第32話マルフード領内㉓

暗くなるまで適当にゴブリンを狩った。麻袋がパンパンになったかはマジックボックスに収納しておこう。そろそろオークの集落を潰しにいこうか。


身体強化と気配遮断をかける。ここ最近バリアはつけっぱなしだ。オークの集落を木の上から観察する。やはりオークがかなり増えている。宴のようなものをしているようだ。火を焚き何かを焼いている。一際大きいオークが真ん中で肉を食っている。こっちはまだ夕食を食べていないというのにいいご身分なことで。


簡素な作りの家から鎖に繋がれた人間が複数連れてこられた。服を着ていない美しい顔の男や女がいる。年齢は20代から30代くらいか。


皆虚ろな目をしている。…そういえば冊子にオークは他の生物の腹に子を産み付けるとあったな。まさか男でもいいとは思わなかったな。


オークどもがことを始めるところなど見たくない。別に助けようとは思わないがアイツらがいては邪魔だな。どうにかしてオークどもの気を逸らせないかな。

そうだ、いいことを思いついた。“風鳥”は風を全身に纏わせすさまじい速さで移動することができる魔法だ。気の葉っぱを何枚ちぎる。葉っぱに風鳥をつけるとふわふわと浮き上がる。少し操作が難しいがまぁいいか。

風鳥をつけた葉っぱを焚き火に近づける。葉っぱに火がつく。風を纏わせているのだから火がつきやすいのは当たり前だ。

火がついた葉っぱを簡素な家に近づける。小さな火がつく。家は木製だから火がつけばたちまち大きなキャンプファイヤーのいっちょあがりだ。

オーク達が火を消そうと必死になっているが水もない状態では何も出来ない。捕まっている男女は火のないところで縮こまっている。これなら邪魔にはならないだろう。

短剣を構える。狩りの始まりだ。


でかいオークの後ろ側に回るこいつはあまり慌てていないな。気配遮断をつけながら風鳥と身体強化を追加し一気にでかいオークの首を断ち切る。でかいのは気づきもしなかったな。


《ボトッ》


でかい首が落ちて血が吹き出す。オークの血のシャワーなんて浴びたくなかった…。ほかのオークが唖然としたようにしている。自分が動き出すと一斉に叫んで走りよってくる。


〈グラァァァ!!〉


うるさいな。1匹1匹確実に首を落としていく。たまに反応がいいオークがいるがそれでも自分の反応速度には対応できないようだ。50匹以上いたオークが残り6匹だ。あんなに威勢がよかったのに今では萎縮して後ずさりをしている。まぁ逃がさないがな。

全てのオークの首が落ちた。辺り一面血の海だ。収納するのが大変だね。


1匹づつ収納していく。解体するのは面倒なので全てそのまま収納する。でかいオークまでいってやっと終わった。こいつら多すぎだろ…。


もうやることは終わったから帰るか。今日はオーク肉のステーキが食べたいな。

「そこの方!お待ちください!」

捕まっていた奴らの中の一人の男がこちらに恐る恐る近づいてくる。

「助けていただきありがとうございます。」


「別に助けてない。自分はオークが欲しかっただけ。」


「それでも子の地獄から私たちを助けてくださったのはあなたですから。」


緑色の長い髪をした美しい男だ。体も程よく筋肉がついている。ん?耳の形が尖っている。もしかしてこいつらは

「エルフ?」


男の顔が強ばる。何かおかしいことを言ったか?

「確かに私たちはエルフです。売れば高値で売れるでしょうね。」

後ろの奴らがザワザワと騒ぎだした。泣き叫ぶものこちらを睨みつけるもの虚ろな目をするものなど様々だ。もしかして自分がこいつらを売り飛ばすと考えているのか。

「この国は知らないけど少なくともこの領内で人身売買は禁止だとおもうよ。」

奴隷を見たことないしね。


目の前の男が驚いた顔をする。

「ここはどこですか?」


「マルフード。」


「マルフード…リジュール国ですか。随分とおくまで来てしまったようですね。」


先程から思っていたがエルフたちが繋がれている鎖から少し違和感を感じる。領主の館でマナを吸われた時と似ている。鎖を見ているのがわかったのか男が「これが気になりますか?」と聞いてくる。


「前ある館に入った時マナを吸われたことがある。その感覚に似てるから。これなに?」


「これは魔具です。付呪士が作った忌々しいものですよ。これがある限り魔法も使えないし自死することもできません。あなたが入った館には魔具があったのでしょう。」


諦めたように言葉を吐き捨てる。魔法を使えなくさせる魔具か。かなり厄介だな。もしこれをつけられたら反撃の手段がなくなる。


「壊せないの?」


「外すにはこれの鍵が必要です。これを壊すには大量のマナを流し込む必要があります。それをできる人はなかなかいません。」


自分なら壊せるかもしれない。今後これが着けられた時のために練習しよう。男の手錠にや手を当てと男はビクリとする。マナを流し込む。スポンジに水を吸わせるようにどんどんマナが無くなっていく。


自分のマナの3分の1を使ってやっと手錠が外れた。これはやばいな。壊すのに大量のマナが必要というのは本当だな。


「て、手錠が、外れた!」


疲れた。マナを吸われるというのは気持ち悪い。


「あぁ、やっとやっと外れたっ!ありがとうございます!ありがとうございます!」


お前のためにやったんじゃない。これで魔具を壊せることがわかった。まぁ有用な情報の対価とでも思えばいいさ。


「疲れた。もう帰る。」


「お、お待ちください!図々しいお願いだとはわかっていますが他の者の手錠も壊していただけないでしょうか?」

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