閑話休題、元修道女長ババア無双

@piyopopo2022

第1話

 地方小都市


 私は元修道女長。現在はミズXと名乗って、暗殺者育成キャンプで頭領をしている。


 伝統の各地にある孤児院村、表向きは沢山の孤児を寄付金で育成して、成人までに真っ当な大人として社会に送り出す場所。


 その中から鍛冶の才能がある者、木工の才能がある者、山師として鉱山を巡り鉱石の在りかを探し出せる者を探して教育。


 それらは専門の教師や、引退した老人が弟子を求めて、修道女会のために無償で極意や奥義を教えてくれる。私もここの出身だ。


 ごく稀に学問の才能がある者、魔法の才能が出た者、剣の才能がある者なども出る。


 でも私が探しているのは、高い塀を平気で飛び越えるような強い「ばね」を持った者。


 或いは壁に空いた小さな穴を、まるでイタチかネズミのように忍び込む者。


 鉤爪が付いた紐程度の物で、誰の助けも借りず城壁を乗り越えて来る者。


 夜中に地面に穴を掘っておいて、埋められる前に壁の下を掻い潜ってくる者。



 例えば街の門を通らず、目の前にある低い所がある魔獣除けの城壁を、数人で手助けして飛び超えて来たり、先程開けておいた小さな穴を潜り抜けて来るクソガキ。


 朝市が始まる前、門が込み合って監視が薄くなる時間帯を狙って、スラムから子供の窃盗団がやって来た。


 狙いは買い物客の懐、私はスリの少年少女が大好きだ。


 手が早くて相手に見えない死角から狙って行き、或いは囮を使って相手の集中力をそちらに逸らし、懐にある財布を掏られたのにも気付かない早業で抜き取って行く。


 よく切れる剃刀で服を切って、隙間から手を差し込む手口を練習した者もいて、刃物の扱いにまで長けて、小さい頃から毎日訓練をして、とても熟練している。


 最初からそんなことなどできない鈍臭い子、動きが遅く動体視力が低い者は、参加する権利すら無くリタイア。


 素早い子でも馬鹿なら、盗む相手を見誤って捕まる。そう、昔の私みたいに。


 初犯なら牢屋に入った後、運が良ければ孤児院行き。良い師匠に巡り合えれば修道女会や修道士会の暗部に入れる。


 盗んだ相手が悪ければ、ヤクザの仲間に殺されるか、美形なら男娼送りか売春宿送り。


 何度も捕まる学習能力が無いのは、利き腕の指全部か手首から先を切り落とされる。


 運が悪ければ奴隷落ち、奴隷の仲間でも何人か殺して這い上がって、守衛や看守も殺して逃げようとしたら、奴隷紋入りで暗殺者ギルドが拾ってくれる。



 今日もそんな、イタチかネズミの群れみたいなのが、誰かの背中を登って壁を乗り越え、身長よりも遥かに高い場所から平気で飛び降りて、あんなに小さな穴を通って続々と入場してくる。


 笑いが止まらない。才能に恵まれた裸足で汚いボロを着た、クソガキどもがやって来た。


 まずは奴らの仕事ぶりを見せて貰おう、茶髪の栄養が行き渡ってない細いの。


「おっと、ごめんよっ」


 掏るのには成功したが、笑顔で振り返って声を掛ける必要はない。


 顔を見られて声も聞かれた。自分の仕事を誇ったり、腕の良さを誇るのは良い事だが、「客」を嘲笑って馬鹿にする奴はいつか失敗する。


 次は黒髪の汚いの…… 失敗した、踏み込みが甘い。客が左右に揺れて歩いているのを考えに入れていない。


 違うんだクソガキ、真正面から衝突なんて駄目だ、客が止まって品物見てる間にやるんだよ。


 お次は茶色と黒が混じった錆猫みたいなの。駄目だ、ヤクザの集金人にだけは手を出すな、派手な服装で分かるようにしてくれてるのが分からないのか?


