第6話エトワールよ永遠に
地下通路
イケリアが毒殺された。正確には、私が白魔法が使えるようになった時、契約により毒を食って、私を苦しませるために目の前で自殺させられた。
「行こうか、イケリア。修道士会か修道女会なら、死者蘇生とか、毒を消して生き返らせられる術者がいるはずだ」
腐った毒入りプディングを払いのけて、台車にイケリアを乗せて出発する。
「ホワイト…… ブラスト」
鉄の柵の向こうで慌てていた奴らを、白い炎が踊り狂って焼き尽くし、鉄柵も吹き飛ばして一階まで炎が駆け上る。
地下牢と一階の住人を全員焼き殺した後で、窓から爆風が噴き出してからようやく収まった。
「柔らかな光の中~、天使~は舞い降りる~よ~~、御使いの優しき手が~、人々の行方を照~らす~」
無表情で涙を流して、低く小さい声で歌いながら、少しづつ前進。
台車は階段を登れないので、左手側にイケリアを抱え上げて、肩を貸すようにして運搬する。
術者本人周辺には結界が作成されるので、自分で唱えた破壊魔法でも燃え尽きない。
防御結界が展開されているので、敵方の攻撃魔法からも守られる。
一般人で衛兵を殺したので、契約紋で奴隷的従属も約束した契約が、ギアスで私を殺そうとしてきたが、呪い如きで死にはしないし、そんなもんすぐに破棄してやる。
「ホーリーカースエクスキューション」
本来、奴隷契約とか不当な契約を破棄したり排除する呪文だが、レベル99もあったら王妃との契約であろうが、王宮の魔法士仲介の契約でも楽々排除。
どいつもこいつも、この契約以降は私を安全な化け物だと思い込んでただろう?
「ああ~、ま白き光よ~、我らを誘(いざな)い給え~、この救い無き闇の中を~、道なき道を~」
「エクスプロージョンッ」
「耐火(レジスト)っ、霧散せよっ、怒りの炎っ!」
死にそうな声出して、侯爵家お抱えの魔法士が決死の呪文を唱えたが、第五階梯魔法なんぞ簡単にレジストして消滅。
屋敷の中でぶっ放す呪文じゃないだろう? ああ? ホワイトブラストの方が酷いって? 屋敷吹き飛ばないよう手加減してやってるだろうが。
「神々の~、導き~により~、正しき道を往かん~、穢れなき浄土へ~、王道楽土(ユートピア)へと至らん~」
「逃げろっ、ノーライフキングになんか、敵う訳ねえっ」
「逃がさんっ、全員皆殺しだっ、エリアサンダーブラストッ、ホワイトブラストッ」
二階にいた住人も白い炎と雷で焼き尽くして、扉を全て突き破って窓から炎が噴き出し、炎が三階への階段を駆け上り、クソ親父他、上の住人の脱出を諦めさせ、やっと威力が収まった。
「ホワイトブラストッ、エリアサンダーブラストッ」
三階でもぶっ放してやって、三階から上、屋根裏部屋まで吹き飛ばして、生き残りには追跡型の雷撃呪文で神経焼き切って歩行不能にしてやる。
クソ親父の執務室に行って、扉を蹴り破って侵入。
「はは、クソ親父、挨拶に来てやったぞっ、イケリアとの契約書を出せっ、もし私が白魔法使えるようになったら、私の目の前で自殺するよう契約しやがったんだろう? どうしたあああっ! 怯えてないで掛かって来いやあああっ!」
部屋中帯電して、手足の神経焼き切られた親父は、泣きながら窓から飛び降りてでも逃げようとして藻掻いていた。
「しらん、やってない、わしじゃない」
「ホワイトサンダー」
軽い電撃でタップリ踊らせてやり、思い知らせてやる。
「どうだ、無能じゃなくなった実の娘の白魔法の味はっ?」
「ひいっ、どうして魔術回路が壊れたお前に魔法が?」
「スキルが完全修復になってなあ、魔術回路が造りなおされたんだ」
「あああっ」
この世の終わりのような顔をして、ベランダに出ようと必死なクソ親父。
「たあああっ!」
そこでシャンデリアの上にいた奴が、部屋の真ん中に移動した私目掛けて、残った手足で飛び降りて来て、左の脇腹を刃物で刺した。
「父の仇っ、幼馴染と言えども許さんっ!」
おお、死んだ家令の息子で「おにいちゃん」だった。
「やあ、憧れの兄ちゃんじゃないか? お前がイケリアに自殺するような契約させて、私に復讐しようとしたな?」
その怒りの表情から、苦しみと呪いの炎が見えた。犯人はコイツだ。
「永劫の呪いの炎よ、おにいちゃんを地獄へ」
イケリアを肩から落としてしまったが、笑顔で呪いを放ってやると、憧れのお兄ちゃんで初恋の人は、永劫の地獄の炎で焼かれる対象になった。
「ぐあああああああああああああああああああああっ!」
「フンッ、聖別した刃物か、私には効かんっ」
結構効いてるし、毒もあって呪いまで付いてるけど死ねない。まあそれだけ恨んでたんだよなあ?
