第14話マルフード領内⑤

「母さん今後の予定をたてよう」


椅子に座って母親に声をかける。


「えぇ、そうね。これ下の人から貰ったの。飲みながら話しましょ」


母親からコップを受け取る。この世界のコップは陶器ではなく茶色の泥を固めたような歪な形のものだ。金持ちは知らないがな。


?これはりんごジュースだ。果実は高価なものの部類に入るからジュースとなるとめでたいことがある時に飲むものだ。


下のおっさんうちの母親の好感度をあげたいのだろう。りんごジュースごときでコロッといくチョロい女性ではないぞ。


「あら!美味しい。ラッキーね!」


…チョロいかもしれない。


まぁ確かにラッキーだ貰えるものは貰っておこう。


美味い!この世界で甘いものは貴重だ。りんごの甘酸っぱい甘みが口の中に広がる。夢中で飲んでいると母親が微笑ましい顔でみてくる。


「自分はこれから魔物を狩って直接店に売り込もうと思う。母さんはどうする?」


「村に帰るのは無理よね?」


「難しいと思う。多分これから魔物の量は増えると思うし当分はここを拠点にするのが現実的かな」


ログから事前に魔物の動きがおかしいことは聞いていた。もしかしたらこれからもっと魔物は増えるかもしれない。そんな状況で村に帰るのは自殺行為だ。


「そうよね。だったらここでお針子の仕事をしようと思っているわ。なかったら給仕の仕事でもなんでもやるつもり」


母親は村でもお針子のような仕事をしていた。今自分が着ている服も母親が作ったものだ。糸の処理がしっかりされているし動きやすい。他のものを着たことがないからはっきりしたことは分からないがお針子の仕事は十分出来ると思う。


「わかった。ただやりたくない仕事はしなくていいから。自分の稼ぎもそこそこになると思うしゆっくりすればいいよ」


「大丈夫よ!ありがとう。」


これで方針は決まった。自分は魔物を狩る。母親は仕事を探す。自分がすることは変わらないがな。


ぐぅ〜


む、腹がなった。育ち盛りの腹は串焼き程度では膨れないということだ。窓から覗く空はもう暗い。そろそろ夕食の時間だ。


「夕飯を食べに行こう」


「ふふっ。美味しいものがあるといいわね」


下に行くとそれなりに人で賑わっている。空いている席に座ると給仕の女性が声をかけてくる。赤毛でそばかすの愛想の良さそうな女性だ。


「いらっしゃい!なんにする?」


「おすすめで」


「同じものをお願いします」


自分と母親は本日のおすすめにした。あたりだといいな。


周りは男が多い。冒険者らしき奴らもちらほら見れる。ちらちらと母親を見ている視線が気になるな。コブ付きだから声をかけづらいのだろう。


そんなことを思っていると1人の酔っぱらいが母親の方に腕をかけてくる。


「なぁ姉ちゃん向こうで一緒に飲むぜ!」


「ちょっと!やめてください!」


酒臭い匂いがこちらにまで漂ってくる。自分の目の前でこんなことをするなんていい度胸をしているな。


椅子から立って男の目の前まで来る。


「あ〜坊主お前のママは俺と一緒に楽しいことをするから家に帰ってな」


「おい!そろそろやめろ!」


男の仲間らしき奴らが止めに入っている。止められたところでやめる気はなさそうだ。


「おいおい!いい女がいたら声をかけるのは当然だろ〜?」


「ねぇおっさん。」


「何だ〜?ぼう「酒くせぇんだよ!カスが!」」


男の顔面を殴りつける。スッキリしたな。ゴミ掃除は得意だ。周りのものを壊さないようには加減した。大丈夫だろう。


周りの騒がしさが一瞬にして静まる。少しすると

「坊主!やるな!」

「やるじゃねーか!」

「カスは生きてるか?」


笑い声や男を心配する声が聞こえてくる。加減して殴ったから死んではない。男がよろよろしながらこちらを睨みつけてくる。鼻血が出ている。鼻が折れたかもな。


「こ、このクソガキがァ!!」


そんな大ぶりで当たるかよ。血が昇ってるせいで冷静に考えられないのだろう。男の攻撃を避けつつ足を引っ掛けて転けさせる。見事に転がったな。


面倒だから黙らせておくか。


身体強化を使いながら男に素早く近づき腹に1発入れる。ぐったりして重みが腕に伝わってくる。気絶したか。のちのち慰謝料うんぬん言われたくないのでヒールをかけておく。これで衛兵に訴えようと傷自体がないのだから証拠がない。まず6歳の子供にボコボコにされたことを訴えることが出来ればの話だが。


「こいつ持って帰って」


男の仲間に言い放つ。飯はまだかな。

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