第3話異世界生活

途方に暮れた男が落ち着きを取り戻し再び考え出すとまず水と食料がなくてはどうすることもできないと思い至ります。

「何が食べられるかは皆目、見当がつかないんだが……とりあえずは水か?」

漠然と考えをまとめた男が動こうとするとすり寄ってきた二匹の狼が男の前に立ちました。

「えーと、移動したいんだけど?」

狼は頭で男を押して洞窟の方へ向かわせます。

狼がなすがままに洞窟へ足を運び中の様子を確認するとわずかに鼻につく獣の独特な臭いがしていました。

「ここに住んでるの?」

狼への恐怖は男から無くなっており、品の良い顔つきや柔らかな毛並みの虜で、遠慮なく撫で回していました。

−クーン−

狼も男への警戒は全く無く、二匹以外も周りを囲み落ち着きを取り戻しています。

「えーとね、そろそろお腹が空くし、喉も乾いちゃうから水とか探したいんだよ」

狼が可愛らしくじゃれついて、撫でてやると心地よさそうになく。男のぽっかり空いた、悲痛な心が少しだが、暖かな優しさで埋まていきます。

−がさがさ−

「わ!」

洞窟の外から騒がしい物音がして、何かと慌てて見に行くと見たこともない木の実や魚が落ちていたのです。

「これは?」

当たりを見渡せば、狼に怯え慌てて逃げていった小さな生き物や鳥が木の上や草の陰からこちらをじっと見つめおりました。

「これはお前たちが?」

近づいてみようとすると、狼達もついて来てしまい一斉に動物たちが逃げ出してしまいました。

「あ……」

−キューン−

動物たちに逃げられ悲しい声を上げてしまうと、つられて狼も悲しそうな声を出しました。

「仕方ないよな、お前たちは優しいけど、強いし、怖いもんな」

−クゥー−

落ちていた果物から瑞々しく美味しそうな木の実を一つ手に取り、食べても問題ないのだろうかなど躊躇うことなく齧り付きました。

「甘くて美味しいな。こんな幸せ初めてだ……やっぱり神様だったのかな?」

男は自身が幸福に包まれており、たくさんの恵みが与えられていることで、不思議な空間で話した何かが超常的なものであったと確信していました。

「本当に?……いつまでも?……ずっと?」

傷ついたまま癒えぬ心の痛みに怯え、再び死んでしまおうかと男は考えてしまいました。生前にたった一度だけ喜ぶことができた自らの死を今幸せなうちに行えばとても幸せなことなのではないのかと考えてしまったのです。

−クゥーン−

狼が優しく寄り添う。

「この食べ物がなくなる前に、今お前達がいるときに」

−クゥーン−

「っ!」

下を向き思い詰めた男がたくさんの狼が鳴いていることに気が付き顔を上げました。

男の悲しい感情に狼達が周りを囲みじっと見つめる訴えていたのです。

「なんでもないよ」

自身を見る真っ直ぐな目によって男の考えは吹き飛び、慌てて囲んでいる狼たちを撫でてやります。

「いまはまだいいんだよ」

優しい狼達によって、男が死を望まなくなるのは少し先の話となります。

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