★Step14 都会の夜・喧騒の闇
午後の授業も滞りなく終了して放課後となりました。
「楽しいね、地球の学校って」
リンダは上機嫌に南にそう話しますが南は妙に疲れた表情をして居ます。案の定、思った通り、リンダは学校の授業について行けません。「分りません」を連発して頭を掻きながら照れい居ました。
しかし、その仕草が可愛かったのか例の『佐藤、鈴木、田中』の三人組が二人並んで一見仲良さそうに歩く南とリンダの姿を羨ましそうに見詰めながら着いて来ます。
「おめぇら、いい加減に…」
南は米神に『怒』マークを浮き上がらせて着いて来る三人をまるで犬でも追い払う様にしっしっと追い払います。残念ながら三人は、その場で解散と言う事に成ってしまいました。
「なによ、別に追い払う事ないじゃない」
リンダが少し不満げな表情で南に向かってそう言いましたが南は相変わらず無愛想に視線を会わせる事無く歩いて行きます。
「いいか、今日帰ったら明日の予習、特訓だからな」
「え~勉強」
南はそう呟くとどす黒い輝きの視線だけをリンダに向けかました。リンダはその発言に酷く不満が有る様です。勉強なんて学校でやれば十分じゃないと思ったのですが、此処は地球、しかも有名な進学校で有る訳ですから、それに見合った努力は必要です。リンダは、はあっと溜息混じりで諦めた様表情でこう呟きました。
「地球の学校って大変だね」
「莫迦、これでも生ぬるい方だ」
「え~・・・」
現実の厳しさを実感して空を見上げると、地球の空って狭いなと感じました。立ち並ぶビル群は近代技術の粋をつくした超高層、人々はその中で暮らしているのですが、コンクリートに囲まれた世界は本当に幸せな空間なのだろうかと。
草原を吹き抜ける風や動物達の温もりを感じられない世界。メイおばさんが言った肌に合わないと言う言葉を改めて思いだしました。
♪♪♪
頭から湯気を出しながらリンダは机に突っ伏していました。
南の補修はスパルタです。情け容赦なく頭に叩き込みます。頭で覚えられなけりゃ体で覚えろと言う無茶な指導ですので心にも体にもかかるダメージが大きいのです。もっとも、南にしてみれば小学校の問題を教えている様な物ですからそんな事を全く感じません。赤子の手を捻ると言った表現がぴったりでした。
「ねぇ、南…」
リンダの弱々しい口調が静かな部屋の中に響きます。
「なんだよ」
「南は、ホントに毎日こんなに勉強してるの?」
南の視線は何言ってんだ、この程度はウォーミングアップだと言わんばかりの鋭さです。リンダは溜息しか出て来ません。これから三か月、毎日がこう言う生活かと思うと地球に居るより、牧場で牛の世話をしてる方が、よっぽど良いや友思ったんですが、そこはミルおじさんが無理して地球行きの段取りをしてくれたのですから、不平不満を言っている場合では有りませんでした。その妙な間が空いた時、南の携帯が着信音を鳴らしました。モニターの着信表示には『佐藤』の名が表示されて居ました。
「はい、もしもし……」
電話に出た瞬間大音量の音楽に交じって佐藤の声続いて鈴木、更に田中の順に声が聞こえて来ました。
「おい、何やってるんだ、お前ら…」
ちょっと聞き取りにくいのですが、佐藤達は、今『クラブ』に繰り出しているらしいのです。そして、もし良かったらリンダも来ないかと言う御誘いの電話でした。しかし、今のリンダにそんな事をしている余裕など有りません。
「なんだよ、そんな事してる時間なんかねぇんだ、切るぞ」
そう言って南は電話を切ろうとしました。音が携帯から漏れて来ます。その音にリンダは興味深々、表情が一気に変わり笑顔が輝きます。
「南……何の話し?」
「何でも無い、気にするな」