 今回成功しても、次はスリも経験した奴が見張りに来て必ず捕まる。


 やめろ、抜くな、そいつは駄目だ…… ああ、こいつ死んだ。


 顔もたいして良くないから、男娼にも親分か頭領の愛人にもなれない。こっちもクソ馬鹿マヌケは必要ない。


 お次は、まるでお使いに来た街の子供みたいな、身なりを整えて臭くないの。


 頭まで洗っていてハサミも持っているのか髪も切りそろえ、身綺麗にして体も洗い、混雑に紛れ込んでも異臭で気付かれないようにしている本職。


「おばちゃん、漬物一つ」


 列に並んで買い物までして、他の客が品定めしている所で二人から掏って、そこで見切りを付けて客が騒ぎださないうちに姿を消す。


 完璧だ、宝石の原石を見付けた。今日の収穫はこの一人で十分だ。



 そいつに気付かれないように尾行して、財布の中身を取り出して袋を捨てた辺りで姿を現してやる。


 今日も私は吟遊詩人の偽装をして、マヌケな一般人の振りをして歩いてやっている。


 こう見えても聖歌合唱団で鍛えたから歌は得意なんだ。


 小鳥がさえずるような綺麗な声でも鳴けるし、ガッツィーなビッグソングを低音で歌い上げる事さえできる。


 ババアになって引退して、暗部で出世もしたから最近歌ってないが、お前らの道を踏み外させて、吟遊詩人への沼にガッツリ嵌めることもできる。


 まず近くの売り子の所でパンでも買って見せてやり、稼いだ金をしこたま詰め込んだ財布から、馬鹿が銀を道にばらまくような振りをして、軽く2,3枚落としてやる。


「落としたよ」


 そいつは硬貨が落ちるの音を聞いて、光よりも早く到着して、ご丁寧に落とした銀を拾って渡してくれた。


 そうだろう、これから全部頂くんだから返しても問題ないよな。


「ああ、ありがとう、お礼にパンでも奢るよ」


 何か具が入った総菜パンを二つ買って片方を渡す、まだ毒を入れたりはしない、痺れ薬で嵌めたりもしない。


 これからはもっと、背骨の上から下まで痺れるような、脳天まで電気が走るような凄い殺しをさせてやる。


 偉い貴族とかヤクザの頭領の屋敷に忍び込んで、誰にも見つからないで大金を盗んで、ターゲットだけを始末して、番犬にすら気付かれないで帰って来る。


 或いは敵の護衛に中に少数だけいる、腕が立つアサシンやニンジャと大立ち回り。屋根を踏んでも音一つ立てないで、吹き矢や暗器で殺し合う。


 百人の護衛がいる屋敷で、全員を痺れ薬で黙らせ、孫だけを誘拐して連れて来る。


 お前にならそれができる、こんなケチな町でスリやコソ泥やってる場合じゃない。



「姉ちゃん、吟遊詩人なのか? それ儲かるの?」


「ああ、喉と歌次第だ、ちょっと歌ってやろう」


 背負っていた弦楽器を用意してやり、わざわざ隙を作ってやったが、今ではないと確信したのか手出しして来なかった。


 歌でも聞いてから、いつでも盗み出せると思ったのだろうか?


 少し調律でもする振りをして声も出して客を集めてみる。拡声のネックレスの魔道具もあるので、少し広範囲に聞かせてやろう。


「白き~百合の~花~、その御使いこそエト、ワ~ル~、暖かな光~差すように~、たおやかな風が~民人を癒す~」


 一曲歌い終わる頃には人だかりができて、亡くなったとされるエトワール様を忍んで泣いている叔母さんもいた。


 お捻りが飛んできて、他のスラムの子供が拾い集めて来る振りをして盗んで行くが、少しは胴元?にも置いて行ってくれる。


「どうだい? 結構儲かるだろう?」


「ああ、スゲエや」


 貧しい子で、一緒に侵入してきた仲間が、金を持ち逃げしても咎めずに放置したのが効いたのか、少しは歌に感動してくれたのか、ちょっと涙目で見上げる。


 もうニ、三曲歌ってやり、お捻りは全部スラムの子が持って行ったが、観客を魅了してやってから本業?も始めてやる。



「さあ、今日は大サービスだ、聖女の魔法で治療してやるよっ、そうだなあ、一回銅貨十枚で、何でも治療してやるよっ」


 そんな値段では、この街の修道士会か修道女会がやって来て、すぐに中止させられるレベルだけど、怪我した子供でも払える。


「そんな値段でいいのか?」


「ああ、今日は気分がいいや、エリアヒール」


 曲を聞いていた周囲の者達の怪我や病気が治り、歓声が上がった。


「ああーーーっ?」


「せ、聖女様だっ、徳の高い聖女様だようっ」


 病気の家族でも抱えているのか、見ていた子供が目の色を変えて走って行った。


 魔法が使えなかった暗部の修道女としては、一回「今日は俺の奢りだ」をやってみたかったのもあるが、クソガキを沼に嵌めるのに、吟遊詩人と聖女の両方の儲かりそうな商売を見せてやった。


