第5話異世界発見

「やっと、見付けた!やっと会えた!」

初めて見る精霊に驚いていると、男の胸ほどの背丈をした、幼い女の子が、可愛らしい高い声で嬉しい、嬉しいと男の近くを飛び回りだしたのです。

「えっと、その精霊さんの声が聞こえて、湖まで誘われたんだけど、ここにいる皆が精霊さん?」

「うん!草と木が見たこともない綺麗なものがあるよって教えてくれたから、みんな集まって探していたの!」

あたりには興味津々でこちらを見つめる純粋ないくつもの瞳。十数人ほどの不思議な存在が男と話したそうにジリジリとすり寄り様子をうかがっているのです。

「えーと、さっき話してた大人?の人はいないの?」

「さっきは皆で一緒になってたから、ここにいる皆がさっきの精霊さんだよ!」

「……?」

この世界のことを何もわからない男は初めて見る存在と上手く対話できずに困ってしまいました。

「ねえねえねえ、貴方はなあに?」

「?何って名前ってことかな?」

「名前があるの!」

「私も欲しいー」

「ずるーい」

初めに話しかけてくれた女の子と男が話していると、精霊には名前がないのか名前の話になると何人かが騒ぎ出しはじめました。

「話がすすんでくれないなぁ……」

「なら、貴方の名前を教えて!」

「僕にも名前はないや、みんなと一緒かな?」

男は自分の正確な名前を知ることができなかったのです。いくつか呼ばれる呼称はありましたがどれも侮蔑的で聞いた周りが不快になるようなものばかりでした。

「そっかーなら一緒にこの森で良いことして大精霊様から名前つけてもらおうね!」

(偉い人?かな?)

この森を、世界を何も知らない男では女の子が話す言葉の意味がわからないときがあるのですが、受け答えが幼い子供と変わらない少女にどうにも上手く質問できません。

「ねえ、そろそろみんなとも話そうよ」

「え?」

周りを見るとさっきまで離れていた他の子たちが、すぐそこまで近付いており、何を聞こうかと、興奮した様子でした。

「上手く答えられるかわからないけど、聴きたいこと聞いてくれたら、頑張ってみるよ?」

男が答えると静かで綺麗な湖から、子供達の明る愉快な遊び場に変わってしまいました。

飽きっぽい子は二、三個程質問すると飽きて湖の周りや上を勢いよく飛んで追いかけっ子を始めだし、好奇心の強い子など一つの質問に答えようとするとその中のわからないことを次に次にとどんどん質問が増えていった。

「狼さん?名前がついたの!?いいなぁー」

湖までついてきた狼がいつの間にか狩りにでも行ったのか見当たらなくなったと呟けばやはり名前に強く反応しました。

「精霊さんと一緒で皆の名前だよ?一人の名前じゃないよ、皆はどうやって呼び合うの?」

「?目があったらわかるし、遠かったら草木にお願いして呼んでもらうよ!」

「大精霊様ぐらいすごくないと名前貰えないのーでも、大精霊様名前で呼ぶとすごく怒るんだよー」

「え?なんで?」

「仲間はずれが嫌なんだよ、大精霊様になれる子は決まってるし、特別なんだから仕方ないよねー」

「いつか会ったときのために覚えておくよ」

「駄目だよ!おんなじ精霊同士は名前で呼ぶと拗ねるけど、他の種族には怒るよー」

「どうしろと……」

「わからない!いっそのこと聞いてみたら、大精霊様に聞いといてあげるからまた明日も遊ぼうね!」

「日が暮れたら大変なんだからね!湖までは草木にお願いして迷わなくなると思うけど、夜は寝ないと駄目だからまた明日!」

精霊達が一斉に森に溶け込むと湖は静かで厳かな場所へと戻っていき、いつの間にか隣にたたずむ二匹の狼が立ち上がり森にわずかにできていた獣道の前でこちらを見てきます。

「一緒に帰ってもいいの?」

何も言わずじっとこちらを見つめている瞳は、恐ろしさなど感じず、守ってくれるんだという安心感が湧いてきました。

「よろしくおねがいします。皆のところへ連れて行ってね。」

待ってくれている狼達の側により一撫ですると、もと来た道を日が暮れる前に帰っていきました。

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世界が優しい聖女様 @NONOsan2525

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