★Step16 彼女の眠い朝
「ふぁぁ~」
学校の休み時間にリンダは大きな
その様子を笑顔で見詰めていた佐藤が嬉々としてリンダに声をかけます。リンダはひたすら眠かったので兎に角、無愛想にならない様に勤めておりましたが睡魔は容赦なく襲ってきて、なかなか笑顔が作れません。
「リンダさん、昨夜は楽しかったですね」
「ええ、とっても楽しかったわ、生れてはじめてよ、あんなに楽しかったの」
なんとか笑顔でそう答えてからその視線を南に向けると、彼の行動には全く変化が無くいつも通り極めて普通に過ごしています。リンダは席からゆっくりと立ち上がるとリン南の傍らにとことこっと歩み寄り小声で尋ねて見たたのですが…
「南は眠く無いの?」
「徹夜は慣れてる」
南のちょっと冷たい返事にリンダはふうんと鼻で返事をします。要は勉強で徹夜する事はざらに有るのだそうで、一日二日は眠らなくても平気、リンダから見れば南は特異体質に感じられました。そして南はちょっと険しい口調でリンダに向かってこう言いました。
「だいたいな、遊んで眠いなんてのは言語道断だ。遊んでも次の日はしゃきっとしてなけりゃイケないんだ。それが出来ないなら遊ぶんじゃねぇ」
「え、あ、うん……」
ごもっともです。リンダは耳が痛くて耐えられません、南の視線から逃れる様に自分の席にこそこそと戻って行きました。しかし、昨晩の体験はリンダにとって特別な事で遭った事には変わりが有りません。人々が、都会に出て行こうとする言う気持ちが少し分った様な気がします。都会には魔力が有ります、その魔力で若者を魅了するのです。
でも、リンダは思いました。メイおばさんが言ってた通りで、地球の緑はもはや自然では無く観葉植物を見るのと何ら変わりが有りません。そこは自分の星の方が優れているし生活すると言う観点から見れば牧場で牛を相手にしている方が思いやりや感謝の言葉に素直に感動出来て良いと思いました。
「ねぇ、南…あのさ…」
リンダは、ちょっと躊躇いがちに南に訪ねます。
「なんだよ」
「南は、あたしの星の事、どう思う?」
南はリンダをちらっと見てから視線を外し目を閉じながら教科書とノートを纏めて机の上でトントンと纏めながら少し皮肉っぽくこう言いました。
「田舎の星だ」
代替予想がつく答えではありましたが、リンダは後ろ手に手を組むとゆっくりと屈かがんで南の顔をそおっと覗き込みながら更にこう尋ねます。
「住み易いとは思わない?」
南はあからさまに何言ってやがるんだこいつはと言う表情をすると、躊躇う事無くきっぱりと言い切りました。
「全く思わん」
この答えの予想もがついていたのですが、こう、きっぱりと否定されると流石にちょっとむかつきます。
「地球って、全てが作り物の様な気がするの」
「はぁ?なんだそりゃ、世の中の殆どの物は作りものだろうが」
南にリンダの言う作り物と言うニュアンスが伝わらなかった様です。で、南の感覚は人工物も自然が作った物も作り物と言うひとくくりで括られていて、リンダの言う自然の造形と言う意味合いは理解されなかった様です。そこに違和感を感じて、ゆっくりと体を起こすと、口籠りながらぼそぼそとこう呟きました。
「――なんか違うんだよねぇ…」
南の視線がリンダの表情を追いかけます。何かに納得できていない様子なのは明白なのですがそれを利器出来ない南は何も言う事が出来ません。その状態で絞り出した言葉はこうでした。
「まぁ、静かなのは良いかも知れん。何か考え事をするにはちょうど良い環境なのかも」
リンダの表情が少し明るくなります。その表情をみて南の心がちょっとだけずきんと疼いたのを感じました。
♪♪♪
授業中に他の生徒から見て信じられないボケをかまし、皆に明るく弄られながら、危なっかしくも授業は取りあえず無事に終わり放課後となりました後者を出て校門までの道のりを南とリンダの取り巻き三人組が楽しそうに歩いています。
「南君、今日はまっすぐ帰るの?」
夏子が息を弾ませ南の傍らに駆け寄って来ると、明るい笑顔でそう尋ねました。
「ああ、今日は親父が帰って来る予定なんだ。たまには顔見せないとな。それにリンダの事も紹介しなけりゃならないし」
夏子はちょっと残念そうな表情を浮かべましたが、そういう事情では仕方が有りません。南にとって父親が家に帰って来ると言うのが有る意味イベントなのです。それ程までに留守がちな暮らしをしている父親が帰って来るのですから、南は必ずまっすぐ家に帰って父親を待つのが習慣に成って居ました。
「リンダ、今日はまっすぐ帰るぞ」
「うん、分ってる、お父さん、帰って来るんでしょう」
「いいか、言っておくが、変なボケをかますんじゃねえぇぞ。そんな事したら徹夜で日本史の暗記だからな」
「え、え~……」
南の口調は相変わらず冷たくて父親が帰って来ると分かれば少しは変わるのかと思ったら全然変わらない事にちょっと不満顔を見せます。そう思って立ち止ったリンダを冷たく見捨てて南はすたすたと校門に向かって歩いて行きます。流石にこれは可哀そう過ぎると夏子は思い、彼女に駆け寄ると優しくこう誘いました。
「途中まで、一緒に帰りましょ」
夏子の提案でリンダと取り巻き三人、そして夏子が連れ立って学校を後にしました。
「ねぇ、リンダさんは…」
リンダは夏子の敬称付きの呼び方がちょっと気に成って夏子に「リンダで、良いよ」と言いながらにっこり笑って言いました。
「そうね、あたしの事も夏子で良いわ、改めて宜しくね」
どうやら二人は友人としての信頼を築けた様です。そして南はだれも自分の周りにいないのに気がついてその場で立ち止まり、ゆっくりと振り向いて後ろの状況に目をやります。屈託の無い笑顔を見せる女子二人に友情が芽生得た事に南はちょっと複雑な状況です。
でも、南は自分に強く言い聞かせます。自分の恋人はあくまで夏子で有ってリンダは腐れ縁の友人だと言う事を。トウモロコシに用は無い……筈だったのですが、この天真爛漫で自然を愛する素直な性格の女子は自分の周りにはいない人種である事は確かな事を実感しました。
「南……どしたの?」
南に追い付いてきたリンダに突然話しかけられて、常に冷たい南の表情になぜか明らかな焦りが見えました。
「――いや、別に」
南はそう言ってリンダと反対方向に視線を移しましたが、そちらの方向にはやっぱり心配そうな表情の夏子が居ます。
「どうしたの、南君…」
「――なんでもない…」
それでも心配そうに夏子は南の顔を覗き込みますが彼は顔を背けると、少し頬を染めて、こっと震える声で夏子にこう言いました。
「だから、何でも無いって……」
夏子は南の表情を見てにやりと笑います。それは少し意地悪で年頃の女の子が見せるキュートなそれでいてどこか掴みどころの無い、不思議な表情でした。そして南はこの表情に振り回されるのです。
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