第26話マルフード領内⑰

母親とそんなやり取りをしているとクリークがハンカチで涙を拭く仕草をしている。嘘泣きなのはわかってるぞ。


「親孝行してるな!」


クリークが頭を撫でてくる。…お前に撫でられてもな。手を振り払って先程受け取った金貨をだす。


「毎度あり」


買った素材のをマジックボックスの中に入れる。宿に帰ったら母親に渡そう。残りの金貨は90枚くらいだ。


「金貨を入れる袋をおまけにちょうだい」


プリチーフェイスでオネダリする。高い買い物をしたんだ。これくらいいいだろう。クリークは気味の悪いものを見たような顔をする。失礼な。


「これはどうだ?」


思ったより上等なものをくれた。黒いウエストポーチを貰った。その中に金貨を半分くらいいれる。残りを母親に渡す。


「あげる」


「ダメよ。それはリッカが稼いだものよ。それに今日だって大きい買い物をしてくれたでしょう。自分のために使いなさい。」


「だから母さんにあげる。母さんが我慢するとこ見るの嫌いだから」


母親の手を握る。少しかさついてる。ハンドクリームってこの世界にあるのかな?それでも母親はしぶる。仕方ない伝家の宝刀を出すか。母親に抱きつき泣きそうな声で

「お願い母さん」


「〜〜!!可愛い!!」


「受け取ってくれる?」


「もちろんよ!!」


可愛いは正義つまり自分は正義だ。


「なんだこれ」


クリークは呆れているようだ。そうだろう。子離れができていない母親というのは呆れてしまうよな。


クリークの店をあとにする。布を売っている店に向かう。


マルフードの高級店が集まる場所に行く。ここでは貴族や商人が行来している。さすがに場違いすぎたか。目的を果たしたらさっさと帰ろう。


月の女神という服屋に来た。基本的には服はオーダーメイドだ。平民は中古品を買ったり家族に作ってもらったりする。


従業員らしき女性が出てくる。明らかに平民が入ってきたのに表情に出さないのはさすがプロだと感心する。


「アリアドネの糸といくつか布を見せてください」


「かしこまりました。こちらにおこし下さい」


豪華なソファーに案内される。体が程よく沈む。母親が従業員と必要なことを話している。服のことに関しては全ておまかせする。

店の中には何組かの客がいた。ドレスを作っている女性やタキシードを作っている男性、サイズを測っている子供なと様々だ。


暇だなー。母親を対応している従業員とは別の従業員の男性が話しかけてくる。


「失礼致します。お飲み物はいかがですか?」


「何がある?」


「紅茶やコーヒーやオレンジジュースがございます」


「紅茶で」


「かしこまりました」


男性が頭を下げて奥の部屋に入っていった。母親が話を終えたようで自分の隣に座る。


「ふぅ、いい布のがあったわ。きっといいものを作るわ!」


新しいことにチャレンジすることが嬉しいようだ。よかったな。

男性が紅茶を2つ運んできた。いい香りだ。紅茶は香りも味も楽しめる。ダージリンの香りだ。


「他に欲しいものは?」


「ないわよ。リッカは欲しいものは無いの?」


欲しいものか。美味いものが食べたいな。食事くらいしか楽しみがない。自分は食い意地が張っているかもしれない。


女性の従業員が布や糸を持ってくる。あれがアリアドネの糸か。美しい金色の光沢を放っている。布は黒とネイビー色の2つが棒に巻き付けられている。あれはなんというのだろうな。


「お待たせしました。こちら3点でお間違いないでしょうか?」


「はい、これで間違いありません」


「ありがとうございます。金貨8枚でございます。」


高い。まぁそれだけいいものを取り扱っているのだろう。母親が会計をする。ここで自分が出すとまた揉めそうだから今回は何も言わない。また稼いでくるさ。

帰ろうとすると男性の従業員が扉を開けた。躾が行き届いている。店だ。


「いつからこの店はこんな貧乏人が出入りするようになったんだ!」


声のするほうを振り返ると自分達を指さして叫ぶ男児いた。服装的に貴族の子息だろう。関わると面倒くさそうだ。さっさと帰ろう。無視して扉の方を向くと男児が近づいてきて自分の肩を思いっきり掴む。バリアをかけているから待って痛くない。


「何か用?」


「貴族の言葉を無視するとは生意気なやつだ!平民ごときが!」


周りの従業員や子息のお付の者は止めるに止められないといった感じだ。それなりに高位の貴族かもしれない。この場をどうやって切り抜けようか?こいつを殴って終わらせるのは簡単だ。だがその後がめんどくさい。


考え込んでいると男児は無視されたと思ったのか顔を殴ってきた。面倒だから殴られてやるか。すると母親が自分とやつの前割り込んできた。


《ゴッ》


鈍い音が鳴る。バリアを張っているから全くダメージはないはずだ子どもに殴られた程度屁でもない。だがこいつは自分の母親を殴ったのだ。


「は?」


辺りに殺気がもれる。もうどうでもいいからこいつを殺そう。殺ったあとに急いでこの都市から出て行けばいい。


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エイミー(主人公の母親)は親バカです。

主人公はマザコンです。母親のことはもちろん好きですがそれ以上に今まで一人で育ててくれたことに感謝しています。恩を返したくて仕方ないようです。

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