そう言って電話をぶち切りしましたが間髪いれずに再び電話が鳴ります。今度は鈴木からです。彼も佐藤同様リンダのお誘いでした。
「騒がしいのは嫌いだ」
南はその度に電話をを切りますが、更にそれは鳴り続け、田中の電話を聞いた時、流石に南も根負けして仕方無くですが彼らがいる『クラブ』に出掛ける事になったのです。
♪♪♪
ネオンが輝く都会の繁華街には何かが潜んでいる様な危険で淫靡いんわいな魅力が有りました。リンダと南の二人は佐藤が指定したビルの地下に降り、入口の扉を開くと、そこは光と音楽が溢れるリンダの経験した事の無い、強烈な空間でした。そして、リンダと南がこの「異世界」に足を踏み入れた事に気がついた佐藤がお姫様を見つけた王子様の様な表情でリンダめがけて駆け寄ります。
「いらっしゃい、リンダさん」
そして彼女の手を取ると、こぼれんばかりの笑顔でリンダの手を握り、千切れんばかりにぶんぶんと降り回します。
「全く…」
南はそう呟くとソファーにどかっと腰を下ろします。南はこう言う騒がしい空間が少し苦手な様でした。意外な一面です。都会の子だからこういう雰囲気には慣れて居る物と、てっきりリンダは思い込んでいたのですが、南はあまり縁の無い生活をしていた様です。
「リンダさん、一緒に踊って頂けますか?」
佐藤がリンダを誘います。リンダもこの雰囲気に興味深々で躊躇う事無く佐藤の後に着いてホールの方に向かいます。南はその様子を烏龍茶片手に見詰めていましたが、思う事はただ一つ、――何もしでかしてくれるなよ、でした。
何しろ惑星に三人暮らしの超過疎地で育ったリンダです。勝手が分る筈も有りません。その思いは親のそれに通じるところが有るんじゃないかとも思われました、それ程に渋い視線でした。
「あんまり無茶するなよ、相手は田舎のトウモロコシなんだから」
南が鈴木と田中にそう釘を差しますが、リンダは目一杯ノリノリです。佐藤のエスコートでホール中央付近で楽しそうに踊り、地球の夜を満喫している様です。
「大丈夫さ、節度はわきまえてるつもりだよ」
鈴木が南に向かってそう言いましたが音楽とDJと輝くライトがその言葉をかき消します。DJは絶妙に客達を煽ります。異様な熱気と興奮に包まれて、熱気は最高潮。リンダは経験した事に無い高揚感に酔いしれます。
「そうだ、夏子さんも呼んでみよう」
「なに?ちょっと待て」
田中がそう言うと携帯を取り出し、夏子に電話しようとしたのですが、南がそれを制止します。しかし、それを鈴木が遮り電話は夏子につながった様で、何度か相槌を打つと電話を切りました。何を言っていたのかは、周りの音にかき消され得分りませんでしたが、田中が南に向かってVサインを見せた事から、夏子もここに来る事が決定の様です。
「何人か連れて来るってさ」
南の耳元で田中がそう叫ぶ様に言いましたが、南は相変わらず無愛想に烏龍茶を啜って居ました。
「はぁはぁ…」
額に汗を浮かべてリンダが佐藤と一緒にホール中央から戻って来ました。
「南、なんだか楽しいよ!」
息を弾ませて皆の待つシートにリンダと佐藤が戻って来ました。南はその場所から動こうとしません、この雰囲気も照明も、うざったいと言う感想しか感じる事が出来ませんでしたから、それはそれでしょうが有りません。
「ねぇ、踊ろうよ南!」
リンダが南を無理矢理シートから引っ剥がすと、鈴木、田中を従えて、ホール中央に向かって進んで行きました。めくるめく光の点滅と音楽とDJ、リンダは自分が自分で無い気がしてきました。これが都会なのかと言う驚きと、意外に順応出来ている自分の冷静さ。それにちょっぴりのスリル。リンダは夢中で踊りました。こんなに楽しい夜は生まれて初めての事でした。
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