「そ、その呪文は? 悪魔の呪い。聖職者なら、白魔法師には絶対に取得できない悪魔の呪文っ」
「ああ、クソババアも地下牢で燃えて、未来永劫浄化の炎に焼かれて踊り続けて、泣き叫ぶようにしてある、お前も同じにしてやる」
「それだけは、それだけは許してくれっ」
どうにかベランダから飛び降りて自殺しようとした親父だが、足が動かないので失敗。情け容赦なく燃やしてやる。
「永劫の呪いの炎よ、クソ親父を地獄へ」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!!」
今度こそ耐火不能なので燃え上ったクソ親父。永遠に死なせん。
「私が死ぬ時にだけ、怒りが収まっていたら燃え尽きるのを許可してやる。何年かしたら、休憩入れて話し合おうか? その時まで正気保っとけや」
「あああっ、うわあああああああああああああああっ!!!」
契約書類が入っていると思われる金庫を破壊して、中身を掴みだして新しくできたアイテムボックスに入れていく。
魔獣が踏んでも壊れないはずの金庫だが、私が蹴って歪めて、扉を投げたら壊れた。
ついでに金とか権利証とかも詰めて、頂ける物は全部頂いておく。
「があああああああああっ!」
まだ死んでなかったから、鋼の精神と恨みで襲い掛かって来たおにいちゃん、それだけ恨んでるんだよな。
私に抱き着いて来ても、イケリア焼こうとしても死体は燃えないよ。
「家令も兄ちゃんも、地獄の底から助けようとする「振り」だけでいいからやってくれりゃあ良かったのにな、まあこれからは、出来るだけ苦しんでから死んでくれ、ぎゃははははは」
私に大切な者を作って、その後から死なせる。結構効いたよおにいちゃん。
「レベル上がったら家令のジジイも墓から甦らせて、もっかいこの屋敷の中で踊り狂わせてやるっ、お前の隣でなあっ! 死ねっ!」
もう一回イケリアの死体を担いで屋敷を出る。
「永劫の呪いの炎よ、ハリオデト侯爵家を地獄へ」
屋敷を出た所で、家その物を浄化の炎で焼いて、出入りできないようにする。
耐火装備で入り口まで入れても、奥の方や二階までは上がれない。
一応泥棒対策もいるから、封印もしておくか?
「白き幻影よ、この世と常世を分けよ、次元断層」
もうこれで、この場所には誰も入れない、私だけが「家族との語らい」に戻れる。
さあ、どちらに行こう? 修道士会? 聖騎士の叔父さんに合わせる顔も無いし、修道女会にしようか。
雪がちらつく中を、裸足で死体担いで歩く女。背中に背負った子は全身紫色だ。
凄い不審者だが、生誕祭だから許されたのか、修道女会までとぼとぼと進む。
「よお、姉ちゃん、もっと楽しい事しようぜっ、俺が二人共タップリ楽しませてやるぜ、ぎゃははっ」
「死ね」
臭いおっさんは浄化の炎で燃え上がった。聖騎士の叔父さんからの禁止? もういい、何なら王都全部焼いてやる。
私は人類の敵、アンデッドを取り纏めるノーライフキング、もう誰の言葉も愛も届かない。
「野郎っ、何しやがった? 俺の兄弟をっ、ぎゃあああああっ!」
「暖かな光の元~、天使~は羽ばたくよ~~、御使いの美しき翼が~、民人の足元を照らす~」
腐ったやくざ者はみんな燃えて、助けようとした者も燃えた。
追い掛けたりすると死ぬ案件なので、誰も追い縋ったりはしなかった。
やがて修道女会が見えて来て、初めて王都の街中を歩く長い旅も終わろうとした。
イケリアが助からなければ、ホーリームーンライトで王都全員塩の柱だ。
「ああ~、眩き光よ~、迷える子を贖い給え~、この赦し無き暗闇で~、果てなき道を~」
王都を消し終わったら次の都市だ、魔の森には行かないで、世界を回って悪しき者を消す旅を始めよう。
修道女会治療院
「どうしたのですっ? 患者さんですかっ? 御病気ですかっ?」
異様な雰囲気に気付いて、夜なのに聖女見習いが駆けつけてくれた。
「この子が毒で殺されました、エターナルキュアもリザレクションも効きません、どうかお救いを」
「ああっ、何てこと」
「可愛そうに、まだ若いのに」
「リザレクションですって? エターナルキュア?」
聖女らしき高位の者も出て来てくれたが、治せると言う者はいない。
「ごめんなさい、治療院にも奥の院にも、ここまで毒が回ってしまった人を救える聖女はいないの」
「じゃあ、修道士会に」
もう一度歩いて行こうと、イケリアを背負って歩き出す。
「向こうでも同じよ、聖女も聖人も神じゃない、もうこの子はゆっくりと眠らせて上げましょう。貴方も裸足じゃないの、さあ、治療院の中に」
ああ、もう駄目なんだ、誰もイケリアを救えない。まずはホーリームーンライトか?