 ここまで出来る奴がいるとしたら、魔国の間者か王都の隠密ぐらいだが、街の者は気付かないらしい。


「ああ…… 最近は、ぶらりと街に聖女様や聖騎士様が現れて、悪者を討ってくれたり、村ごと病に侵された所でも治療してくれて、魔獣や盗賊まで退治してくれるって言うじゃないか、きっとその聖女様だ」


「みんな新聖女様の所で力を与えられて、地方を巡礼なさっているって話だよ」


 先代のエトワール様の時もやったが、神聖化作業やら神格化が必要になるが、今の新聖女様はその必要すら無いぐらい有能だ。


「王都で魔王の死骸が浄化されたり、伏魔殿の悪魔も新聖女様が退治したって噂だよ」


「新王だって新聖女様に浄化されて、心を入れ替えたそうだ」


 人が集まればエリアヒール、重傷者がいればエクスヒール。先程の子供も親を連れて来て治療終了。


 クソガキの窃盗団もガッツリ沼に嵌めてやったので、半分白目剥いて大口開いたままガクガク震えていて、何人か瞳孔開いてしまって完堕ち。


「誰かメリダとアイナ連れてこいっ、それとニンナのおふくろもっ」


 定番の病気の仲間か、母親の病人もいるらしい、暫く治療でも続けて待つか、動けないならこちらから行ってやろう。


「暗黒騎士様も、盗賊団と結託した門番とか衛兵、やくざ者やら悪徳領主まで退治してくれているそうだぞ」


「馬鹿領主を倒した聖騎士様もいる、どうも領主は魔物に食われていて、一揆を起こした奴らも無罪になったとか」


 ちょっとデイジー様の「研修制度」が行き過ぎているようで、救いの手も行き届き過ぎのような気もする。


「どうだ、こっちも結構儲かるだろう?」


「あ、ああ……」


 誰かが置いた箱に、治療を受けた代金に銅貨十枚入れて行ってくれる。


 寄進のためか、もっと突っ込んでいってくれる善人もいるが、銀貨が入ると正気に戻ったスラムの子が盗んで行く。


「どこ持って行くんだいっ、それは聖女様のだよっ」


 追い掛けてくれる叔母さんもいるが、これはあの子らの取り分だ。


「孤児院に来れば、もっと色々教えてやるぞ? スリやコソ泥なんか向いてないのもいるだろう? 親に言って荷物纏めて来い」


「うん」


 数人が駆けて行って、もうすぐ本命も落ちると思ったけど、邪魔者が来た。



「やいやいやい、一体誰の許可取ってここでシノいでやがんだ? 俺達に何の挨拶も無しに商売しようとは太え奴だ」


「そんな、ここは聖女様が小銭で治療院を開いて下さ……」


「やかましいわっ、俺らのシマで好き勝手出来ると思うなよっ、みかじめ料収めないで商売できるわけがないだろうがっ、誰が守ってやってると思ってるんだ?」


「やあ、兄さん、そこにあるのが今日の稼ぎだよ、全部持って行きな」


 銅貨ばかり残っている箱を蹴ると、馬鹿が怒り心頭で掴みかかって来た。


「馬鹿野郎っ、こんな小銭で治療するマヌケがどこの世界にいるってんだ?」


「ここにいるよ、一回どんな治療でも銅貨十枚だ、金持ちが寄進してくれた銀貨は、そこらの子供が持って行ったよ」


「ふざけんなっ、この唐変木っ」


 本格的に殴りかかって来たので頭を掴んでやって、脳の中にいる虫を追い払う。


「ダムスタン」


 キツ目のスタンを掛けてやると、阿呆の兄さんは片耳から血を噴出して、中から虫が大勢出て来た。


「キーー、キーー」


「キャーーー、頭の中から虫がっ」


「エリアサンダーブラスト」


 逃げ出した虫を正確に焼いて、神の雷は消えて行った。


 阿呆の兄さんは、支配者で操り糸の持ち主を失い、地面に倒れて死のダンスを踊り続け、呼吸を司る場所まで壊れて動かなくなった。



「さあて御立合い、これよりお見せしますは、かのエトワール様しか使えなかったと言われる、人体蘇生の呪文であります。この死んだヤクザ者が見事生き返りましたら、ご喝采くださいっ、死者蘇生っ」


