第3話 行動開始
「いま、もしかして僕の話してました?」
今の声は間違いなくアルクだった。だがアルクはいまあの森の中で倒れているはずだ。
幻聴だろうか、私も疲れているのだろう。
「ちょっとみんな?僕ですよ、僕。アルクですよー」
「ねぇ、セレーナ。なんかアルクの声しない?」
どうやらローンもだいぶ滅入っているらしい。
「する気がする。私たち、相当疲れてるみた……」
窓の外に、アルクが佇んでいる。幻覚かとも思ったが、本物らしい。
私はローンと顔を見合わせ、窓に近づいていく。
どうやらアルクは私たちが不思議そうな顔をしていることに何故かきょとんとした顔をしている。
「アルク。無事だったのか?」
「まぁ色々あったんだよね。結局あのゲイドとかいう男には逃げられちゃったけど」
なんだろうか。私はアルクが生きていて、無事で、とてもほっとしている。
これが仲間というものか。
「あれ、2人は迎えてくれるのに、アシィタさんは来てくれないの?」
「あぁ、アシィタさんならもう寝てますよ」
翌日
私たちは昨日の失態を取り返すためにも、今回は全員同時出動で作戦に向かうことになった。
とはいえ現在の人数は3人。本来ならあれほどの強敵を相手にするなら私と同じ階級の隊員があと4人ほど欲しいが、しょうがない。
どうやらゲイドやわたしを倒したあの男の現在の拠点は森をさらに深く入ったところにある古い寺院にあるらしい。
「みなさん、気を付けてくださいね。今回の相手は大物です。何かあれば私に連絡をくださいね。それでは!」
「行ってくる」そう告げる私に続いてそれぞれがアシィタに別れを告げ、それぞれの任務に向かう。
まずは二手に分かれて、私とローンが地上を、アルクが空からの偵察に向かう。
おそらく、私たちの奇襲で相当警戒を強めているのだろう。アルクを先に行かせ、報告を待つ。
「セレーナ」
「なんだ」
森に向かって走りながらローンが声をかけてくる。
「いざとなったら、私を置いていってね。最悪の場合、私の力じゃ今回の敵には効果がないかもしれないし。だから――」
ローンは自分の能力の心配をしているのだろう。彼女の力は正直異端中の異端だ。自分でも制御できるのかわからないんだろう。
「そんな心配はいらない。ローンは強い、私よりも。」
「うん。ごめん。行こう」
彼女の顔には決意が漲っている。
今回の作戦はいつものものとは少し違う。この作戦の後の仕事が回って来ていないというアシィタの事情に加え、敵の戦力にも謎が残っているため、より柔軟な対応が求められる。
〔あっあー、聞こえてる?〕
無線からノイズと一緒にアルクの声が聞こえてくる。
〔聞こえている〕
〔よかった。えぇっと、敵がたくさんいるよ。そこまでの力は感じないし、多分セレーナさんの実力なら余裕で倒せるんじゃないかな〕
〔了解〕
アルクは私たちの200メートル先を飛んでいる。今のうちに用心していれば問題はないだろう。ローンも私の合図で戦闘に備える。
今、この瞬間にあのさらわれた少女は何をされているのだろうか。殺されそうになっているだろうか。泣いていないだろうか。
いや、こんな心配に意味はないな。
今はただ、走り続けて寺院を目指そう。
「セレーナ、前から敵来てるよ!」
しまった、こんな時に気が散ってしまっている。今のうちに剣を構えておこう。
――思ったより多い!だが初めからあの技を使ったら大物を相手にしたときに体力がなくなってしまう。
私は両手剣で可能な限り無駄を少なくして斬りかかる。
雑魚相手なら背後を取られることもないだろう。
無謀にも次々と群がってくる敵をお構いなしに血で染める。いつから人を殺しても何も思わないようになってしまったのだろう。
「……おじいちゃんが死んだときからか」
つい呟いてしまう。それほど私にとってあの事件は印象に残っている。
そうしている間にも、私は無意識の内に敵に剣を振り下ろす。
私はふとローンに目を向ける。もう力を使っているのだろうか。
「私の前に現れたこと、後悔させてやるよ」
どうやら能力は使ったらしい。きっと成功しているのだろう。
彼女の能力は自分自身の口調や癖、戦い方にまで変化をもたらすことがある、極めて危険なものだ。
それにあの状態になったらもうしばらくは元の精神には戻らないだろう。
〔セレーナさん聞こえる?!結構本丸のほうの人数が多いッ!!結構大変だからこっち来てくれないかな〕
〔――了解した〕
この場をローンに託すべきか悩んだが、あの様子なら任せてもいいだろう。
それにあのローンに話しかけても今の彼女は私のことすら認識できないだろう。
すぐ先に見える石づくりの建造物が例の寺院だ。
建物自体はほぼ全壊状態にあり、生活感も全く見えないが道はある程度整備されている。
ここまで開けた場所だとすでに敵がこちらの存在に気付いているかもしれない。
〔アルク、私は寺院についた。お前はどこにいる。合流しよう〕
〔………………〕
まさか、無線がつながらないのか?それでもこの場所の近くにはいるはずだ。
すでにやられたか、音を出さないよう隠れているだけかもしれない。どちらにしろ見つけないうちには何もはじまらない。
「また会ったな。たしかセレーナといったか」
ゲイドの声だ。
「さすがに気配を消すのがうまいな。背後を取ったと思っているのだろうが、その場所は私の攻撃圏内だぞ」
背後を取られたとはいえ、声の大きさや、殺気の感じ方である程度の位置はわかる。
そして、ゲイドもまた攻撃する準備はできているだろう。
「名前を覚えてもらってうれしい限りだ、女」
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