「畜生っ! ふざけんなっ、これが神の行いかっ? ここまで人を苦しめるのが神の意志なのかよっ! みんな死んじまえっ、地獄に堕ちろっ、クソ野郎どもっ!」
呪文を唱える前に、神への呪詛を言葉にすると、スキルの神聖結界が拡張した。
夜の闇の中で結界が光り、王都を超えてスラムまで至って、大勢のヴァンパイヤや人狼、アンデッドや怨霊幽霊の類、あらゆる病害虫が下水道や屋敷や家、バラックの中で消し飛んで行った。
「ああっ、こんな…… なんて凄い法力」
「王都が全部包まれて、悪しき者が消え去って行く」
「伝説の大結界、おお、神よ……」
(レベルが上がりました、人生ハーデストモードクリアの実績により、死者蘇生の呪文を取得しました)
何故こうなる? 神を罵って蔑み、呪いの言葉を言うと願いが叶うのか? これがこの世界、悪魔が支配して人間の苦痛を収穫して、あらゆる喜びを全て潰すのが神と呼ばれる悪魔。
「死者蘇生」
イケリアの死体が薄れて行き、新しい体が作られるようにして出現する。
以前の服を着たまま、別のイケリアと思われる物体が現われた。魂と霊体は移転したので同じ存在なのだろうか?
「あ? お嬢様?」
「イケリアっ、イケリアアアッ!」
別の存在でも、もうそんなことはどうでも良い、彼女は生きていて私を覚えていてくれて、話をしてくれて何もできない私の面倒を見てくれるのだから。
「ああっ、大結界に続いて伝説の死者蘇生呪文までっ」
「ほんの少しの時間で二つの奇跡をっ」
「大聖女様が光臨なされたっ、誰か修道院長様までお知らせをっ」
それから私達は奥の院に連れて行かれ、王都に大結界を張った功績と、人体蘇生を行った奇跡により、後日聖女の第一等級、大聖女として任命戴冠させられた。
奥の院では贅沢では無かったが温かい食事も与えられ、体を温めるために風呂にも入れた。
身元を尋ねられたが「知らない」「覚えていない」で通し、イケリアと言う友達の名前だけを知っていると答えた。
道中で燃えて死んだ者が出たが、教会側でも隠蔽してくれて、そんなクズはいなかったことになった。
偶然同じ日にハリオデト侯爵家が全焼して、一人残らず死んだことになり、件(くだん)のアンデッドも燃え尽きて死んだと発表された。
屋敷は今も燃え続けていて、中からは多くの人が泣き叫ぶ悲鳴が続いていると言う。
王妃様から拝領した魔道具も燃えたので、修道女会の政治力により、侯爵家の私は死んだことになったが、後日王宮に呼び出され、王妃様や王家の一同に挨拶させられることとなった。
王宮奥の院
聖女の法衣を着て、帽子の前から御簾のような物を垂らし、顔が見えないようにしていたが、王の前では着帽など許されず、素顔を隠す御簾も取ることになった。
「王の御前である、脱帽せよ、新聖女」
脱帽しても顔は手で隠し続ける。
「顔を上げよ、面相を晒すのだ」
近衛兵が偉そうに命じるが、顔を晒すと王妃にバレてしまう。
「御人払いを、天然痘により顔が荒れ、醜くなっております。ご気分を害されると思われますので、面相を改められましたら、視線はお外しになられるのをお勧めいたします」
「うむ、皆の者、後ろを向け」
「はっ」
顔を隠す手も外す、そこまで醜い顔では無かったが、怒りや呪いによって顔が歪み、以前のような顔でも無かった。
「む? 大して痘瘡の跡も無いではないか、気にし過ぎじゃ、良い医者など手配してやろう」
「は、ありがとうございます」
当然、王妃にはバレてしまい、メル友が生きていたのを知られた。
「やはり生きていたのだな…… 其方が死んだなど信じていなかったが、今の身分が意外過ぎて驚いた。白魔法が使えるようになったか」
「はい、自動修復スキルが完全修復になり、魔術回路まで回復致しました。詳しくは後日」