 新聖女様方のように天使は降りて来なかったが、黄金の風が吹いて光が差し、呼吸の仕方も忘れて死んだ、赤紫の顔色をしていた死体は、頬に赤みが差す好男子として生き返った。


「な、何だ? 何が起った?」


「あんたは王太子が放った虫に脳を食われて、金集めに操られてたんだよ」


「なっ?」


 操られていた間の記憶はあるようで、青くなったり赤くなったり忙しい男。


 生き返った本人よりも。周囲の方が危ない雰囲気になって行き、前列の連中から順番に膝を折って五体投地して土下座開始。


「我が心は天と共にありっ、神を恐れ敬う者なりっ、この身は神の遣いに従いっ、精霊を敬い御心に従順なる僕しもべたらんっ(ループ)」


 この地にエトワール様がやって来たと思っている。これが騙しの奇術と思わないのだろうか?


「姐さんっ、助けて頂いてありがとうございやしたっ、あっしを舎弟にして下せえ」


 こいつも観客と一緒に土下座して、仲間にして欲しがっている。


「この俺っちは、決してお天道様を拝めねえ忘八もんでさあ、それでも、男一生一度のお願いを聞いちゃあくれやせんでしょうか? 俺と同じで兄貴や親分まで、同じ虫にやられちまってるはずでさあ、どうか俺っちの命に免じて、大恩ある親分さん方を救ってくだせえ」


 三下やくざの泣き売に釣られ、こちらも治療してやる事にする。今までの稼ぎ全部捨てても、親分が一人で払ってくれるだろう。


「ああ、そうしよう」


 そこで仁義も恩義も感じず、私を捕らえて聖女の奴隷としてこき使おうとするなら、一人残らずあの世行き。


 虫に食われた者は、下部組織にも虫を植え付けて支配して増えて行く。


 頭脳である王太子が一旦死んで、新たに造り直されたので虫への指示が消えたが、こいつらは集金を止めないで、市民が商売にならないぐらいのみかじめ料を取る。



「メリダとアイナ連れて来たっ、でもニンナの親は門を通してくれねえっ」


「くそっ、聖女の治療があんのに、スラムの奴は通さねえってか」


「鑑札が無いと通れねえ」


 小さい子は壁の穴通してでも入れたみたいだが、大人の母親は壁の上まで持ち上げられないようだ。


 重い腰を上げて歩き出し、小銭が入った箱は置いて行く。


「エクスヒール、エクスヒール」


「ああっ、二人とも治ったっ、ありがてえ、ありがてえ」


「兄ちゃん…… うち助かったん?」


 定番の治療クエストを終えて門に行く、拝んでくれる市民もいたので、中々気分がいい物だ。


 今までも聖女職の者はこれが出来たんだな…… いや、救命室で救えないで死なせて、白魔法も尽きて泣いてるのが普通だった。


「姐さんっ、そっちじゃねえ、こっちだ」


「まずスラムも救ってからだ」


 市場から近い門で、入れろ入れないの問答をしているのがいたので、問答無用でエクスヒール。


「ああっ、母ちゃんも治った」


「エリアヒール」


 スラムから来た街に入れない住人も纏めて治療。治らなかった者にはエクスヒール。


「ドブ板街の連中に声かけて来いっ、病気のもんだけでも外に出せっ」


 もう泣いてるクソガキ共が案内してくれて、走って行って病人を集めた所でエリアヒール。


 聖者の行進と言った所か? 新聖女様達が王都で初めてこれをやった時は泣いたな。


 でも聖女がどれだけ力を使ったとしても、空腹と栄養失調は治せない。


 ある程度歩くと食べられる魔物を置いてやり、住民達が争うように切り分けて持ち帰って、乾燥させた馬糞や牛糞人糞を燃料に直火で焼いて食べる。


 ここでも竜国から来たドラゴニュートの警備員が、成人している動ける者働ける者を、全員魔の森に連れて行ってしまい、町の汚れ仕事を請け負っていた連中が消えたので、現金収入がない家族が大半。



