を変えようか、君はこの世界で何が起きたか知っているかい?」
この男は何を言っている?この世界で起きたこと……。
そんなことをこの男は知っているのか?
「やっぱり知らないよね。突然だけど、多分俺はこの世界の人間じゃない。いつの事だったかな、普通に生きていた俺は気づいたらこの森の中で立ってたんだ。つまりさ、俺の予想だとこの世界はあらゆる世界が入り混じった世界なんだ。もともといた世界にはこんなに人はいなかったしね。結果としてさ、俺は世界の不具合みたいな存在なんだ」
「だったらなんだ。私がお前を殺すことに変わりはない」
「話が見えていないみたいだね。俺は不正確な存在で、急に姿が消えたりよくわからない女の子に惹かれたり、闘争本能に駆られたりする。そして今は、なにも感じていない。そんな俺と、どうしても戦うの?」
こいつは何もわかっていない。存在が不確かがどうとか、そんなことはどうでもいい。
「今はお前を叩きのめしたいだけだ。戦いたくないのならそれでいい。そこでじっとしていろ」
さらに一歩、二歩と走り出す。両手剣を握り締める拳の痛みに気づく暇もなく、感情の昂るままに腕を振り上げる。
こいつは動く素振りを見せない。間違いなく、この一撃で終わらせられる。
「ローンの仇だ!!」
胴に向かって斜めに振り下ろした両手剣の先に、確かな感覚がある。
生々しいものだが、ローンのためだ。
ふと視線を男に向ける。
これは――なぜだ。そう簡単に殺せる相手ではないと直感的に思っていたが、今回は感覚まであった。
しかし、その感覚の正体はゲイドだ。
致命傷とまではいかないが、傷は深い。すぐに治療をしなければならないだろう。
一体何が起きた?ゲイドは寺院の外で縛り上げられていたはずだ。
だとしたらゲイドがいた場所はどうなっている?そう思い振り返ると寺院に踏み入ろうとしているあの男がいる。
「ね。もう俺には勝てないんだって。今のだって俺がやろうとしてやったわけじゃない。死にたくないって思ったらそのおじさんと場所が入れ替わってただけなんだよ」
男は申し訳なさそうに続ける。
「いい加減わかってほしいな。俺はこの世界においては最強なんだよ」
男がそう言うと次の瞬間。
彼は私の顔を覗き込めるほどまでに近づいていた。
そして足元に何か柔らかな感触がある。
見下ろすとそこには、いつの間にかあの少女が立ち尽くしていた。
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