第29話マルフード領内⑳

やはり目の前の女があの男の妻だった。真っ赤な長い髪を縦巻きロールにしている。ごみも真っ赤な髪をしていたな。


「言い訳にはなりますが先程のメイドのしたことはわたくしの指示ではありませんわ。」


「ここの女主人はあんたじゃないの?」


下の者がしたことは上の者の責任だ。なんと言おうと監督不行き届きであることは間違いない。


「…そうですわね。確かに私の管理不足ですわ。」


メイドに対して暴力を振るったことをせめてこない。まぁ誰も直接見てないし証拠がないから行っても無駄だ。それをわかっているからこそ何も言わないのだろう。



「先に客間に行っていますわ。わたくしのメイドを残していきます。お母様の準備ができたら来なさい。」


女はメイドをひとり取り残していった。母親の目が覚めるまで待機だ。


10分ほどして母親が目を覚ました。顔色は悪くない。メイドに客間に行くことを伝えると案内される。


「気を失ってしまってごめんね。何かあった?」


「何もなかったよ。」


余計なことは言わない。メイドが客間の扉を開ける。

あの男にソファに座るように言われる。言われなくても座る。男の隣に女が座っている。その後ろに真面目騎士とこちらを睨みつける茶髪騎士が後ろに控えている。執事らしき初老の男性も控えて控えている。


「エイミー体調はどうだい?」


「お気遣いありがとうございます。お気になさらず。」


「そ、そうかよかったよ。」


心なしか母親の声が冷たい。この状況から一つの答えにいきついたのだろう。


「話を始めますわよ。まずエイミーさんに自己紹介がまだでしたわね。わたくしはアマリア・ウォンテですわ。この人の妻です。」


「ご丁寧にありがとうございます。私はエイミーと申します。この子はリッカです。」


「えぇ、知っていますわ。」


アマリアが懐から扇子を取り出し顔のした半分を隠す。その音に隣の男がびくりを震える。


「昔話をしましょう。もちろんあなた方にも関係がある話です。10年前この土地で大雨が降ったことを知っているでしょう。あのときことマルフードという領地は甚大な被害を受けました。それこそ他の貴族に借金をしなければならないほどにね。ウォンテ家は息子との婚姻を条件にして格下の貴族からお金を得ました。その時ジェラールの婚約者になったのがわたくしです。婚約当初からエイミーさんとジェラールの関係を知っていました。わたくしと婚姻するまであなた方の関係を認めました。その3年後婚姻するときになってこの男は『婚約はなかったことにしてくれ』と言い出しましたわ。」


全く変わらない表情で紅茶を飲む。


「理由を聞くと『恋人に子供ができた。彼女は僕が領主の息子だと知らないし商家の息子どと思っている。それに僕に婚約者がいることも知らない。彼女と生きていきたい。』と言っていました。この男はあなたにもわたくしにも嘘をつきました。婚約当初に婚約者がいることを伝えるように言っていたのにも関わらずね。でも気づきましたの、エイミーさんが知らないなら都合がいいことに。だから商家のジェラールは死んだことにしました。今後あなた方に関わらないことを条件に子供が産まれることも危害を加えないも約束しました。でも最近になってある子供の報告が耳に入るようになりました。子供とは思えないほどのマナを持っている可能性があると。名前や家族構成を調べるとあなた方だとすぐにわかりましたわ。そしたらこの男はあなた方を保護したいと言い出しましたわ。」


「これ以上約束が軽んじられるのはわけにはまいりません。わたくしはあなた方の保護を許すつもりはありません。だからこれ以上おたがいに深く関わらないことを魔法契約書にサインしてください。」


「アマリア!彼女たちは今家もない状態なんだぞ!今まで何の援助もできなかったんだ、これから少しくらいいいだろう!」


その言葉を無視するように初老の執事が机に紙をすべらせる。魔法契約書とはなんだ?母親もしらないようだ。


「魔法契約書とは魔法で作られた契約書でございます。魔法をかけられていますので契約を破れば契約書に書かれているペナルティーが必ず発生します。例えば契約を破れば死ぬと書いてあれば死にます。」


わかりやすい説明ありがとう。なるほど確かに口約束などよりよっぽど信用できる。魔法契約書に母親と目を通す。


契約書に書かれた内容は

〇リッカがウォンテ家の庶子であると公言しないこと

〇エイミーとリッカはウォンテ家の一員になることはないまた一員であると名乗らない

〇エイミーとリッカに金銭的、物資的援助をしない


こんな感じのことが書いてある。


「そもそもここの一員だって言う必要がないし金に困ってない。」


「しかし!私は君の父親だ!」


「今まで何もしてこなかったくせに父親づらするの?女が1人きりで子供を育てるのがどんなに大変なことか知らないでしょ?あんたがしてることは迷惑だ。ここに付け加えてよ。今後ジェラールは私的にリッカとエイミーに関わらないってさ」


「付け加えてちょうだい」


初老の執事が魔法契約書に書き足す。書く際にマナを込めているようだ。



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