 そのまま南門や東門を回って一周した辺りで、宝石の原石も完堕ちしたようで、泣いて感謝してくれた。


「あ、ありがとう、グスッ、ありがとう姉ちゃん、スラムの奴にまで治療と食い物まで、ヒック」


「どうだ? 孤児院に来ればお前にもできるようになる、他の者も才能が有れば何にだってなれる」


「ほんと?」


 そこでまた騒ぎが起こった。


「スタンピートだっ、森から魔物が来てるっ」


 こちらは別動隊の仕込みで、魔の森の入り口近くから、適当な魔物や魔獣を百匹ほど送り込んでくれた。


「お前は今まで治療魔法が使えたら、攻撃魔法が使えたらと思ったことはあるか? 私はある」


 仲間が死にかけている時、自分が聖女だったならと何度も思った。


 追手に囲まれた時に、逃げながら一人づつ始末するのではなく、攻撃魔法で纏めて倒せたなら、何度思った事だろうか?


 粗末なナイフや鉄の剣で、歯噛みしながら戦って戦って、戦い抜いて生き残った。


 他の不運な者や、生を諦めた物は皆死んだ。


「あるっ、仲間を助けられなかった、敵を倒せなかった」


「そうか、なら見ておけっ、今のお前は私と同じパーティーメンバーだ」


 そう指定しておくと、今から倒す魔物魔獣の経験値は案分される。


 遠くから魔物と魔獣の混成部隊が迫って来る、町の者は城外から中に入って城門を閉めた。


「ああ、折角治療してもらったのに、魔物が来るなんて」


「もう終わりだ……」


 スラムの者は町に入れないので、外にいる者は生きることを諦めた。


「今の命を諦めるな、戦えっ、コキュートスアイシングッ」


 地獄の氷で固めてやると、弱い魔物は全部死んだ。


 それでも属性違いやレジストできた強者が駆け抜けて来る。


「エリアサンダーブラスト」


 神経を焼き切られた者はその場で倒れ、双方の魔法を耐えた者が来る。


「金属リザード…… あんなもん魔法も効かないっ」


 結構な強さの冒険者でも倒せない魔獣。鉄の刀もミスリルでも文字通り歯が立たず通用しない。


 私が忍者頭ではなく、侍大将になった理由はこれだ。孤児達を率いる力だけではなく、全てを断ち切る刃(やいば)が欲しかったからだ。


「生きることは戦いだっ、全ての理不尽や不当な力を断ち切る剣技を見せてやる。お前の人生も切り裂いてみろっ」


 鞘の中にある太刀は生きていて、抜いてしまった太刀は死んでいる。後の先ではなく先の先で斬る。


「一の火太刀、次元刀っ!」


 最高速で接近し、相手の勢いをも利用して、真正面から切り伏せる。


「ガアアアアアッ!」


 炎のブレスを吐いた敵だが、その程度では小さな火傷すら負わない。


「一刀両断っ!」


 牛魔王も使ったと言われる、空間そのものを切り裂く剣技スキル。


 ミスリルリザードは正中線から真っ二つになって倒れた。


 獲物は鉄の剣でもミスリルでも斬れるが、やはり竜の鱗の剣ならば、人の意志が刃先まで込められるので切れ味が違う。



「ね、姉ちゃん……」


 クソガキの所に戻ると、涙もよだれも鼻水も垂らし、ガクガク震えながら私の手を取った。


 みやがれ、ガッツリ沼に嵌めてやったぞ。


 見る見るレベルが上がって、宝石の原石が宝石になって行く。


「まだやる事はある、電撃で動けない暴れる魔獣を斬れ。この刀をやる」


 鉄剣だが攻撃力十倍の剣、非破壊属性で多少手荒に扱っても折れない壊れない。


「あ、ああ……」


 宝物でも拝領するように、反りがある片刃の剣を受け取り、指示通り暴れる魔獣を斬って行き、さらにレベルが上がる。


「アイテムボックスは出来たか? 入るだけ詰めてギルドに売りに行け、それが支度金だ」


「はい」


 家族がいるなら金でも残し、弟妹がいるなら孤児院に連れて行く。これだけの奴の親なら孤児の世話にでも雇える。