茶会などで話し合って以降、王妃の尽力で全ての痕跡が消され、悪魔のようだったアンデッドで侯爵家の娘はこの世から消された。
各種同盟を結んだ私達は、修道女会の暗部も使い、あらゆる敵を排除して、どんな防御結界を持つ者であろうとも白い炎で焼き、娘や孫と言った家族の救いを求めたはずの大聖女に殺された。
二人三脚で王家や王宮を支配し「伏魔殿の悪魔達」として政敵を排除して来た。
近隣国からの干渉も排除して、不安定化工作から小規模なテロ、消えない白い炎が爆発的に広がる爆弾、金融破壊工作など、あらゆる手段で対抗した。
王国国境付近軍令部
少しやり過ぎたようで、この国を本格的に滅ぼすために、近隣国が集まって侵攻して来た。
その数七万。王国側はかき集めても一万が良い所。
「この国の存亡は其方の肩に掛かっておる。既に騎士同士での一騎打ち、力士での相撲対戦、全て我が方が破れた」
選ばれた者達でほんの数勝しても、優秀な騎士と力士を多く抱えた方が勝利する。
「普通なら陣を引いて城砦を譲って下がらねばならん、しかしそれはできぬ相談だ」
「分かっております」
「さあ、大聖女エトワールよ、我が国を救い、その大きな力で敵を滅ぼすのだ、往けっ!」
「イエス、マム」
私は迎えに来た四頭立ての馬が引く、大型のチャリオッツに乗って出陣した。
まるで平和の使者の如く、大勢の護衛も付けずに走り出す。
このままなら次の都市も王都も、略奪され大半の者が殺され、女は全員犯されるか、連れ帰られて性奴隷。
逆らわずに震えて降伏し、生き残った者は奴隷としての生活が始まる。
既に東の砦の者は襲撃された時に皆殺しにされたと言う。
「神の意志を纏い~、御使いの心に従う~、我ら聖騎士団~、御旗の元に集~う~」
「大聖女様、聖騎士団の隊歌をご存じで?」
「ええ、一時保護して貰ったことがありまして」
「そうでしたか、私も知人がおります。一時と言え、エトワール様を保護できたとは鼻が高い」
「聖騎士団にも神のお恵みを」
王都や他の街に張った神聖結界で、悪人は追放できて国の中は綺麗になった。
今から敵方も善人を残して、他は皆殺しにしてしまおう。
あの聖騎士の叔父さんや、甥たちを育てた飼育員のような人を除いて。
七割は殺し尽くせるだろうか?
叔父さんには私が生きていることは伝えていないが、今日はあの叔父さんや、その家族のために戦おう。
今後も善良な人が根絶やしにされないように。
「聞けっ! これより大聖女による浄化の大魔法を行使するっ!」
「今なら逃げ帰るのを許可するっ、残って戦おうとする者には容赦せぬっ、皆塩の柱となって消え去るのだっ!」
翻訳の魔法や、大音量での伝達の魔法が使われたが、敵軍では笑い声が起こり、誰も逃げようとはしなかった。
「馬鹿か? 絵物語の中にしか存在しない呪文など、あってたまるものか」
「阿呆がっ、そんなハッタリ信じる奴いるのかよっ」
「お前達を消して皆殺しにしてやるっ」
さあ行こう、今日は飼育員の叔父さんに、丁寧に人として育て上げられた、愛や家族や正義を信じる甥が二人も参戦している。
彼らならこの浄化の炎の中でも平気だろう。
こちら側には正義も愛も真実も何もない。悪逆不遜な伏魔殿の悪魔が、周辺国によって正されている所だ。
それでも私が振るう錫杖の中には、何故か真実と正義が存在する。
「ホーリーサンライト」
太陽の光が敵軍に集中し始め、愚かで穢れた者達が、全て塩の柱へと変貌して行った。
この世を支配している悪魔達よ、私にこの力を行使させてくれることには感謝をしよう。
でも私はお前など決して信じはしない、この世が終わる時まで神を名乗るお前を呪い続ける。
竜の花嫁スピンオフ、聖女エトワール生誕秘話 @piyopopo2022
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