第42話マルフード領内㉝異変の始まり

「お待たせ致しました。ウォータードラゴンのフルコースでございます。」


次々と料理が運ばれてくる。ウォータードラゴンには魚介類が合うようだ。甲殻類から出汁をとったスープやでかいエビの蒸し焼き、貝のバター焼きなど1つ1つの量は多くないが沢山の品数が運ばれてくる。

最後に鉄板にジュージュー音を立てながら運ばれてきたのがウォータードラゴンの肉だ。油でつやつやとコーティングされた肉だ。ナイフで切ったはずなのに感覚がなかった。口の中に放り込むとジュワッと油が出てきて溶けた。油のはずなのにしつこくなくてサラサラだ。

あっという間食べ終わってしまった。極上の肉だったなぁ。こんなに美味いなら自分用に少しとっとけばよかった…。まぁいいかまた狩ろう。

「とっても美味しかったわね!ドラゴンのお肉ってすごいわ…。」


「そのうちまた狩ってくるよ。」


美味いものは生きがいだ。そうだこの店の向かい側に菓子屋があるんだったな。覗いていこう。


「金貨20枚でございます。」


高い!だがドラゴンにしては安いかもな。


菓子屋は外からでも甘い匂いが漂っているのがわかる。ん?なんだか見たことある奴が店の前をウロウロしてるな。

「あら!クリークさんどうしたんですか?」


「エイミーさん!はは、あ、あのですね。その、菓子を買っていこうかと思ったんですが男1人だと入りずらくて。」


「なら一緒に入りませんか?リッカがここのクッキーは美味しいって言うから気になってるんです。」


「仕方ないから一緒に入ってやるよ。」


「ほんと生意気だなお前は。もちっと可愛くしろよ。」


こいつ目はついてるのか?自分はこんなに可愛いだろう?

中は可愛らしい内装でいかにもお菓子屋さんって感じだ。時間が時間だからあまり残っていない。イチゴジャムがのったクッキー3枚、 普通のクッキー10枚を買った。金を出したのはクリークだがな。母親にいい所を見せたいようだ。母親の手とかを触ろうとしたら蹴飛ばしてやる。ここはケーキは売っていないようだ残念。いちごクッキーは1枚で銀貨8枚、普通のクッキーは1枚で銀貨5枚だ。それなりにする。やはり砂糖を使ったものは高いな。全部で金貨7枚と銀貨4枚だ。


宿に帰って早く食べたい。クリークを連れて母親と手を繋ぎながら歩いていると地面が急に揺れだした。クリークが母親と自分をしっかりと抱えて障害物の少ないところに連れていく。クリークにもバリアをはった。少しすると収まった。なんだったん

《ギャァァァァァ!!!》

耳を劈くような鳴き声が聞こえる。なんだこれはうるさい。魔物の鳴き声のように聞こえる。

「あ、あれはなんだ!」

周りの人が空を見上げる。そこにはリトルホークの無数の群れが空をおおっている。リトルホークは都市には近づいてこないのに。ここは危険だ。避難しなくては。何かが起こっている。まさか

(スタンピード)

ならどこに避難すればいいんだ。辺りは阿鼻叫喚だ。アイツらがいつ一斉に襲ってくるともしれない。

衛兵が避難指示を出し始めた。指定した建物に人々を誘導している。

「エイミーさん、リッカ!行くぞ!」


指示された建物に入る。中は人でごった返しだ。少しすると衛兵が中に転がり込んできてた。「冒険者や戦えるやつはいるか!?人手が足りないんだ!このままじゃ門が突破される!」

ざわざわと皆が皆かお合わせる。マルフードはここら辺では大きい都市だ。それなのに人手が足りないとなると…

「今回のスタンピードってかなりやばい?」


「あぁ、マルフードで人手が足りないならかなりな。A級の魔物も出てきてるかもしれない。」


クリークの顔に焦りが浮かんでいる。母親は不安な様で自分の手を力強く握っている。平民街には宿の奴らやログたちがいるだろう。(…………)

母親の手を解いて抱きつく。

「どうしたの。大丈夫よ、きっと強い人達がどうにかしてくれるわ。」

そうかもな。でもそうじゃないかもしれない。

「帰ってきたらクッキー食べようね。」

泣きそうな顔をするな。いちごクッキーまだ食べてないから大丈夫だ。

「ちょっと待て。」

クリークがマジックボックスから小瓶を取り出して渡してくる。緑に黒を混ぜたような色だ。毒か?

「上級のマナポーションだ。マナを全回復できる優れものだぞ?いいか、ヤバくなったらすぐ使え。死ぬなよ。」

頭を乱暴に撫でられる。今日は振り払わないでやるよ。

「行ってくる。」


「リッカ!必ず、必ず生きて帰ってきて!!」

絞り出すような声で告げられる。


「うん。」

「クリーク、母さんのこと守れよ。傷1つでもつけたら髪毟るぞ。」

返事は聞かない。結果で示せ。

建物から出て門に向かう。

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