「年は幾つだ? まだ成人してないな」


「13です」


 新聖女様と同じぐらいか? ギルド登録はできないが、私でもついて行けば魔獣は売れる。


 金属リザードも収納し、氷漬けのザコも入れておく。


「これでもう、お前はスリでもコソ泥でもない。冒険者として生きて行くこともできて、孤児院村に行けばもっと強くしてやる。弟妹がいるなら一緒に鍛えてやれる」


 デイジー様から預かった、様々な育成強化魔道具がある、才能がある者は全員連れて行く。



 クソガキたちの一団は、別動隊に引き渡して孤児院村に送る。何か別の才能でもあれば良いが、もう盗みをする必要などない。


 町に戻りギルドで魔物魔獣を売り、真っ二つのミスリルリザードを素材に出してやると、流石の冒険者たちも鑑定者も腰を抜かしていた。


 スタンピート解決の緊急クエストの報酬まで貰うのは、マッチポンプなので気が引けたが、全部宝石の少年にやった。


 他の者と手分けして、王太子の虫に食われた連中を治すか、抵抗したり復活させる程の価値が無い者は新入りの訓練として始末させ、舎弟?に依頼された親分や兄貴達も治してやる。


 義理人情には篤い親分だったのか、今までの市民への非礼を詫びられ、みかじめ料は返還してくれるらしい。


「この度は組一同大変お世話になりやした、この御恩は必ずお返し致しやす。まずはつまらんもんですがお納めください」


「ああ、ありがとう」


 金貨など見た事がない、宝石になった少年に全部くれてやる。


「姐さん、気風がいいなあ、全部小僧に渡さないでも」


 自分も受け取りたかったようなので、多少分配してやる。


「親分、兄貴、俺はこの姐さんに一生ついて行くと決めたんだ、どうか旅人(たびにん)として組を抜けるのを許して下せえ」


 土下座して不義理を詫びる阿呆だが、親分は笑って送り出してくれた。


「いいなあ、俺もこの姉さんに惚れちまった。一緒に行きてえ所だが、組や街を残して行けねえ。俺に代わってしっかり奉公するんだぞ」


「ありがとうごぜえやす」


「お前みたいな三下だったら、逆に面倒掛けるんじゃねえか?」


「はははっ」


 余計な同行者が増えたが、こちらの系統に就職する孤児も多いだろう。


 親分さんにもまた世話になることもある。いい伝手ができた程度に思っておこう。


「ところで姉さん、そこまでの腕前、どの筋のもんなんで?」


「修道女会です」


「ああ、得心がいった。今は飛ぶ鳥を落とす勢いの団体だ、こりゃあ参った」


 手を叩いて頭を撫でながら下げた親分さん。まあ、神聖騎士まで出して、各国の王が諸侯になるんだから勝ったも同然。


 修道院長に元王妃に第五王女、他の噂の聖騎士達、まだ何人か神聖騎士が出るだろう。


 それに元不死王の暗黒騎士まで数人、もし邪神騎士など出ようものなら、世界全部が新聖女様の物だ。


 ああ、私も邪神騎士候補だった。王家だとか役人を挫き、スラムのクソガキやヤクザの親分や組員を救う者。



 組長の親分にご挨拶して連絡先なども交換し、町を離れる時には、市民が祈りながら笑顔で送り出してくれた。


「さあ、行こうか」


「へい、姐さん」


「はい」


 すっかり男の顔になった宝石は、手荷物だけを持って同行した。一匹余分な者も来たが、親分との伝手だと思って連れて行く。


「ああ~、新たなる御使い様よ~、二人の光る翼が羽ばたく時、王城の衛兵も道を開き~、捕らわれの者達も救い出され、苦渋の塔の住人さえ光ある場所へ~、魔王の亡骸ですら浄化され~」


 私達はハーメルの笛吹の物語のように、子供達を大勢連れ去った。

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