第27話マルフード領内⑱
どうやって目の前のごみを殺してやろうか?らくな死に方はさせない。怒りで殺気がコントロールできない。店の中にいる人間は恐怖で動けないようだ。目の前のごみは情けなく腰を抜かせている。
ごみを殺そうと手を伸ばす。あと少しで手が届くところで突然背後に気配を感じる。母親を抱きかかえて横に飛ぶ。元いた場所には茶髪の女騎士がいた。ごみを背後に庇っているからごみの騎士なのだろう。直前まで全く気配を感じなかった。魔法を使っているのか?
母親が力強く抱きついてくる。それでハッとして殺気を抑える。ごみは周りの殺気が収まったことに気づいたのか足をガクガクさせて
「へ、へい、平民風情が、ぼ、僕に何をしゅた!」
と威勢よく吠えてくる。
「おやめ下さい。ジュード様は貴族としての品格を考えてください」
「うるさいっ!そこの平民は領主のむすこである僕に膝をつかせたんだ!バベット!そこの平民をひっ捕らえろ!」
茶髪騎士はごみの言葉を無視してこちらを睨みつける。
「君の情報は聞いている。かなりの危険人物であるとな。君と君の母君は拘束させてもらう。」
は?何を言っているんだ?先にやったのはそいつだし母親を殴ったのもそいつだ。なぜ自分たちが拘束されなくてはならない?この騎士を殺すのは骨が折れそうだが出来なくはない。ウォータードラゴンの方がずっと強かった。
そんなことを考えていると母親が自分から離れて騎士に向かい合う。
「騎士様。確かにこの子は店の方々とそちらのご子息を怖がらせてしまいました。ですが先にこちらに暴力をふるったのはご子息です。そしてこの子が怒った原因は私です。拘束するなら私だけにしてください。」
母親が自分を後ろにして騎士に言い放つ。母親が原因ではない。ごみが舐めた態度をとったせいだ。
「騎士様は自分のことを拘束できると思ってるの?そっちがやる気なら手加減できないよ?」
茶髪騎士だけに殺気を放つ。こちらを睨みつけてはいるが足が後ろに下がっている。茶髪騎士の支線が一瞬だけ自分の後ろに向いた。
真横に避ける。まだほかにもいたのか。そいつを警戒していると
「動くな!」茶髪騎士が叫ぶ。母親の首に短剣を突きつけ腕を拘束している。しまった。新たな騎士に気を取られている間に母親を人質にされてしまった。
「武器を捨てて手を頭の後ろにまわせ!早くしなければ母親の命はない!」
武器を捨て手を頭の後ろに回す。もう1人の騎士が手錠を持って両手首を後ろで拘束される。
「騎士って何もしてない一般人を人質にとる仕事なんだね。しかも子供が怖くてね。ほんとに騎士なの?メイドの間違いじゃない?」
ムカつくので挑発しておく。茶髪騎士は顔を真っ赤にして自分を足で蹴り飛ばそうとした。バリアをつけているからその程度の攻撃虫が止まったようなものだ。
「くそ!」
「やめて!この子に手を出さないで!!」
母親が茶髪騎士の腕の中で暴れる。
「バベット。いい加減にしろ。それに子供が怖くて人質をとったのは事実だ」
自分の後ろの騎士はやけに素直だな。だからといって許しはしない。真面目そうな顔をした男騎士だ。
「フィルマン!しかし「いい加減にしろ!今はこいつの領主館に運ぶのが先だ。ジュード様の今回の行動は領主様に報告します。」
「なぜだ!ぼくは生意気な平民がいたから!」
「あなたのしたことは立派な犯罪行為です。貴族であればなんでも許される訳ではありません。」
真面目騎士は茶髪騎士やごみを叱咤する。次に月の女神にいた従業員や客に頭を下げ謝罪した。
「この度は本当に申し訳ありません。あとのことは領主様預かりとなりますのでどうかご容赦ください」
領主の名前を出してしまえば誰も何も言えなくなるだろう。真面目騎士と茶髪騎士は自分と母親を拘束しながら馬車に乗り込んだ。ごみはまだぶつくさと文句を言っているが面と向かって言う勇気はないようだ。
しかし面倒なことになった。母親を連れて脱出する手段を考えなくては。
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